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隠し部屋と宝箱の姫君④

 ベルンに彼女の注意事項を聞いた後、私は教えられた上りの隠し階段へと向かっていた。


 引っ掛かった罠は高い魔力量を保有している者にのみ反応する罠だったそうで、地図にはそのような情報は載っていなかった。ベルンという名をどこかで聞いた気がするが、別に珍しくもないし街中で通りすがりに聞いただけかもしれない。


 魔導人形は定期的に主人の魔力を『混ぜて』やらねばならないらしい。何でもそのメンテナンスを怠ると暴走の切っ掛けになる事があるという話だ。


「そういえばですが、貴女様の事は何とお呼びすれば宜しいですか? やはり……、ここは無難に『ご主人様』で良いのでしょうか」


「呼びやすいもので構わないさ。然程重要な事でもないだろう」


 私がそう言うと『ディアン』と呼ばれる少女は指を突き立てて左右に振る。その顔は相変わらず無表情で何を考えての行動なのか理解に苦しむ。考えなしの動作であるならば先程までの理知的な雰囲気が台無しだ。


「チッチッチ、甘いです。呼び名とは意外に重要なのです。さん付けをしあう仲の方々より呼び捨ての方々の方が仲が良さそうに見えます。お互いの距離が呼び名で決まると言って良いでしょう」


 大きく手を広げたりして言葉以外で訴えている姿はとても少女の姿をした破壊兵器とは思えない。だが、手を振るう速度が尋常じゃない。動体視力には結構な自身があったのだが、私の目でもギリギリ捉えられるぐらいだ。他の者なら彼女の腕を見る事さえ無理だろう。


 ……流石に止めた方が良いな。迷宮が悲鳴を上げている。迷宮の天井から砂埃が絶え間なく降って来ているので崩壊の前兆だろう。幸いにも迷宮には自己修復機能があるというし、死者が出る事はないだろう。


「分かったからそれぐらいにしてくれ。それで何か候補はあるのか?」


「はい。『フィアット様』だと反って距離があるので『ご主人様』が最適解かと思われます」


「なら、そうしてくれ。それと君はこれからサーヴァだ」


「サーヴァ、ですか?」


 彼女改めサーヴァはきょとんとしたそうかもしれないで聞き返してくる。


「不服か? それなら別のを考えるが」


「いえ、そうではなくて……。名前を貰えるとは思っていなかったんです。てっきり、『お前』だとか『牝豚』と呼ばれるものだと思っていました」


「後者は酷いな……。どういった経緯でそこに至るんだ?」


「同じ人形達(シリーズ)の機体と意識を同調させて得た情報です。『お人形さん』や『天使ちゃん』などといった呼び名もあるようですね」


 サーヴァは空中に薄い光のプレートを形成すると裏返しにして私に見せた。これは……酷い主人が多いな。しかしその中でも「牝豚』を選考に加えている辺り、サーヴァもサーヴァだ。


「……っ!」


 突然の光に目が眩む。どうやら出口が見えてきたようだ。外に繋がる階段を駆け上がっていくと賑わいを見せる夕暮れ時の街並みが視界に広がった。


「凄い人混みですね。私めが道を切り拓いて来ましょうか?」


「いいや、駄目だ。掟に則って彼等は生きているのだから私もサーヴァもそれに従って行動しなければならない。君もこれからここに住むんだ……守って貰うぞ」


「承知しました。しかし歩行速度が非常に遅いと思われるのですが、それは何故でしょうか」


 サーヴァは変化の見られない顔の下に手を当てて首を傾げる。彼女にとっては理解し難いのかもしれないな。


「人々はああやって何でもないような時間をのんびりと過ごすんだ。話し合ったり、笑い合ったりと支え合って生きていく……。君もその内分かるさ」


 サーヴァの頭に手を置いて人々とその上に輝く黄金を見る。


「よく分かりませんが……、ご主人様の様子からするに素晴らしいものなのでしょうね」


「私はどんな顔をしているんだ?」


「ニヤけたような顔です」


「それは酷い顔だなっ」


 私はそのニヤけた顔のまま家に向かう。サーヴァの手を引いてナシアの待つ家に足を進める。



「幸せそうな顔、の言い間違えですけどね」


「ん? ……すまない、何か言ったか」


「いえ、行きましょうか」


 二人で歩く空の下は夕日を反射して輝いているように見えた。

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