どいつもこいつも
「で、誰が指示したの?」
地下牢に沈黙が落ちた。
マリア王妃は目の前に正座する面々を見下ろす。
「女官長が、王妃様のためだと……。」
「私の命令だと?」
「そ、その……。」
「確認は?」
誰も答えない。
「口頭命令だったの?」
沈黙。
「書簡は?」
沈黙。
「私への事実確認は?」
沈黙。
「宰相への報告は?国王陛下への上申は?」
沈黙。
「侍従長は知っていた?」
沈黙。
マリア王妃は天井を見上げた。
「つまり。」
全員が身を縮める。
「誰一人確認せず。勝手に王妃の名を騙り、勝手に侍女を拘束し。」
「……。」
「勝手に地下牢へ放り込んだ挙句に……勝手に拷問したと?」
「……はい。」
「ほう。」
その一言で全員の顔色が消えた。
「王妃様!」
地下牢へ兵士が慌てて駆け込んでくる。
「アマルベルガ殿がお呼びです!」
マリア王妃は即座に立ち上がった。
「全員、独房へ。」
全員が顔を上げる。
「私が良いと言うまで出すでない。」
「お、王妃様!」
「返事はいらない。」
マリア王妃はマントを翻した。
「それから、女官長の拘束を。」
「お、王妃様!女官長は公爵夫人で――」
兵士はそう言い掛けたが、マリア王妃の温度すら感じられない冷たい目線に、首を垂れた。
「……かしこまりました。」
「その者たちを連れて行きなさい。」
王妃宮。
寝台の上には眠るリザ。
マリア王妃が静かに入って来て、医師が頭を下げた。
「王妃様。」
「どうだった?」
「酷い暴行を受けておりました。」
マリア王妃の拳が握られる。
「ですが。」
医師は続けた。
「奇跡的に一命を取り留めました。」
マリア王妃は深く息を吐いた。
「そう……。」
肩から力が抜ける。
「しばらくは療養が必要ですが、命に別状はございません。」
「ありがとう。」
マリア王妃は心からそう言った。
そして横に立つ魔女へ向き直る。
「アマルベルガ殿。」
「はい。」
珍しく歯切れが悪い。
「何かあるの?」
アマルベルガは咳払いした。
「王妃様。」
「ええ。」
「リザ嬢は、その……。」
「その?」
「孕っております。」
沈黙。
「……ワンモア。」
「妊娠しております。」
「……。」
「七週ほどかと。」
マリア王妃は天を仰いだ。
長い沈黙。さらに長い沈黙。
「……神よ。」
「王妃様、残念ですが私は魔女です。」
「そうね……。」
マリア王妃は大きく溜め息を吐いた。
「なぜ今それを私に投げた。」
アマルベルガは視線を逸らした。
数分後。
王城執務棟の扉が勢いよく開いた。
バァン!!
国王トマスが飛び上がる。
宰相が羽ペンを落とし、侍従長が椅子からずり落ち、騎士団長が反射的に敬礼した。
そこに立っていたのは、何故かハリセンを握り締めたマリア王妃だった。
全員、嫌な予感しかしない。
「マリア?」
国王が恐る恐る口を開く。
「正座。」
「え?」
「正座。」
「いや、待っ――」
「正座。」
四人は反射的に正座した。誰一人逆らわなかった。
マリア王妃は椅子へ腰掛ける。
足を組み、笑顔だった。誰もが震え上がる笑顔だった。
「さて。」
全員が固まる。
「アンタら。」
ニッコリ笑う。
「何やってた?」
四人とも冷や汗ダラダラである。
マリア王妃は小さく息を吐き、リザが暴行を受けた事、そして妊娠している事を伝えた。
「リザは、無事なのか!?」
「誰が喋っていいと言ったの?」
マリア王妃に睨まれ、トマス国王は黙る。
マリア王妃は大きく息を吐いて、足を組み直す。
「陛下。」
「はい。」
トマス国王の肩が跳ねた。
「私はあの子を側に置くなとは言っていません。」
「うむ。」
「ですが。」
王妃の笑顔に、全員が震えた。
「アンタがあの子の身分を保証しなかったから、こんな事になったんでしょうがぁぁぁっ!!」
国王が縮み上がる。
「え、いや、その……。」
「何が、その、よ!」
ハリセンで机を叩く。
バァン!!
「人前でイチャイチャ、イチャイチャ!」
バァン!!
「イチャイチャ、イチャイチャ!」
バァン!!
「イチャイチャ!イチャイチャ!」
バァン!!
「四六時中イチャイチャ、イチャイチャぁぁっっ!!」
「そんな四六時中では……。」
「してたでしょうが!」
「はい……。」
「側に置くなら側室にする!」
「はい……。」
「別宮を与える!」
「はい……。」
「護衛を付ける!」
「はい……。」
「身分を保証する!」
「はい……。」
「子が出来た時の処遇も決める!」
「はい……。」
「手続き踏めぇぇぇぇぇっ!!」
「申し訳ありません……。」
国王、撃沈。
「こんな事になるなら!もっとしつこく聞いとくべきだったわぁぁっっ!!
あの子をどうするべきかってぇぇ!!」
マリア王妃はトマス国王の頬をハリセンでぶん殴った。
「まぁ、いずれって言葉を信じた私が馬鹿だったわぁぁぁっっ!!
でも、あなたはそれ以上に馬鹿よぉぉっっ!!」
国王、吐血。
マリア王妃は肩で息をしながら、次の標的を見る。
宰相と侍従長が同時に目を逸らした。
「次。宰相。それから、侍従長。」
「はい。」
「報告は?」
沈黙。
「私への報告は?」
さらに沈黙。
「私が陛下へ伺いして以降、何故ないの?」
誰も答えない。
「私も気付くのが遅れた非はあるわ。」
全員が少しだけ安心したが……。
「だけど!!それとこれとは話が別でしょうがぁぁっっっ!!」
全員が飛び上がった。
「だから女官長が私をすっ飛ばして!」
「……。」
「拷問官を動かして!」
「……。」
「地下牢に放り込んだんでしょうが!」
「申し開きもございません……。」
「当たり前よ!!」
机が悲鳴を上げた。
「王妃の名を騙る、王妃の権限を騙る、王妃の命令を捏造する。」
「……。」
「これ。」
全員が顔を伏せる。
「王家への冒涜よ。」
執務室が静まり返り、マリア王妃は深く息を吐いた。
「……さて。」
全員が絶望した。
「まだ騎士団長が残ってるわね?」
「えっ。」
騎士団長が顔を上げる。
「警備体制どうなってるの?
王城の警備の最高責任者である貴方が知らなかったとは……言わないわよね?」
騎士団長、白目を剥いて気絶しかける。
王妃は舌打ちをして、立ち上がった。
「ったく……どいつもこいつも……。」
腕を思い切り振り上げて……
ダァァァンッッ!!
机を思い切り叩きつけた。
「今からリザ・ロベルトの身柄は、王妃たる私の管理下に置きます!
あの子とお腹の子の処遇について、全て私の権限の元で決めます!」
「ま、待て、マリア!リザは余の子を孕んで――」
「は?」
マリア王妃は首を傾げる。
「身分保証しない、護衛付けない、側室に迎える手続きすらせず……。
なのに、父親の権利だけは主張するの?」
マリア王妃のど正論に、トマス国王は黙ってしまった。
マリア王妃は再び腕を振り上げる。
ズバァァァン!!
今度は椅子を叩きつけた。
ハリセンは遂に悲鳴を上げ、グニャリと折れてしまった。
「さっき言った通りよ!リザとお腹の子の処遇は、全て私の権限で決めるわ!
処遇が決まったら、伝えるから!それまで、大人しくしてろっ!」
王妃は折れたハリセンをトマス国王に向かって投げつけ、カツカツとヒールを鳴らし、大きな音を立てて扉を閉めた。




