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【本編完結】お前よりも運命だ【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
番外編

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06 bonus track 小さくて大切なあなたに、名前を贈る夜

ディアマンタの姉、ルビナのお話です。本編中に出てきた精霊ちゃんとのエピソードになります。

 頬杖をついて窓から外を眺めていると、私の小さなお友達がふわりと降り立ちました。

 紅の目と髪をした、可愛い精霊さんです。この子が私と行動を共にするようになって、随分と経ちます。


 ルビナ、うれしそう


「あら、そう見えますか?」

 精霊さんたちにはごまかしが効きません。それでも疑問形で尋ねてしまうのは、私の癖なのかもしれません。


 みんなとおはなしできたから?


「ええ、みんなにあなたを紹介できたから」


 しょ、しょうかい


「そう。あなたは私のとてもとても素敵なお友達ですから」


 うれしい……


 本来であれば、昨日の夜会後に大公妃閣下の湯浴みをお手伝いし、不寝の番をして今朝久しぶりに帰宅する予定でした。


 夜会中に政変が宣言されたと聞かされたのは夜会の終了予定時刻を過ぎてしばらくした頃でした。

 ……私にはその前に、精霊がよくわからないなりに知らせてくれていたのでとんでもないことが起きたというのは把握していたのですが。


 そこからは大騒ぎです。大公妃閣下のお着替えだけは貴族牢でさせていただきました。そうしないと色々とお手入れが大変ですので。


 その後、侍女長にしばらく仕事は休みになると言い渡され、帰ってきたのが今朝でした。その後に少し仮眠を取って、イオルム殿下やリリス妃殿下への御目通りが叶ったのです。


 久方ぶりに帰宅しますと、精霊たちの数が増えていました。

 そして、ディアマンタの髪飾りから、感じたことのない精霊の気配がいたしました。私がこちらに帰れない間に、メルシエ商会、メルシエ家にも大きな変化があったのだと理解しました。


 ……まさか政変に少なからず関わっていたとは思いもよりませんでしたが。

 そしてこの子が私のことを護っていてくれたとは夢にも思わず、それも私にとって大きな驚きだったのです。


「お城でも、あなたが護ってくれていたのですね」

 そう問いかけると、小さなお友達は肘をついた私の腕に寄りかかりました。一瞬だけこちらを見て、もじもじと手を動かしています。


 へんなもやもやがいっぱいだったから、ルビナものみこまれたらたいへんだとおもったの


 もやもやなんて私には見えなかったけれど、きっと精霊たちには見えていたのでしょうね。そういえばユジヌ城で精霊を見る機会も減っていたかもしれません。いつもこの子がそばにいてくれるので深く気に留めていませんでした。


「そうでしたか。本当にありがとうございます」


 ……ど、どういたしまして


 あら、まだもじもじとしているわ。何かあったかしら……ああ、そういえば。

「イオルム殿下が、あなたにお名前をと仰っていましたね」


 うん


 その話をしたかったのでしょう、小さなお友達はこちらにまあるい目を向けました。

「お名前をつけても良いのかしら」


 うん、ルビナとわたしのひみつのなまえ


「真名と別に、皆さんに呼んでもらうお名前をつけても良いというお話でしたね」


 うん


「一つ確認したいのだけれど、私たちがフェリティカに行く時、あなたも来てくれると思っていて良いのですよね?」


 もちろんいく……いっちゃ、だめ?


「いいえ、あなたが来てくれるほど心強いことはありません。ありがとう。頼りにしていますね」


 うん、がんばる


「それでは名前を決めましょう。……あら、どうしたの?」

 小さなお友達が植木鉢の影、その一点を見つめています。


 ……のぞいてる


 あっばれた

 みつかっちゃったー

 あわわわわ


 まあ、精霊さんたちがいたのね。

 見つかって慌てているわ。


 ひみつなの


 でもしりたいもーん

 おしえてよー


 ひみつ


 精霊さんたちは好奇心が旺盛ですものね。でも、ふたりだけの名前をつけようというお話は日中にきちんとみんなの前でしています。


「……ごめんなさいねみんな。ちゃんとみんなに呼んでもらえる名前を決めたら、伝えますから」


 はぁい

 ざんねん

 ひみついいなぁ……


 精霊さんたちがいなくなると、小さなお友達は少し肩を怒らせて、辺りに火を灯しました。


「あら、これはなんですか?」


 けっかい


「結界?」


 ルビナは、わたしとだけ


 私の方を見て、小さなお友達は拗ねた表情を見せました。


「ふふふ、やきもちやきさんなのですね。

 …….そうだ、決めました。あなたの名前」


 ほんと?


「ええ。お耳を貸してくださいな」


 小さなお友達は、しずしずと私のそばまでやって来ました。


 どきどきする


「ええ、私もドキドキしています。よろしくお願いいたしますね。……」



***



 翌日、ディアマンタとドゥメルの鍛錬をなさっているイオルム殿下とお会いしました。


「イオルム殿下、昨日はご助言を賜りまして誠にありがとうございました」


「ううん、いいのいいの。ふふ、名前をつけてもらっても相変わらず恥ずかしがり屋さんだね?」


 イオルム殿下が私の背後をのぞき込むような仕草を見せると、後ろにいたその子は、こそっと顔だけこちらに覗かせました。

〈イオルムでんか、おはようございます。きのうはありがとうございました〉


「おはよう。素敵な名前をつけてもらったね」


 あら?

 やはり同じことを思ったようです。

〈……わかるのですか?〉

 と、イオルム殿下に尋ねました。


「ふたりだけの、って言ったくせにごめんね。どうしても僕はわかっちゃうんだ。もちろん、本当の名前は誰にも言わないよ」


〈はい、ありがとうございます〉


 不思議ですね、わざわざ結界を張ってくれて、こっそり耳打ちして伝えた名前のはずですのに。


「殿下には、おわかりになるのですか?」

「あーうん、わかっちゃうんだ。これは不可抗力。ごめんね、僕もいまいちコントロールできなくて。ちゃんと秘密にしておくからね」


 その瞬間、直感のようなものが走りました。どうやら、殿下には知られてしまうのも致し方ないことのようです。


「……ありがとう存じます。私たちにもどうか、ディアマンタたちのように力を合わせるためのご助言を賜れますとこの上なく光栄にございます」

「ふふ、ルビナ殿も鋭いね。メルシエの人たちはみんな鋭いから、油断するとバレちゃうな。……僕の秘密は、内緒だよ?」

「かしこまりましてございます」


 イオルム殿下は静かに微笑まれ、そして私たちに簡単な鍛錬の方法を教えてくださいました。

「フェリティカに行ったら、魔道具師塔にいる刻光(こっこう)のチルギ様を訪ねて、この子が宿るのにぴったりな魔石を見繕ってもらってね。そしたら、僕が装身具にしてあげる」


 そう仰ると、大きな水の玉を作るディアマンタたちの元へ歩いて行かれました。


〈ませきだって〉


「ええ、あなたに相応しいものを見ていただきましょう。楽しみですね、スピア」


 愛称で呼びかけると、赤い小さな精霊さんは少し堂々とした表情で私にこう返したのでした。

〈うん、ルビナ〉

短編がランキング上位に入ったことにより他作品にも興味を持っていただき、このおまうめにもたくさんの評価とブックマーク、そしてリアクションを頂戴しました。

おかげで完結済作品ランキング入りも果たすことができました。本当にありがとうございます。

番外編は引き続きスローペースで投稿していきますので、お付き合いいただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いいたします!

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