第20話 キラーキラー2
パンフライ街を出て30分、日は沈み始めている。
「暗くにゃってきたにゃ」
普段なら野営の準備を始めるタイミングだが、今は状況が違う、一刻を争う。
「このまま行けないか? 道なりに進めば迷うことはないだろう」
「行けるよ、それに小龍がいつ襲ってくるかわからにゃいのに、こんにゃひらけた場所で野営にゃんて怖くてできにゃいよ。夜目の利くミーがこのまま先導するからしっかり付いてきてよ」
「わかった、頼む」
さらに30分経過、あと1時間ほどで到着か、今のところ小龍の姿はみえない。
先導していたエリノアがしゃがむ、俺たちにも背を低くするようにジェスチャーで指示をする、低い姿勢でアイナがエリノアに近づく。
「どうしました?」
「道の先に何かあるにゃ」
「うーん……暗くてよく見えませんね」
「俺が這って見てくる、ハンバーガーの俺なら仮に小龍だとしても気づかれまい」
「わかりました、危ないと判断したら射ます」
「ああ、頼んだ」
俺の今のメニューは、
幻影大鷲の羽、
透明龍の鱗、
紫猪の耳、
不滅龍の羊羹皮、
薬草が3枚と、パテが1枚だ。
紫猪の耳は、タスレ村にいた時に倒したときに切り取ったものだ。カラッカラに乾いているが、毒は残っていて取り扱い注意だ。
素材の解析結果はこうだ。
『幻影大鷲から催眠術を検出、1回使用可能』。
『幻影大鷲から幻影を検出、1回使用可能』。
これはどちらか1つしか使えない。催眠術が1個体を意のままに操る魔法。幻影が多数のものに幻覚を見せる魔法だ。
『透明龍から透明化を検出、1回使用可能』
これは前にも使ったことがある、俺の姿を消すことができる魔法だ、ただ雨が降るとシルエットがくっきりと出てしまい見つかってしまう、使う際は天気に注意だ。
『紫猪から毒煙を検出、1回使用可能』
この魔法は喰らったことがあるから分かるな。小龍が火に強いなら、毒はどうだろうか? これを喰らったアイナはひどく咳き込んでいたし、ブレスを妨害することが可能かもしれない。仲間に当てないようにしないとな、風の動きに注意だ。
さて、近づくか、対象まで100mほど、標的は動かない、少ししてそれが何だか判明する。俺は慌てて皆を呼んだ。
「皆! 来てくれ!」
警戒しつつも勇者パーティが集合する。道を塞ぐようにいるアレとの距離は10mほどだ。この距離になればそれが何か分かる。
「死体だ」
「そうみたいだにゃ、腐乱臭がまだしてないから、この死体は最近のものだにゃ」
そこには、豚のような魔物の死体が倒れていた、腹の部分は大きく抉れており、巨大な歯形が残っている。ジゼルが死体を眺めてポツリとつぶやく。
「この歯型。小龍の捕食痕」
周りを見れば道から外れた先にも同種の死体がいくつも転がっている。2メートルある豚の魔物の死体だ、小龍の腹は満たされたことだろう。
「龍族の自然治癒力は高い。食事をして眠れば大体の傷は癒える」
「俺の付けた傷も回復しているかもしれないのか」
あれだけ深く削ったんだが、それでも治ってしまうものだろうか。ちなみにこの豚の魔物の名前は豚人間だそうだ、俺も挟みたかったが具材は揃っているし急ぎのため我慢した。
「村が見えてきたよ」
エリノアが小声で言った、俺たちも警戒しつつ進む。
「明かりはついてないですね」
一般的な夜間の村の警備体制は、松明に火をつけ、複数の見張り台に一人ずつ配置するスタイルが多い、だが今の村に明かりは無い。これはこれで異常事態だ。
「皆さん避難したんでしょうか?」
「どうだろうな、村の中に入ってみないことにはなんとも言えないな」
「そうだにゃ、それに小龍の姿を確認してからじゃにゃいと迂闊に動けにゃいにゃ」
そう、小龍がどこにもいない、空を飛んでいれば夜とはいっても月明かりで存在は確認できる、気配がまるでない。
「小龍はいないのか?」
「今はいにゃいみたいだにゃ、でもここにいたのは確かだにゃ、龍の残り香がするよ」
静まった村に、小龍の残り香。最悪の事態になっている可能性が、······そんな俺の考えを否定するようにジゼルが口を開く。
「建物が一切焼けていない。燃えた匂いもしない」
確かに外から見た限りじゃ柵も壊れている様子はない、しかし入口は開きっぱなしだ。
「もう避難したあとなのではないでしょうか?」
「そうかもしれにゃいにゃ、ん?」
エリノアはなにかに気づいたように立ち上がると、村の入口から堂々と中に入っていった。
「お、おい待て!」
俺たちもその後を追う、罠の可能性もあるのに、エリノアは民家の玄関前に止まると軽くノックする。
「おい、何やってるんだ」
「んー? いやにゃ、人の気配がしたからささ、ていうか周りの家全てに人の気配がするよ」
「なに!?」
俺はクラウンを高速回転させて辺りの情報を得る、しかしどの家も無人のように見える。
「埒が明かにゃいにゃ」
エリノアは懐から針金を取り出すとドアの鍵穴に入れてピッキングを開始した。
「開いたにゃ、お邪魔するよー」
「だ、誰ですか!?」
本当にいた、第一村人発見だ! 中にいたのは50代くらいの夫婦だ、部屋の隅で怯えたようにこちらを見ている。
「まーまー、そんにゃに怖がらにゃいでほしいよ、強盗じゃにゃいよ、ほらバーガー」
「俺は勇者だ」
俺の姿を見た夫婦は「マジでハンバーガーだ……」と口々に呟き、雰囲気が怯えから一気に明るいものへと変わる。
「周りのは勇者パーティメンバーだ、パンフライ街に現れた小龍がこっちの方に向かって飛んでいくのをみたんだが」
「おお、そうでしたか。確かに小龍は現れました」
やはりこの村だったか、遅れたが、この村の名前はギムコ村という、看板に書いてあった。
「それで何が起きた? 小龍はどこにいる?」
「今は分かりませんが、小龍は昼前に突然現れました、逃げることも叶わないと判断した村長が、家の中で閉じこもるようにと指示を出したので······我々は家の中にいたので、すみませんがそれ以上は分かりません」
昼前だと、奴らが現れたのは日が傾いてからだ。その間、小龍たちは村も襲わずに何をしていたんだ?
「勇者さま、小龍はまた来るのでしょうか?」
「分からない、今は判断材料が足りないからな。そうだ、パンフライ街に少女が助けを求めてきたんだ、きっとこの村の子供だろう」
「子供がですか? 村長から外出禁止令が出ているのもありますが、小龍が来るかもしれないのに、親がいる家庭は子供にそんな危険な事はさせないでしょう。······もしかしてヒマリの事かもしれません」
「ヒマリ?」
「はい、早くに両親を亡くし、さらに年の離れた兄がヒマリの世話をしていたのですが、その兄も王国聖騎士になり、出ていってしまいました、今はヒマリ一人で暮らしています」
「なるほど、兄に似て正義感の強い、勇気のある人物に育ったってわけだな」
どうして兄は王国にヒマリを連れていかなかったんだろう。俺はそれ以外にも違和感に気づいた、少女ヒマリの言葉を思い出す。
『魔物が、村に、おにぃちゃんが······』。
ヒマリの兄が来ていたのか? このタイミングで?聖騎士が単独で行動するなんて事はまずない、もし休暇で来ているのなら、村人は知っているはずだし、どういう事だ?
あらかた村人から話を聞き終わったところでエリノアが腰を上げる。
「ミーは見回りをしてくるよ」
「俺も見て回ってこよう、一人じゃ大変だからな、アイナも付いてきてくれ、村に何か異変がないか調べるんだ」
「はい!」
「ジゼルは村長の所に行って話を聞いてきてくれ」
「オッケー」
「僕はー?」
「スーとモーちゃんは馬小屋で待機だ、この非常事態だ、入れても構わないだろう。もし何か言われたら『勇者パーティなの!』で通してくれ、誰かしらが迎えにいく」
「わかったの!」
俺は簡単に指示を出すと、アイナの肩に飛び乗って家を出る。小龍がいないとはいえ、敵はそれだけじゃないのかもしれない、まだまだ安心できない。
「敵が潜んでいる可能性がある、おかしなものや、気になることがあったらどんな事でもいい、教えてくれ」
「はい。······とは言っても松明もつけられないんじゃ、限界がありますけど」
頼りなのは月明かりだけだからな、満天の星空とはいえ、昼間に比べれば見落としも多くなるだろう。
「バーガー様」
「む?」
おお! さっそく何か気づいたようだな。
「どうしたんだ?」
「あの民家、パン屋さんです」
「······うん、あとで買いに来ようね」
いやね、どんな事でもって言ったけどね。うん、そんな嬉しそうな顔で言われたら何も言えないよ。
「バーガー様」
「今度は何屋さんだ? 肉か? 野菜か?」
「いえ、音が聞こえます、どうやら柵の外からのようです」
「柵の外だと」
確かに音がする、なんだこの音、この異世界に来てから聞いたことのない音だな。なにか金属が擦れる音というか、なんというか。
「どうしましょう?」
「確認しに行こう、何がいるかわからないから気をつけながらな」
「わかりました!」
村の出入口から出て、俺たちは柵沿いに進む。柵の影に隠れて慎重に進む。ふと、村から少し離れた所に大きな岩のようなものが見えてきた、暗くてよく見えないが、結構な大きさだ。
「どうやら、あれから音が出ているようです」
「······ッ」
俺は音の正体に気づいた、しばらく聞いていなかったから忘れていた。
「あれは機械の駆動音だ!」
「きかい?」
あそこにあるのは、この世界の文明レベルを逸脱するような大きな機械の塊だ。あれがどういった機械かは分からない、分からないが、今ある判断材料から考えられる最悪のケースは、
「あれは兵器かもしれない」
「兵器ですか? 大砲とか、大きなスプーンで岩を飛ばしたりする」
「それは投石機だ。そういうのとは違う、もっとハイレベルなものに感じる、ハイテクというか」
「はいてく? バーガー様はたまに難しい言葉を使います」
「ほら、あの機械から変な音がするだろ?」
「はい、あのギギギとかブォーンとかですね!」
「きっと複雑な仕掛けが施された兵器だ、これ以上近づかないほうがいいだろう、戻って皆に報告だ」
「はい!」
俺たちが戻ろうと踵を返したその時。
「生態ヲ補足。システム起動」
不気味な機械音声が聞こえる、駆動音がより一層激しくなる、頭部と思わしき部分の一つ目が真っ赤に光り出す。
「暗闇ヲ感知。暗視モード起動」
今こいつ暗視と言ったか、本当なら俺の思っている以上の技術力だぞ。
「アイナ、ここから離れろ!」
「は、はい!」
この世界には物に怨霊が取り付いて魔物化するケースは多々ある、鎧とか石像にだ、しかし、こんな兵器に取り付くケースがあるのか? それにあの兵器は一体どこから······まさか、小龍と戦っていたのはこいつか!?
「敵生態ヲ分析。エルフ。······エラー。分析失敗。敵、エルフ、不明」
おい! 不明なまま俺と敵対するな! ポンコツかこいつは!
「バーガー様、もう少しで村の入口です」
「よし、後ろは俺が見てるから全速力で走れ」
「はい!」
兵器、いや、機械兵と言うべきか。機械兵はあの場所から動かない、目を光らせたままブツブツと機械音声を流している。
「レーザー起動。標準エルフ」
「アイナ! 伏せろ!」
「照射」
伏せたアイナの真上を赤い光線が通り過ぎた、そして通り過ぎた先で大爆発を起こした、幸いな事に村には当たっていない。
アイナは唖然としている、それも無理はない、この世界で現代のような兵器は無いのだから、というかレーザー光線なんて俺の世界でもレアじゃないか。
······こんなものを村に招き入れるのは勇者としてありえない。アイナも俺の思いを察したのか意を決したように口を開いた。
「バーガー様、このまま村に入るのは、村を巻き込むことになります!」
「そうだな、いま村に入るわけにはいかないな!」
「ここでアレを倒しましょう!」
「うし、やるぞ!」
「はい!」
俺達の声に呼応するように機械兵が立ち上がった。
ボディに収納していた手足を伸ばして立ち上がった機械兵は、異様な威圧感を放っている。赤い一つ目を光らせて、俺たちに向かって歩き出す。
機械兵の起こした爆発で、俺たちの背後の草原に火の手が上がっている、その火のおかげで機械兵の姿が照らされてよく見える。
高さは5mほど、4本の足と4本の腕、機体のカラーリングは灰、銀色、デザインは無骨なものとなっており、装飾などは一切ない。
現段階で気をつけるのは目から発射されるレーザー光線だ、レーザー光線は威力が高く速度も速かった、当れば一撃で死ぬだろう、だが初動がわかりやすく撃つ前に回避行動をとることができる。やつの目線に注意だ。
あとは、あの4本の腕か、殴られるならまだしも、掴まれたらどうしようもないな。
「アイナ、俺をしっかり抱きしめろ!」
「え、は、はい!」
アイナは頭に乗っていた俺を両手で抱きしめる、俺がこれから使う魔法は触れているものにも効果を及ぼす、まぁ頭に乗ったままでも問題ないんだがな!
「『透明化』」
俺とアイナの姿が消える、成功だ。
「バ、バーガー様!?」
「大丈夫だ、俺はここにいる、頭に乗せてくれ」
機械兵はというと、首をしきりに動かしている、索敵しているようだ。
「頭に乗れましたか? 見えなくて」
「うん、目線の高さ的に乗れたと思う。武器まで見えなくなっているがそれについてはどうだ?」
「それは問題ありません、目を瞑ったままでも矢を射る事ができます、剣だって腰に差してあるので場所は分かります」
「パーフェクトだアイナ」
「ありがとうございます!」
しばらく周囲を索敵していた機械兵の動きが止まる。目の赤い光が消える。
「目標ロスト」
わざわざ状態を口に出してくれるおかげで(迂闊に信じるのは危険だが)、機械兵の状態が分かりやすい。
「見失ったみたいですね」
「そうだな、これなら機械兵の隙を突くこともーー」
俺が話し終わる前に、機械兵の一つ目が再び赤く光る。
「索敵モード。反響定位」
「なに!?」
エコロケーションは確か、音で物を『見る』技術だ。光ではなく音、光を操って消える透明化では防げない!
「バーガー様、あれは何をしているのでしょう?」
「見られている! やつは音で俺たちを見ているんだ!」
「お、音で見えるんですか!?」
その間にも機械兵は俺たちを補足したのか、こちらに向かって歩き出している、存外速い!
「魔法を解除する」
「いえ、魔法を解く必要はありません」
「どうしてだ! 俺たちが連携を取りにくいだけだろう!」
「音で見るんですよね」
「あ、ああ」
「なら問題ありません」
アイナは両手を肩の高さまで上げて、ゆっくり広げているようだ、何をするつもりだ? アイナは呟いた。
「突風」
アイナの両手から突風が発生する、アイナの手の動きで操作しているらしく、機械兵を取り囲むことに成功する。
「これなら音を伝える事ができません!」
「アイナ、いつの間に魔法を?」
「秘密の特訓の成果です」
そう言って、アイナははにかんで笑う。
突風に包まれた機械兵は再び動きを止める。
「標的ロスト」
これで冷静に戦うことができる。
「索敵モード。サーモグラフィ」
「なに!?」
サーモグラフィは赤外線で見る技術だ、熱を発しているものなら簡単に見つけることができる、光も音も関係ない。
「ダメだ、やつは熱で俺たちを感知している」
「次は熱ですか!?」
「そうだ」
背後で上がっている火の手で誤魔化せるか? いや、人の形と炎の形を見間違えるはずがない、炎で隠れたとしてもそこにレーザー光線を撃ってこられたらたまったものじゃない。
万事休すか、否、まだ試していない事がある、俺はアイナの頭から飛び降りて、機械兵に跳ね寄る。
「バーガー様、何を!?」
「アイナ、通り道を作ってくれ!」
「は、はい!」
アイナは風を操り、中央に道を作ってくれた。
「こいつを試す! 『催眠術』」
Aクラスの魔物、斧牛さえも操った魔法だ、これで機械兵を操ってやる!
「標的補足」
······機械兵に催眠術は効かないらしい、耐性を持っているのか、騙される脳みそがないのか、何にせよAクラスより上の存在であることが証明されたということだ、ハハハ。
「殲滅」
機械兵は俺の方に視線を向けている、実は俺自身も僅かに熱を放っている、アイナに矛先が向かなくてよかったと思っておくことにしよう。
機械兵はボディに収納されていた剣、斧、槍、槌をそれぞれの腕に持つ。斬撃、刺突、打撃、物理属性を全て網羅しているといってもいいくらいの武器の豊富さだ。というかどこにそんなもの格納していたんだよ。
腕の付け根が上下左右360度回り、さらに滑るように動かす、球体状の胴体を4本の腕が自由自在に動き回っている。そして扇風機の羽のように高速回転し始めた。すぐそこまで迫った凶刃に、俺は慌てて後退する、と同時に、機械兵の目玉が光り出す、レーザー光線を放つつもりだ。まずい!
「!」
レーザー光線が放たれる前に、突如機械兵の頭が爆発した、振り返ればアイナが火属性付加の小瓶を使って、火の矢をつがえているところだった。
レーザー光線を撃つ前に、アイナが火の矢を機械兵の目玉に当てたのだ、それで暴発したのか、動きが止まっているうちに立て直す、俺はアイナのところまで戻る。
「頑丈で隙のない魔物ですね!」
「ああ、今まで戦った魔物の中で一番の強敵だろうな」
「暴発してもダメージがほとんどないようです」
「どうだろうな、機械だから、突然動かなくなるのかもしれないぞ」
「そうですよね、諦めずに頑張ります!」
機械兵の頭についた火はすぐに消えた、魔法の火なのに、何事も無かったかのように、俺たちを始末せんと再び歩を進める。
「にゃっはっはーー!」
そこに軽快な笑い声とともに柵を飛び越えてエリノアが現れた。
「バーガーたち、そこにいるんだよにゃ、助太刀に来たよ!」
エリノアはそう言いつつ、背にしていた村から離れる、村を巻き込まないようにしているんだ、さっきの爆発を聞いただけで、おおよその攻撃方法は予測しているようだ。
「消えてる俺たちがいるってよく分かったな」
「ミーは耳がいいからにゃ、それにあんにゃに喋ってたら消えている意味がにゃいよ?」
「確かにその通りでした!」
アイナの驚いている顔が目に浮かぶ。
「エリノア、気をつけろ、あの機械兵は目からレーザー光線を放つ、速度も威力と半端じゃないが、予備動作が大きいからよく見るんだ」
「にゃるほどにゃ、分かったよ」
エリノアは背を低くして、いつでも動けるようにしている、構えている片手剣は垂れ下げている。
「バーガーたちは魔法で消えてるんだから、ミーから離れておくんだよ、流れレーザーに当たっても面白くにゃいからにゃ」
「あ、それについてなんだが、やつは俺たちを光と音と熱で見ているんだ」
「にゃに!あの目一つで!?」
「相当に厄介なやつだ、小龍より強いんじゃないか?」
「だと思うにゃ」
と、話していると、機械兵が動き出す。
「敵生体ヲ分析。獣人······、エラー、分析失敗。敵、獣人、不明」
ん? また俺を調べたのか? なんどスキャンしてもハンバーガーを分析できるものか!
「離れていてもいい的ににゃるだけだにゃ、ミーは接近戦を仕掛けるから2人はそれに合わせてほしいよ」
「おう!」
「わかりました!」
エリノアは果敢に機械兵に向かって駆け出していく。今この勇者パーティ内で機械兵と正面から戦えうるのは、小龍を単騎で撃破したエリノアだけだ。
「アイナ、火属性付加はまだ使えるか?」
「はい、あと3回は使えます!」
「よし、またレーザー光線を放とうとしたら、それで妨害してくれ」
「はい!」
機械兵の4本の腕がそれぞれエリノアを狙う、横薙ぎの剣、突き出される槍、振り上げる斧、叩きつける槌。どれも絶妙にタイミングが異なる、あれは受けづらい、並の戦士ならあの一振一つに対応するので精一杯だろう。しかしエリノアはそのどれもを回避、さらに切り返す、片手剣の見事なカウンターで胴体を切りつける。夜の暗闇に火花が映える。これならーー
「斬れにゃいにゃー」
機械兵のボディに傷一つついていない、あんなに綺麗に決まったのに。
「スキル発動。旋風裂閃」
「にゃ!?」
機械兵の4本の腕が横に高速回転、コマのように突撃して、エリノアを弾き飛ばす、柵に激突、砂埃が舞う。レーザー光線で追い打ちをかけようとする機械兵の目を、アイナが射る、また暴発させることに成功した。
「バーガー様、エリノアが!」
「ぐ、こっちに気を引きつけるしかない!」
さっきの技は俺に繰り出した回転連撃よりもさらに速かった、例えるなら俺に繰り出したのが扇風機の弱だとするとエリノアに繰り出したのが強といった感じだ。『旋風烈閃』、あれは魔法ではなく技能によるものだろう、魔法のような予備動作がない、迂闊に近づくこともできない。
砂埃のせいで、エリノアの様子がわからない、早く治癒魔法を掛けなけてやらねば。
「遅れて登場、俺参上!」
振り返ればジゼルがいた、騒ぎを聞きつけて来てくれた。




