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【本編完結】お前よりも運命だ【番外編不定期更新中】  作者: アカツキユイ
番外編

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04 extra track やらかし殿下の後始末

第一部第三章06-08話の裏話、補完になります。

おまうめ本編では名前しか出てこないルルティアンヌとユークリッドの話です

 ユークリッド殿下がシルヴァロンの森に雷を轟かせた後。

 あたしとユークリッド殿下は、魔獣がたくさん集まっていた草むらに降り立った。



「もう! 久しぶりだからって勢いよくぶっ放して!!」

 あーあ、たくさんの魔獣が黒焦げになってる。どれだけ景気よく落としたんだろう。


(わり)(わり)い、でも森を燃やさなかったんだから良しとしようぜ、ルル」

 わかっちゃいたけど、全くこの人、悪びれている様子がない。

「ダメに決まってるでしょう!」


 ユカ様ってばヨランド様から届いた人為的スタンピードのお知らせを聞いて、急な思いつきでシルヴァロンまで来ちゃうんだから。しかもいつもの雷魔法で転移すると森に雷落としちゃうから、今回は普通の転移魔法で行こうなんて言ってここまで来たくせに、結局雷落とすし!この大味皇子!


 結界で範囲を限定したとはいえ、かなり派手に雷を落としていたから、銀灰茸が大丈夫か心配だな。精霊たちもいたずらに消滅していないと良いけれど……。

 黒焦げになった一帯を見回したら、ここにあってはならないものの存在に気付いてしまった。



「人が倒れてる!?」

「マジで!?」



 急いで倒れている人に駆け寄る。女の子!しかもあたしと歳が近そう。給仕の服を着ているから、使用人養成学校の生徒かしら。

 軽く女の子の身体に手をかざして状態を確認する。


「あぁ……眼が完全に煮えちゃってるし鼓膜も破れてる……これ、直撃はしてないですけど落雷の衝撃でふっ飛ばされてますよ? 全身骨折してるし内蔵も損傷して……あわや人殺しですよ殿下」

「あ? あわやってことはまだ生きてる? はー良かった、余計な人殺ししてなくて安心安心」


 くっそこれだから称号持ち(ひじょうしき)は! あたしもだけど!!

「何言ってるんですか、今も瀕死!! あたし治癒魔法下手くそなんですから、ユカ様が早く治してください」


 怒鳴りつけると、ひらひらと手を振りながらユカ様がこちらに歩いてきた。

「わーってるって、任せな」

 そして女の子のそばにすっとしゃがみ込むと、目を閉じて治癒魔法を発動させ始めた。大丈夫だとは思うけど、あたしが近くにいることで妨げにならないように、少し距離を取る。


 はああ……もうノリと勢いで生きてるあの脳筋皇子どうにかなりませんか。

 これでまた魔法に関してほぼオールラウンダーっていうのが本当に始末悪い……。



 ため息を吐きながら治癒魔法の様子を眺めていると、どこからともなく精霊たちが集まってきた。


 ルルー

 ルルティアンヌー


「ん?精霊さんたち、どうしたの?」


 あのねー

 あのこのけっかいこわしちゃったのー

 ねらわれてたからー

 おしらせしようとおもってドングリなげたんだけどー

 ぜんぜんきづいてくれなくてー



「……」

 忘れてたけどここにもいた。悪意なくこういうことをやってのける存在が。


 きづいてほしくてこわしたのー

 そしたらへんなけむりがとんできてー


「変な煙?」


 そうなのー

 まじゅうがすきなにおいがするけむりー

 ひゅーんって


「ヒューンってことは、たぶん矢につけられていたのね。それで?」


 あのこがもりのなかににげこんでー

 ぼくたちのおうちをみてにっこりしててー

 うれしくなったからあそんでもらいたくてー

 かみのけひっぱったりしたんだけどー


 あとませきになかまがひとりやどっててー

 そのこにもこえをかけたんだけどー

 おんなのこがびっくりしてにげちゃってー


「……それは逃げるでしょ……」



 おそらく彼女には精霊たちは見えてなかったと思う。

 それがいきなり髪を引っ張られたりしたら驚いて逃げちゃうのも仕方ない。


 そしたらくさむらにでちゃってー

 そしたらジュリセンワシがあげあげでー

 ふぅうう〜って!


 ふうううう〜〜って!!


 そしたらほかのまじゅうたちもー

 あげあげであつまってきちゃってー


「……やることなすこと裏目に出てる、っていうらしいよ、そういうの」


 それでおんなのこぐるりとかこまれちゃってー

 みんなでいそいでまもりにいったのー

 おんなのこがたすけてーっていったらー

 どーん!ばりーん!ってなったのー

 あのこをまもってたなかまたちがきえちゃったー


「……そっか。でも護りたいと思える人だったのね?」


 そうなのー

 ぼくたちいたずらしちゃったからー

 せめてものー

 つみほろぼし?だっけ?


「うん、罪滅ぼし、合ってるよ。そっか、あの子が死ななかったのはみんなが護ったからなんだ。護ってくれてありがとう。新しいあなたたちの仲間も、きっとすぐ生まれてくるよ」


 よかったー

 よかったねー

 なかまもきっとすぐうまれるねー




 治癒魔法をかけている殿下の様子を見る。さすが、出力がでかいだけあって早い。

 問題はどれくらい細かいところまで気を配っているかだけど……大味のくせに後遺症とか障害とかほとんど残さないの、ホント訳わかんない。



 ルルー

 あのねー


「ん?なに?まだあるの?」


 このまえルルがつれてきたおんなのこー

 ぱーりーでピンチだったんだけどー

 あのこがたすけてあげてたのー

 なんかキラキラしたのわたしてたのー

 そしたらおんなのこヒュンってきえたー


「……そう、助けてくれたんだ。優しい子なんだね。みんなが護ろうとした理由、わかった気がする」


 そうなのー

 やさしいこー

 それなのにおはなしできなくてかなしいー

 わるいやつがひゅーんってしてたのにー

 おしえてあげられなかったのー


「悪いやつ、そういえば見つけた?」


 みつけたー

 しるしつけたー

 もうこのもりからにがさないー

 しょす

 しょすー


「それは、この森のみんなで決めてね?」


 あいつらのせいでー

 ホノオグマたちもしんじゃったー

 ジュリセンワシもしんじゃったー


 ゆるせない

 ゆるさない

 にがさない


「……そうね。大切な仲間だもんね。教えてくれてありがとう!もうすぐあの子も治るから安心してね」


 よかったー

 よかったねー

 ルルありがとうー


「こちらこそありがとう!」




 ユカ様の元へ向かうと、ちょうど治癒魔法を締める動きをしていた。

 殿下が手を下ろして目を開けると、あたしを見て小さく笑った。


「これで平気だろ。めんどくさいから雷以外で怪我してたところも全部治しちまったけど」

「……大味……あ、そうだ、それよりユカ様」

「どした」


 たった今、精霊たちから聞いた情報を伝える。

「矢を放った男は森の理にのっとって処すって言ってました」

「……まあ仕方ねえなあ。きっとそれ以外のやつは人間が捕まえただろうから、人間側にはそれで我慢してもらうしかねえだろ」

「そうですね。ちょっとこれは、やりすぎだわ」


 穏やかな呼吸をして眠っている女の子のそばにしゃがみこむ。

「ユカ様。この人、この前あたしがシルヴァロンに連れてきた女の子を護ってくれたんだって。それもあって、ユカ様の雷から全力で護った子たちがたくさん消えたって」

「そうか。でもどうせあいつらは嘆いちゃいないだろ?」

「はい、清らかな森には、すぐ新しい精霊が生まれますからね。……生と死は、万物に等しく訪れる」


「そうだな……あ、こいつメルシエ家の人間か」

「……メルシエ家?」

「メルシエ商会の親玉がメルシエ伯爵家。メルシエの連中が目を光らせてるから、ユジヌは中央が腐っても誇りを持っていられる。高潔のメルシエだ」

「なるほど。じゃあこの子もきっと、そのとおりに動いたってことですね」

「そういうこった。メルシエ家は民の大切さをよく理解してる、だからこそとっさに庇ったんだろ」


 女の子の胸元に、小さなペンダントが光っている。

 あ、これがさっき精霊たちが言っていた魔石だ。

 ペンダントトップを手に取ると、ごくごく小さな反応がある。

 ……この子も、全力で護ろうとしたんだな。


「高潔のメルシエ、か」

 地面に横たわり眠っている女の子。偉いね、あたしと歳もあまり変わらないのに。

 誰かのために、みんなのためにそこまでできるなんて、眩しいな。


 あなたはきっとこの先も、同じようなことがあれば自分のことなんてどうでも良くなってしまうんだろう。

 でも、あなたはきっとそんなことで命の灯を風の前にさらしてはいけない人。


「あの子を助けてくれてありがとう。あなたに幸せがありますように」


 女の子の前髪を上げて、額にそっとキスをする。

 わずかに女の子の身体がピンク色に光った。



「さあユカ様帰りましょう!まずはアグナ様のところでお説教からです」

「は?なんで俺が説教されんの?」

「そういうところですよ」


 ユカ様が転移魔法を展開する。パリパリと辺りに電気が走り始めた。


 あのこにぼくたちがみえるようにしようー

 こえもきいてもらおうー

 こんどはきづいてもらおうねー


 ねー!!


「……え、ちょっとあんたたち……っ!」


 止めようと一歩足を踏み出すと左手をぐっとつかまれる。

「いくぞ、ルル」


 そして抵抗するする間もなく、あたしと殿下はアグナ様の森へ転移した。

 ……精霊たちが張り切った結果を知るのは、それから少ししてからのこと。

ルル「本当にユカ様は魔法のかけ方が大ざっぱすぎる!」

ユカ「仕方ねえだろ苦手なんだよ」


ルルティアンヌとユークリッドは、外伝にあたる「君のために僕は人を捨てた(きみすて)」にそこそこ出てきます。

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