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第21話 キラーキラー3

挿絵(By みてみん)



 勇者パーティ全員集合だ、今の最高戦力が揃ったが、この状況を何とかする打開策が思い浮かばない。ジゼルが辺りを見渡して声を張る。


「って、誰もいねー。バーガー。アイナ。エリー。どこにいる?」

「アイナと俺はジゼルの前にいるぞ」

「······思ったより近かった。エリーは?」

「機械兵に吹き飛ばされた」

「そう」

「そうって、なんだ、心配しないのか?」

「エリーは追い詰められてからが本番」

「それはどういうーー」

「ほら。出てくる」


 ジゼルの言った通り、エリノアが復活している、全身から血が滴っている、確かにあれはピンチだが、満身創痍だ、戦えない。


「にゃはは、結構いいのもらっちゃったにゃー、まともにダメージ喰らうのにゃんていつぶりだろうにゃ」

「エリー。『技能(スキル)』は?」

「んー、このくらいでも、まぁ使えんことはにゃいにゃー」


 なんだ? 何の話をしているんだ? 状況は悪くなっているというのに、なんだこの余裕な感じは?


「ん、バーガーがすごく心配そうにしているにゃ。そういえば、この旅ではまだミーの技能(スキル)を使ったことがにゃかったにゃ」


 エリノアは歩き出す、無傷の時よりも威圧感がある。


「根性、底力、執念、逆境、不屈、同時発動だにゃ」


 エリノアの体が赤く光る、追い詰められているはずなのに、その眼光は強烈な力強さを感じさせる。


「エリーの技能(スキル)は体力が減らないと使えないものばかり。だから今まで使うことができなかった」


 追い詰められて花が咲くタイプということか。


 エリノアは機械兵の目の前に立つと見上げる、機械兵の一つ目を睨みつけている。


「見たことのにゃい魔物だにゃ、魔王軍の新兵器かにゃ?」


 機械兵の返事は斧の一撃だ、エリノアは一歩も動かない、さっきのダメージが足にきているんだ。


「エリノア避けろ!」


 エリノアは片手剣を使い、振り降ろされた斧を受け止める、足が地面にめり込むが、微動打にしない。


 あの体でなんて腕力だ、技能(スキル)によってポテンシャルが飛躍的にアップしているのか。


「凄いが、武器が心配だ」

「問題ない。あの剣は最硬度を誇る剣。その名も『折れずの剣』」

「折れずの剣」

「そう。エリーは『コスパ最高』と言って。折れない剣を選んだ。値段は小龍ワイバーン一頭分」


 エリノアは斧を弾き飛ばす、さらに迫る剣と槍の連撃を捌く、そして横薙ぎの槌の一撃をバク転して回避、回避速度もとてつもなく速い。早送りしているようだ。


「見せてやるよ、ミーの剣技を!」


 剣を掲げる、柄の部分の装飾に赤い光が灯る。その光は刀身へと続き、剣全体が赤く輝く。


「獣王斬!」


 振り降ろされた剣から赤い光が解き放たれる、光は獅子を形取り、まるで生きているかのように、轟く咆哮をあげて機械兵に襲いかかる。


 機械兵もそれを感知したのか、剣と斧を使って防御する、金属の軋む音が聞こえる。機械兵は目からレーザー光線を放とうするも、アイナに妨害され、爆発して炎上する。アイナの火の矢はあと一本、妨害できるのは一回だけだ。


「獣王斬!」


 二度目の獣王斬だ、弧を描くように走る紅蓮の獅子は最初の獅子と連携して挟撃する、機械兵は残った槍と槌を持つ腕を使ってそれも防ぐ。しかし、この獣王斬、一向に消える気配を見せない、赤い魔力のようなもので生成された獅子が、一心不乱に機械兵に食らい続けている。


「ミーの体力がもっと減ってればよかったんだけどにゃ、頭の血は派手に出るから見た目よりも対してダメージを受けていにゃんだよね、実は」


 それであの威力なのか。


「この体力じゃ2体が限度だにゃ、でもあの調子にゃら十分に仕留めきれると思うよ」


 二頭の獅子が動きを封じている、顎の力は強く、そのうち金属疲労でポッキリいきそうだ。機械兵は学習したのかレーザー光線も撃たなくなった、いけるぞ!


「自動操縦カラ。手動操縦ニ。切リ替エマス」


 自動から手動だと、まさか!


「中に誰か入っているぞ!」

「にゃ!?」


 機械兵の目玉が輝く、目の動きが滑らかになる。まるで生き物のような動きというか。感情のある生物のような動きに変化した。そして叫んだ。


「なんだ! どういう状況なのだ!これは!」


 無線機越しの人の声というか、とにかく機械っぽさのない口調になった。機械兵は力ずくで紅蓮の獅子を振り払い、4本の腕をぐるぐると回転させて、武器の動きを確認している。


「また新手か、小龍ワイバーンの次は赤い獅子だと! 魔王軍も手が込んできたものだな!」


 やはり小龍ワイバーンと戦っていたのはこの機械兵だったのか、あの実力ならそれも頷ける、しかし魔王軍の話を出したとなると、この機械兵はどちら側だ?


「このキラーキラーの剣とかの錆にしてやるのだ!」


 機械兵の名前はキラーキラーというのか、手動で襲い掛かってくる。これは敵だ。


「旋風裂閃!」


 高速回転する4本の腕が、二頭の獅子を両断する。


 消える獅子の影からエリノアが飛び出す、追撃だ。


「次はお前か! レーザー、!?」


 レーザー光線を放とうとしたキラーキラーの頭部が爆発する、アイナの火の矢だ。


「ぶはっ!? なんだ! 囲まれてんのか俺は! ぐ、能力が上手く発動しない、うおッ!!」


 エリノアの斬撃を胴体に受けて、キラーキラーはたたらを踏む、それでも4本の足で体勢を立て直す。あの巨体を退かせるとはエリノアのパワーが段違いに上がっている証拠だ、これが根性値というやつか!


「やるなお前! だが、これは受けられるかな!」


 キラーキラーの4本の腕をすべて使った乱舞だ、自動操縦の時よりも断然速い。エリノアは自分と同サイズの武器を腕力で弾いている、折れずの剣でなかったら剣ごと真っ二つに引き裂かれているだろう。


 その間に、ジゼルが詠唱を始めた。


「過ぎたるは純黒」


 ジゼルの左手に黒い魔力の炎が灯る。


「求めるは純白」


 今度は右手に白い魔力の炎が灯る、両手を胸の前で合わせる、二つの魔力を混ぜている。


「過去と未来を今ここに黒白ブラックホワイト


 ジゼルの両手から黒い稲妻と白い稲妻が混ざりあったものが放たれる、キラーキラーは避ける素振りすら見せない、直撃だ!


「ふん!」


 な、あの強力な魔法が弾かれてしまった。


「このキラーキラーのボディに魔法は効かないのだ!」


 やはり魔法対策をしていたか、どうりで俺の魔法も効かないわけだ。


「この血だらけの戦士も厄介だが、後衛がさっきから邪魔なのだ、ちょいレーザー!」


 キラーキラーは威力を抑えた、予備動作なしのレーザー光線をエリノアに向かって撃つ、だがエリノアはノーモーションのレーザー光線を野生の勘で察知したのか、回避する。しかし、


「後衛を倒してから、前衛を倒せばよいのだ!」


 キラーキラーは全速力で俺たちに向かってくる、速い。追従するエリノアにキラーキラーは後ろ走りになり、ちょいレーザーを放って妨害する。間に合わない。


「クソ! 勇者の俺の出番というわけだな!」


 俺は魂の実体化マテリアライズソウルの準備をする、これなら対抗できる。がしかしキラーキラーはいきなり止まった、急ブレーキだ。キラーキラーは俺をまじまじと見つめている。


「喋るハンバーガーなのだ······まさか勇者······!?」

「あ、ああ」

「君たちは魔王が差し向けた追手じゃないのか?」

「違うぞ、勇者がそんなことするわけないだろ」


キラーキラーはわなわなと震えている、そして、


「俺は勇者パーティに入りたかったのだ……」


そう呟いた。



 キラーキラーに敵意がないと判断した俺たちは休むことにした。思えばろくに休んでいなかったからな、休めるうちに休んでおこうということになった。もちろん完全に信用したわけではない、キラーキラーには村から離れたところで待機してもらった、夜間もエリノアとアイナが交代で見張ってくれた。


 そして翌朝。


 村人たちをこのまま家にこもりっぱなしにさせていたら、いずれ餓死する、なので俺は村長に言って、村人たちを家からだしてもらった。村人たちには小龍ワイバーンを発見してからでも避難はできる、と説得した。そして俺は、見張りを終えたアイナと、話のわかるジゼルを連れてキラーキラーのもとを訪れた。


「おお、勇者! 待っていたのだ!」

「俺のことはバーガーと読んでくれ」

「ああ、わかった、バーガー!」


 キラーキラーは至ってフランクだ。


「昨晩は突然襲ってすまなかったのだ」

「誰も死んでないからよしとしよう」

「そう言ってもらえると助かるのだ」

「それでキラーキラーからは降りないのか? 直接会って話したいんだが」

「あー、実はそのことについてなのだが」


 キラーキラーは至極言いにくそうに言葉を続ける。


「降りられないのだ」

「どういうことだ?」

「簡単に言えば、いや、簡単に言えることではないのだ······なんというか、俺の元の体はもう無いのだ」


 アイナとジゼルはまだ理解していないだろうが、俺にはその言葉の意味が理解できた、できてしまった、痛いほどに。


「つまり、そのキラーキラーにあんたの魂が憑依しているってことか」

「おお! さすがは勇者だ! そう、何を隠そう俺は実験体として、魔王軍のやつらにモルモットにされたのだ!」


 アイナはポカンとしているが、話を理解したらしいジゼルが口を開いた。


「どうしてそんな実験に。貴方は誰?」

「話せば長くなる、俺はこのギムコ村出身の聖騎士、月の無い夜ムーンロストナイト部隊、隊長のサガオ・サンライトだ」


 この村の聖騎士だと?もしかしてこの人が、


「この村の聖騎士ってことは! もしかしてヒマリのお兄さんですか!」

「おお! ヒマリは俺の妹なのだ!妹は無事か!?」

「助けを呼びにパンフライ街まで来てくれましたよ、今は私たちが泊まっている宿で寝かせてあります」

「そうか、よかったのだ」

「その事はあとで。まず確認することがある。どうしてここに?」

「奴らから逃げてきて朦朧とする意識の中、妹のことを思い続けていたら、ここにたどり着いていたのだ」

「魔界にいたの。何をしていたの?」

「いたのだ。というか俺は魔王の城に単独で侵入していたのだ」


 ジゼルが驚いたふうに聞き返す。


「魔王の城に侵入?」

「国王からの命でな、俺は聖騎士の中でも諜報活動や隠密行動、そして変装やロールプレイに優れていたから選ばれたのだ」

「キラーキラーを破壊するために?」

「いいや、俺に命を出した時点ではまだキラーキラーの存在は知られていなかった、いや、今も知られてはいないのか。俺が送られたのはあくまでスパイとしてだった」

「それで」

「キラーキラーの存在を知ってしまった、これは恐るべき兵器なのだ」

「それは私たちも体験したからしってる」

「あんなものじゃない、俺がセーフティをかけていたからな。俺の意志が完全に支配されていたら、もっと酷いことになっていたのだ」


 あれでまだ本気ではなかったってことか。


「話を戻すが、キラーキラーの製造を開始した魔王軍の仕事っぷりは、はっきり言って異常だった」

「どんな風に?」

「徹夜に徹夜を重ね、力尽きて倒れれば治癒魔法や催眠術をかけてまで仕事をさせたんだ、何人も死者が出た」

「ひどいです!」

「急ピッチで仕上がっていくキラーキラーの大軍を見て俺は使命感に燃えた」


 サガオは4本の腕を震わせる。


「製造途中のキラーキラーの心臓部、対魔合金で守られる前のむき出しの心臓に俺は爆弾を仕掛け爆発させた」

「すごいです!」

「もちろん、開発に必要な設計図、そしてキラーキラーの製作者も同時に始末した、そこまではよかったんだ」


 サガオはガックリと肩を落とす。


「さすがにそこまで派手に動けば俺が王国のスパイだってバレる、そして抵抗虚しく捕えられた俺は······」

「わかった、もういい、サガオのした事は偉業だ。国王の代わりに勇者の俺が礼を言おう」

「なんの、妹のためにやったまでなのだ」


ジゼルが待ったを掛けた。


「一つ疑問がある。このキラーキラーは。キラーキラーはすべて破壊していないの?」

「これ以外のキラーキラーは破壊した、同時ボンとな、これは絶者ぜつじゃが使っていた機体で、俺の知らないところで格納されていた特別機なのだ」

「絶者?」

「そうか、それも知らないのか、そうだな、俺が魔王城に潜入したのが3年くらい前なんだが、そこからさらに10年くらい前に絶者という者が現れたんだ」

「絶者? どんな奴なんだ?」

「勇者と対になる者、だそうだ」

「勇者と対に、だと」

「そいつが現れてから、魔王軍が変わったそうだ、シビアになったらしい、俺は変わったあとに侵入したから分からないが……」


 サガオの動きがぎこちなくなる。


「どうしたんだ?」

「すまない、まだ一つ問題があるのだ」


 声のトーンが暗いものになっている。


「俺を破壊してくれ」



 サガオの言葉に俺たちは聞き返すことしかできなかった。


「破壊だと」

「そうだ破壊だ、俺を破壊してほしい、キラーキラーには自分自身を傷つけられないようにセーフティが掛けられているからな」

「そういう問題じゃないだろ、どうしてだ、こうして話せているのに」

「実は今も必死なのだ、自我を保つので精一杯なのだ。この瞬間にもキラーキラーに内蔵された呪いの魔法陣によって、俺は殺戮兵器になるかもしれない」

「でもサガオには、ヒマリがいるじゃないですか!」

「だからだ、だから俺は、自分の手で家族を傷つける前に、破壊されなければならないのだ、ここまできて、ひとめ妹の姿も見れた、記憶は断片的になってしまったが、スパイの内容もバーガーたちに報告できた。俺の役目は終わったのだ。それにこんな体になってしまった、妹に合わせる顔がないのだ、俺は、俺はもう······人間じゃない」

「馬鹿野郎! サガオは人間だ!」

「バーガー······」

「何とかなるはずだ! きっと手はあるはずだ!」

「······」


 皆、神妙な顔で頷いている、そうだサガオは人間だ、姿形で変わるものか、そう······だよな。そうでないと、俺は······、


「バーガー様」

「アイナ?」


 アイナは俺の目をじっと見て言った。


「バーガー様は、バーガー様ですよ」

「ありがとう」


 そうだ、俺は俺だ、ハンバーガーになろうとも、俺は番重岳人だ。魂だけは俺のままなんだ。


「すまないアイナ、気を使わせたな」

「いえ、これくらい、勇者パーティメンバーとして当然です!」


 これが正ヒロインの貫禄か、眩しいよアイナさん。俺が感慨に浸っていると、サガオの内部から機械音がする、ピピピと目覚まし時計の音に近い。


「どうした?」

「来た」


 俺たちは空を見る、空の向こう、地平線から、小龍ワイバーンの群れがこちらに向かって飛んできている。


「バーガー、そして勇者パーティの皆、話せてよかったのだ」

「どうするつもりだ」

「奴らは俺を始末しに来ただけなのだ、ならば人気のないところでやらせてやるだけなのだ」

「ダメです!」

「感情で語ってくれるな、これしかないんだ、妹には俺はまた旅に出たと伝えてくれ、遠い遠い星の向こうに行ったとな!」


 進むサガオを止める言葉が見つからなかった。



 エリノアが野原を駆け抜けて俺たちのところに来る、小袋を背負っている。


小龍ワイバーンが来たにゃ、サガオはにゃにしに?」

「それが」


 エリノアに今あったことを話した。


「にゃるほどにゃ、にゃんとも切にゃい話だにゃ」

「いい案はないか?」

「この手の事に得意なジゼルが思い浮かばにゃいにゃら、ミーにも無理だよ」


 ジゼルが肩を竦めて答えた。


「サガオは呪いの魔法陣と言った。呪いはダークエルフの得意とするところ。私の管轄外。何もしてあげられない」


 このままサガオが死にに行くのを黙って見送るしかないのか、確かに、サガオの話が確かなら小龍ワイバーンはサガオを殺したら帰るはずだ、小龍ワイバーンたちにだって元々のテリトリーがあるはずだからな。丸く収まってしまう、それに聖騎士一人でキラーキラーの製造を止めたのは十分過ぎる功績だ。これだけでサガオの妹は一生安泰だろう、これを機に王国で暮らせるかもしれない。


 だがどうだ? ヒマリは何を望んでいる? 富か? 名誉か? 否、断じて否、彼女ヒマリは俺に向かって開口一番に『兄貴の心配をした』そういう事だ、魔物のいる道を、女の子一人でボロボロになってまで助けを求めてやってきたのだ。


 ならばやる事は決まっている。


「サガオを助けるぞ」

「はい!」

「でもにゃあ、ミーも助けてやりたいけどにゃ、あの小龍ワイバーンの数じゃにゃあ」


 サガオがともに戦ってくれればいいのだが、サガオは死ぬつもりだ、望みは薄い。最悪の場合、俺たちが全滅する可能性もある。


「何にせよ、近づくか、近づかないと助けたくても助けられないからな、エリノアは村に注意を」

「もう済ましてあるよ」

「愚問だったな。うし、行くぞ」


 覚悟を決めた俺たちはサガオを追う、サガオはどんどん歩いて行く、一体どこに向かっているんだ?


「サガオはどこに行くつもりなんでしょうか?」

「村を巻き込まないようにできるだけ離れようとしているんだろうな」

「なるほど、ではそろそろですね」


 かれこれ一時間以上歩き続けている、サガオの足は歩きといっても速い、村からかなり離れただろう。小龍ワイバーンたちはサガオを上空から追尾している、サガオの足が止まれば攻撃を開始するだろう。


 そしてついにサガオの足が止まる。ここは、


「深い谷だにゃあ」


 そう、サガオが死に場所に選んだのは底が見えないほどの深い谷だった。谷を見下ろす俺たちを見て、ジゼルが口を開いた。


「この谷の名前は『怪物の口』」

「底が見えないほど深いからかな」

「それもある。それ以外にも。落ちて生還した者はいないと言い伝えられている」

「いや、ちょっと待て、普通の谷でも落ちたら死ぬだろ」

「武闘派なら耐える者もいる」

「マジか」


 俺はエリノアに視線を向ける。


「武闘家と聞いてミーを見るんじゃにゃいよ、お金もらわないとやらないよ」

「金払えばやるのかよ!」


 たく、変に緊張せず、いつもの調子なのはいいことかもしれないが、これから小龍ワイバーンの群れを相手にするかもしれない状況なんだぞ。


「このパーティは肝が据わってる連中ばかりだな。頼もしい限りだよ、まったく」


 そんな会話の中でも真面目に小龍ワイバーンたちを監視していたアイナが口を開く。


「バーガー様、小龍ワイバーンたちに動きが」

「なに」


 俺が慌てて空に視線を戻すと、崖際にいるサガオを狙って小龍ワイバーンたちが降下しているところだった。サガオはそれを確認して、大音量で叫んだ。


「バーガー下がっていろ! ここが俺の死に場所だ!」


 俺たちがあとをつけていたことに気づいていたか、別に隠れていたわけではないが。どうすれば説得できる、そもそもサガオも死にたくてやっているんじゃない、それしか方法がないからやってるだけなんだ。小龍ワイバーンが何頭もサガオに体当たりをしている。火炎の吐息ファイヤーブレスを吐かないのは、キラーキラーのボディには魔法が効かないからだろう。だから体当たりで崖から突き落とそうとしているらしい。


 サガオの機体が体当たりを受ける度に下がっていく。さすがにキラーキラーの機体は重く一度ではあまり動かないが、ああも連続で喰らえば、突き落とされるのも時間の問題だ。


「バーガー後は頼んだ! あ、そうだ! 勇者パーティの永久欠番に俺を入れておいてもらえると光栄だ!」

「わかった! 勇者パーティの一席はサガオのために取っておく!」

「かたじけない!」

「だが今は死ぬな! 妹がお兄ちゃんを助けてと俺に頼んできたんだ! 死ぬんじゃない!」

「俺のお願いばかり聞いてもらって申し訳ないが、それは無理な相談だ! 俺はもう限界だ! 妹にこんな姿を見せるわけにはいかないのだ! わかってくれ!」


 クソ! もう説得は不可能なのか? ああ、落ちてしまう、あと少しで、あと一度、体当たりを受ければサガオは怪物の口の中へと落ちてしまう。諦めかけた、その時。


「お兄ちゃん!」

「ヒマリ!?」


 サガオの前にヒマリが現れた。


 一体いつの間に、サガオと小龍ワイバーンたちに集中していたから気づかなかった。


「この声、やっぱり、お兄ちゃんだ!」

「こんなところで何をしている! ここは危険だ! 早く離れなさい!」

「やだ! あの大きいのがお兄ちゃんをいじめてるんでしょ! ヒマリはお兄ちゃんを助ける!」

「ひ、ヒマリぃ······」

「お兄ちゃんをいじめるな! 私が相手だ!」


 突然の小さな勇者の登場に小龍ワイバーンたちは少しの間、攻撃を止めていたが、状況を理解したのか、再び体当たりを開始しようとする。


 無力な少女が震える体で、兄を救おうとそのか細い腕を、大きく広げている。


 それに比べ俺は何をやっていた? 救うと決めたはずなのに俺はとんだ大馬鹿野郎だよ。


「『魂の実体化マテリアライズソウル』」


 筋肉の精霊が急降下してくる小龍ワイバーンの横顔を思いっきり殴る、怒号が響き渡る、さぁ開戦だ。



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