変化
彼らがマーリンを出てから一週間が経った。私達は家に移り終わり、晴れてこの街の住人の仲間入りを果たしていた。
隣人も気が良さそうな人で仲は至って良好と言えるだろう。部屋の内装も固めたので生活感がないわけではないがまだ引っ越して来たばかりというのがよく分かる。
台所が思っていたよりも広く、ガルノスさんに奨められた調理器具を置いてもまだ少しスペースが残っている。必要な家具は一通り揃えてあるので生活に支障は出ていない。
「フィアットさん。ご飯まだですか~?」
「今から作るところだ。少し待っていてくれ」
最近はこれといって音沙汰もなく比較的平和に過ごせているのだが、前にも増してナシアが亭主風を靡かせているのでため息をつく回数がここ最近増えていて困っている。
少しは手伝う様子を見せても良いと思っているが、椅子から腰を上げようともしない。さらに言うと足をばたつかせて私の方をじっと見つめてくる。
小さな音が腹の底から聴こえて彼女は赤面して下を向いた。彼女は今が育ち盛りなので良く食べる。出会った時は小さかったナシアも数年でそれなりに大きくなった。
木の枝のように痩せ細った腕も今は多少マシになったので自衛が出来るくらいにはした方が良いだろう。
食事を摂り終わると二人並んで皿洗いをする。食事の準備はしないのに後片付けはするので彼女の行動原理はいまいちよく分からない。
それが終わると彼女は近所の歳の近い子供達と遊びに出かける。遠くまでは行っていないようなので暗くなる前に帰って来ない時以外は基本的に口を挟まないようにしている。
―――この街に来てからナシアの表情は明るくなったと思う。待望の魔法に触れた、というのも一つの要因かもしれないが一番は同年代の友人が増えた事が大きいだろう。
やはり外に出た事は彼女にとって良い方向に繋がっている。あのまま森の近くに居ては魔物によって命を奪われていたかもしれない。そうなる前に私が彼女と出会えたのはある意味幸運と言って良い。
彼女は孤独の中でも強く、逞しく生き抜こうとしていた。今の彼女は年相応の元気な普通の子供だ。よく笑い、よく食べて、よく遊び、たまには我儘も口にする――それは極々当たり前だ。まだ幼い子供が一人で生きようと決意を固めていたこれまでが異常だったのだ。
彼女からは私がいる今でもその傾向が見られる。彼女を只の子供としてのびのびと育て上げる……それが親の代理である私のするべき事であり、私が救えなかった命へのせめてもの酬いでもある。
彼女は顔に苦い表情を浮かべて洗濯を済ますと中に入る。その日の空は清々しい程の快晴で絶好の洗濯日和であり、彼女の陰った顔を眩い光がより強調していた。




