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全て虫のせい~茨城元行・編「針聞書」より

挿絵(By みてみん)

室町時代 永禄11年(1568) 「針聞書はりききがき

茨城元行いばらき もとゆき・編

文化庁「文化遺産オンライン」より


─────────────────────────




はい、全て 虫のせいなんです


実は あなたの体の中には

虫が棲んでいるんですよ


近頃 調子がよくない

どうも気が塞ぐ

病になっちゃった

なかなか治らない


はいはい、全て虫のせいだから


なになに

何か大いなる力が

罰をお与えになってるんじゃないのかって?

強大な力を持つ悪魔かなんかが

憑依してるせいじゃないのかって?


違いますよ

ほら この ちっぽけな虫

これが正体


ご安心召され

きゃつらの棲む臓器に

それぞれ適したやり方で (はり)を打つ

きゃつらの嫌う食べ物を 体に送り込む


さすれば快癒……する筈だ


だから学ぼう きゃつら虫どもを

病は 人間が闘うことのできる相手なのだ




─────────────────────────




針聞書はりききがき


室町時代 永禄11年(1568)

茨城元行いばらき もとゆきによって著された、鍼灸(しんきゅう)治療の手引き書です。


病気の原因は、「虫」。


たとえば、これは「蟯虫ぎょうちゅう」。

実際にいる寄生虫と同じ名前ですね。



挿絵(By みてみん)


でも、こちらは無関係の架空の虫。

手足が合計で六本もある、不思議な体。

庚申(こうしん)の夜に体より出て閻魔大王にその人の悪事を告げる虫」って書いてあります。


これは、道教(どうきょう)のお話からインスパイアされているようです。


すなわち、人間の体内には「三尸さんし」という三匹の虫が棲んでいる。


上尸じょうしは、頭に棲む。知性や食欲に関係している。

中尸ちゅうしは、腹に棲む。臓器や財欲に関係している。

下尸げしは、足に棲む。性欲や行動に関係している。


そして、60日に一度巡ってくる「庚申の日」。

この夜、人が眠ると、この三尸が体から抜け出して、閻魔大王にその人の悪事を報告する。

その結果、寿命が縮められたり、死後に地獄へ落とされるのだ。


そう信じられていました。


じゃあ、「庚申の夜」に眠らなきゃセーフじゃん。

三尸の虫が天に登るのを防ぐことができる。


この行事が「庚申待こうしんまち」。

平安時代の貴族は、詩歌や管弦の遊びを催して徹夜したそうです。


いや~。60日にいっぺん徹夜って、きつくないですかね。

実際には、地域や時代によって頻度や熱心さに差があったようですが。

江戸時代には、庶民の娯楽や信仰行事として定着していて、むしろ楽しみにされていた面もあるそう。もはやイベントですね。


ともあれ、それまでに浸透していた道教の思想。

これらも背景としながら、「針聞書はりききがき」は、より具体的に示していきます。


ほら。この蟯虫ぎょうちゅうって奴を見ろよ。

長い舌を持つ、お喋りな野郎だ。

こいつが棲みついたら、最後。ある事ない事、閻魔さまに告げ口されるから、寿命が縮まっちまうんだぜ。


他にも。

こっちの虫は、痒みを引き起こしているんだ。

この虫は、腹痛。

この虫は食べ物を横取りする。だから痩せちゃうんだよ。

などなど。


挿絵(By みてみん)

左:脾臓の虫(脾臓にいる虫。筋を捕まれると、目まいを起こして頭を打つ。木香・大黄で退治できる)

/右:気積 きしゃく(油気の物を好み、魚や鳥も食べる。虎の腹を食べると退治できる)



挿絵(By みてみん)

左:キウカン きうかん(肺にいる虫で、食物に向かって起こる。別名を肺カンともいう。虫がこの姿になると病気が治りにくくなる。針の打ち方は色々ある)

/右:馬カン うまかん(心臓にいる虫。日がたって起こる)


画像は、文化庁「文化遺産オンライン」より

説明は、九州国立博物館HP「収蔵品ギャラリー『針聞書』虫をもっと見る」より




虫それぞれに名前をつけて。

性格、棲み処、好物、引き起こす症状、治療法が細かく設定されている。

まるで物語の登場人物のように。


病気を「虫」という「生きた存在」として捉える。

そのことで、病気をより身近な問題として考えられるようになるのです。


そうか、俺の体に棲んでるのかあ。

じゃあ、俺が食べる物も関係するよな。

寝たり起きたり、生活そのものにも、当然影響するよな。


現代の常識からしたら、もちろん間違っています。


でも。

病気は、自分の力ではどうしようもできない、神様とかの力が引き起こすものではないらしい。

「陰陽五行説」や「気血水の乱れ」だの、抽象的な理論を説かれたって、訳が分からないけど。

こうやって、具体的に「この虫のせい」って示されれば、納得できる。

よし、こいつを退治すればいいんだな!



患者本人も。そして治療者自身にも。

虫の好物や棲み処が記されていることで、治療法(針・灸・薬)との因果関係が明示された教本となっているわけ。


その点において、この「針聞書はりききがき」は優れた医学書であり。

また、日本人の身体観や病気観に深く根ざした書物としても、高く評価されているのです。



針聞書はりききがきは、九州国立博物館収蔵。

ぜひ、他の虫もご覧下さいませ。キモかわいい。グッズ化もされてますよ。


https://www.kyuhaku.jp/collection/collection_harikiki-2.html



私は去年の暮れにぎっくり腰をやってしまいまして。

それ以来、癖になったらしく、軽いものを何回か繰り返しています。

こいつのせいか!


挿絵(By みてみん)

出典:九州国立博物館HP「収蔵品ギャラリー『針聞書』虫をもっと見る」

文化庁「文化遺産オンライン」より

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