恩を感じていると断りづらい
暖かな日射しが家屋を照らす。それは所々に薄い影を作って微かに室温を上げる。
「なあ、嬢ちゃん。道具があるんだが調合に興味はねえか?」
そう語りかけるのは、四十代とは思えない肌の持ち主――ガルノスだ。彼女は呼び出されて彼の元に出向いていた。彼からは時々生活雑貨などの貰い物を受け取っており、彼の話は断りずらかった。
「薬が足りてないというわけか?」
「……それもあるが、先ず薬師が足りてないんだ。薬の材料も足りてない上に技術の習得が難しいからな。仕方ないっちゃぁー仕方ないが」
顔を落とし眉間に皺を寄せて唸り、それから彼女を見据える。彼の反応は近くの町が流行り病で滅びかけている為に日に日に険しくなりつつある。
国も対応を進めているようだが、自分達には被害が及んでいない為にあまり緊急性を感じていないようだ。他国の薬の物価が高いから出し惜しんでいるのかもしれない。
「しかし、何故私なんだ? 他にも伝手はありそうだが……」
だからと言って私でなくとも良いのではないだろうか。世の中には私よりも優れた人物はいる。彼の知り合いを辿れば数人は確保出来るとは思うし、そこから樹形図式に薬師が増えれば私は必要ない。
そんな囁かな疑問符を浮かべた私に彼は苦笑すると、
「それなりに出来そうなのを数人知ってるんだが……師がいないと薬の効能が必然的に悪くなっちまってな」
「それで……私に指導出来る域まで極めてほしいと?」
「まあ、そう言うこった。だいぶ難しいと思うが……出来たりしないか?」
縋るように難題を押し付けて来るガルノスに苦笑すると、「一応」と言葉を紡いで、
「やれるだけやってみよう。ただ、期待はしないでくれ」
と簡潔に応えて調合道具類を一式貰い受けたのだった。
彼女は自宅に戻ると早速調合に取りかかった。以前の世界でだが、一応薬に関する知識は詰め込んでいたので不可能というわけでもなかった。ただ、難しくはある。
「初めてでこれならそこそこ良い気がするが……」
やはり従来の調合師が作った薬に比べると効果は期待できない。被検体がほしいところにナシアが風邪を拗らせていたので効き目を見るのに丁度良かったので薬を試飲して貰った。
数時間後に熱が下がり始めて、三日も経つと完治していた。副作用も診たところなかったので市場に出す場合は出せるだろう。
他にも色々な薬の効能を試したかったが、対応する病を患った人がいないので試しようがなかった。蔓延しているのは高熱と咳を伴うものらしいので初めの薬を改良していけば特効薬も出来上がる可能性がある。
薬の効果を確かめてからはひたすらに効果を高めていき、それから二週間程で薬は完成した。