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戦いの常識が覆る日



 俺が異世界に来てから三ヶ月が過ぎようとする頃。ついに、その日がやってきた……。


 「やぁ、君がハルト殿だね?私は第一王子のニコラ・ガランだ。君の活躍を期待しているよ。」


 戦場にやってきた俺に真っ先に声をかけてきたのは全軍の指揮を担う第一王子だった。


 第一王子の部隊に龍星とクラスの男子が二人参加することを聞かされた俺は、指揮を任された近衛兵たちの攻撃を待っていただけるように頭を下げて頼み込んだ。


 「お初にお目にかかりますニコラ殿下。殿下の足を引っ張らないよう、私は離れた場所から攻撃を命令させていただきます。」


 「足を引っ張らないため?父上から聞いているぞ、貴様魔力がないんだってな。私の足を引っ張らないようにと言っているが、本当は前に出るのが怖いだけなのではないか?」


 予想通り殿下は俺のことが気に入らないようだ。この薄ら笑いを見ていると、俺を見下ろしていた頃の龍星の顔が頭に浮かぶ。


 「殿下の仰る通りでございます。なにぶん戦場に足を運ぶのは経験がないため、今も逃げ出したい気持ちでいっぱいでございます。」


 「フッ ならば、初めから戦場になど来なければよいではないか。」


 「……私もそうしたかったのですが、同じように戦場へ足を運んだことのない同胞が兵器のように扱われているのは見るに耐えず……もし、叶うのであれば殿下が私にかけていただいたその言葉を、戦場に赴いている同胞にもかけていただけると嬉しく思います。」


 「………………」


 少し意地悪だっただろうか、殿下の顔が明らかにひきつっている。


 「ここにおらしたのですねハルト殿!さぁ、こちらに。部下は既に持ち場につかせておきました。」


 タイミングを日計らったように現れた近衛騎士団長のバジルさんに腕を引かれるように、俺が指揮を任された近衛騎士団の元に案内された。


 「……流石に間近で見ると迫力ありますね」


 目の前にはガラン王国の技術者たちにより再現された巨大な投石器が配置されており。陛下の近衛兵が発射の準備を進めている。


 「見えてきましたねハルト殿。あの砂埃が魔物の軍勢です」


 バジルさんの指を指す方向には大量の砂埃が舞っており。姿は見えないが、ゴブリンやオーク、トロルなんかの魔物が列をなして向かってきているんだそうだ。


 投石器の飛距離は何度も確認した。後は魔物たちが射程に入り次第、合図を出せば大量の魔物の命を奪うことができる。


 「………………」


 「……ハルト殿。無理をなさらなくとも、合図を出すだけならば私が代わりに……」


 「……大丈夫です。これは俺がやらないといけないんです。」


 魔物とはいえ命は命。命を奪うための道具を異世界に持ち込んだものとして、俺が責任から目を背けてはいけない気がする。


 「ハルト殿、魔物が射程に入りました。…………ハルト殿?」


 「まだです……まだ……まだ……」


 完全に敵が射程の内側に入り込むまで合図は出さない。こんな状況だっていうのに頭が冷静に冴え渡っている。


 「……今!」


 俺が腕を上げると同時に投石器から袋に詰められたコアが射出された。投石器は数メートルの間隔を空けて配置されており、射出されたコアは別々の位置で魔物の頭上に降り注いだ。


 「ドオオオオオオオオ!!」コアが魔物の頭部に、または地面に落下して割れると同時に魔物の大群を巨大な爆発が包み込んだ。地面に響く爆発音、砂埃と共に焼けた肉の匂いがこちらまで漂ってくる。


 バジルさん曰く、コアの爆発の威力は優秀な魔法使いが日に一度使えると言われている上級魔法に匹敵する威力らしい。改めて命を奪うことの恐ろしさを体で感じ取った。


 「竜騎兵!逃げた魔物にコアの投下を!」


 恐怖で体を震わせるのは後でいい。今は自分に与えられた役割をやりきることだけを考えろ!


 「殿下!逃げ場を失った魔物がこちらに向かってきます。全軍で迎撃をお願いします!」


 「……あ、あぁ分かった。」


 殿下だけではなく訓練された兵士たちもが、目の前の光景を見て放心状態となっていた。


 そこからは一方的な光景が続いた。逃げ場を失い、こちらへと向かってくる魔物たちは殿下の率いる兵士たちによって蹂躙され、爆撃から背を向けた魔物たちは竜騎兵によるコアの投下により命を奪われた。


 そんな魔物の進行を見事に退けることができた俺は、休む暇なく陛下に呼ばれ王城へとやってきた。


 「見事な活躍だったそうだなハルトよ。それでどうだ、今の気分は?」


 「……自分で生み出した兵器とはいえ最低の気分です。」


 俺の返事がよっぽど気に入ったのか陛下は声を上げて笑った。


 「そうか!そうか!そんな貴様に会いたいという男が二人、国を訪れていてな。貴殿の新しく建てた店舗で待ってもらっている。」


 何を勝手なことを……と、言いたいところだが俺の予想が正しければ、俺が会わなくてはいけない人物であるはずだ。


 陛下の用意した馬車に乗り、俺は陛下と共に近日オープン予定の店舗へと向かった。


 「君がハルトくんか……聞いていた通り、まだ幼いな。」


 窓の多い三階建ての建物の左隣に建てられた飲食店をするには少し大きすぎる建物。陛下の後ろを歩き、中に入ると上等な布を身にまとった男が二人、椅子に腰掛けていた。


 一人は青い衣服を身にまとった耳の長い青年、恐らくエルフなのだろう。もう一人は褐色肌の自分と歳が近いであろう青年。青い衣服を身にまとった青年が先に席を立ち、自己紹介を始めた。


 「私の名前はベルノルト・ファーナー。魔道都市ヴィッセンの代表をしている。」


 「俺はサリム、エルマン王国の国王だ!」


 エルマン王国の国王サリム。若くして父を亡くした彼は、十三歳という若さで国の頂点に立った。初めは国民からの不安の声がサリム王の元まで聞こえてきたが、サリム王が戦場で偉業を成し遂げる度、国王から不安は薄れて言ったという。


 「……ご存知のようですが自己紹介をさせていただきます。私の名前は佐藤陽翔。本日、三カ国の代表が集まったのはコアについての説明を受けるためと考えてよろしいのでしょうか?」


 『コア』という言葉を聞くと同時に二ヶ国の代表の口元がつり上がった。


 「『コア』ということは、ダンジョンの魔物の核を使ってあれだけの威力を出していたのだな。」


 ベルノルト様は興奮気味に俺へと詰め寄った。


 「……ヴィッセンの代表よ。全員が席に着いてから質問をするべきではないか?」


 「それもそうだな……早速、席に着いて話を聞こうじゃないか。」


 陛下になだめられ、落ち着きを取り戻したベルノルト様は椅子に座り直し、全員が席に着いた所で、俺はコアについて、知り得る限りの情報を話した。


 「……恐ろしい発見だな。レイナルド王、貴殿はハルト殿に頼まれていなければ我々に知らせるようなことはしなかったのではないか?」


 「……もし、同じようにコアについて知ることになったとして、貴殿らなら話していたか?」


 睨み合う国を代表する三人の男たち。……早く要件を伝えて、この場から去ろう。


 「……私からベルノルト様に、一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」


 「聞かせてくれ。」


 「コアを使った魔道兵器の開発をヴィッセンで行ってはいただけませんか?」


 「その口ぶりからして、具体的に作りたいもののイメージがありそうだね。」


 ベルノルト様は目を輝かせて俺が口を開くのを待っている。


 「コアから魔力を放出することのできる『銃』という武器と『砲台』をお願いしたいのです。」


 持ち歩いている鞄の中から折りたたまれた紙を取り出してテーブルの上に広げた。


 「これは……!」


 この日のために何度も描き直した『銃』と『砲台』の絵。絵は自慢できるほど上手くはなかったが、形さえ伝われば、魔道兵器の製造には問題ないはずだ。


 「『砲台』は問題なくできるだろうが……どうして『銃』は二種類あるんだ?」


 「長い方は兵士用で小さいのは……正直な所、魔力がなく、魔法が使えないので、護身用に欲しくて。」


 ライフルとハンドガン。どちらもコアからエネルギーを供給するため、コアを取り付ける場所と守るカバーがあり、ブサイクな見た目になってしまっているが、完成すれば間違いなく戦いの常識が変わることになるだろう。


 「ハハ!了解した。それくらいの我儘は聞いてあげなくてはな。ヴィッセンに戻り次第、一流の魔道具士たちに作らせよう。」


 よし、これで一先ずの目的は達成された。後は……。


 「ここまでがコアの運用方法について……そして、ここからがコアの取り扱いについてです。」


 恐らく、話を聞きながら各国の代表はコアの『有用性』についてよりも、『危険性』のことで頭がいっぱいだったのだろう。取り扱いについての話を切り出した瞬間、三人が俺の目を見て話を聞いた。


 「皆様もご存知の通り、コアは非常に危険なもので、一般に出回ることは好ましくありません。」


 コアの『貯蔵』『爆発』の性質は悪用されることになれば一大事になってしまう。


 「コアはダンジョンでのみ手に入れることができます。なので、ダンジョン探索後の持ち物検査、そしてコアの強制買取は必須だと思います。」


 「異論ない。それなりの値段で買い取るのであれば、持ち物検査への不満も薄れるだろう。」


 「どこから情報が漏れるかも分からん。ギルド職員を疑うのは心が痛むが、私服の騎士たちによる見張りはあった方がいい。」


 流石は国のトップだ。俺が口を挟む暇なく対応策を次から次へと……。


 「後は理想を言うのであれば、ガラン王国で勇者によるコアを使った魔力の『供給』。ヴィッセンによるコアを使った魔道具の『開発』。エルマン王国の騎龍による、それらの『運送』ですかね。」


 俺は話の総括として理想を口にした。理想を口にすることで現実を教えてくれることを期待してのことだった。しかし三人の反応は想像とは違った。


 「……提案なんだがハルトくん。もしよかったらヴィッセンに来ないか?君の性格から考えるにヴィッセンの方が合っていると思うのだが。」


 「おいおい!それを言うなら俺の国の方がコイツには魅力的なんじゃないか?なんせエルマン王国は美食の国!様々な調味料やスパイスのあるエルマン王国の方が料理の選択肢は増えると思うぞ!」


 「…………………………」


 猛烈な二人による勧誘を陛下は黙って眺めていた。


 「……お誘いは嬉しいのですが。この国にはお世話になった方が沢山いるので、しばらくはこの国で頑張ろうと思います。」


 「そうか!それなら、残念だが仕方ないな。ところでだハルト……我々をもてなすための料理はまだなのか?」


 「料理……ですか?」


 陛下が俺から目を逸らした。


 「なんだ、聞いてないのか?そこのレイナルド王に自慢されてな。なんでも、お前の世界の料理は超美味いそうじゃないか!」


 「いつテーブルに並ぶのか、実は私も気になっていた。」


 二人の国の代表が俺へと熱い視線を送るが、陛下は頑なに俺と目を合わせようとしない。


 「……申し訳ありません。陛下が召し上がられた料理は近くの宿屋の食堂にて提供されていたもので、お召し上がりいただくには少し移動しなくてはなりません」


 「なんだ、そうなのか……」


 宿屋に連れていってしまえば、ネリーさんとカロルにどんな目で見られるか分からない……頼むから断ってくれ!


 「では、早速向かうとするか!」


 「目立つのは避けたいところですが仕方ありませんね。ハルトくん案内をよろしくお願いします」


 結局、俺は三人の国のトップを連れ宿屋の食堂へと入り。後日、ネリーさんとカロルに事細かく事情を説明することとなった……。

 

 


 


 

 

 

 

 

 


  

 

 

 

 

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