執念~葛飾北斎「百物語 しうねん」より
葛飾 北斎『百物語』(ひゃくものがたり)
江戸時代・天保2~3年(1831-1832年)ごろ出版
─────────────────────────
百物語は これでお終いだ
最後の蝋燭を吹き消したとき
本物の妖怪が姿を現す
さて 俺もそろそろ支度をするか
位牌には こう書いてくれよ
天から降臨した化物絵師
その名も モモン爺さま
ご大層だが 中身は空っぽ
鱗の皮一枚だけを遺して逝く
なんちゃって
そうだ 菓子も供えてくれよ
俺の湯呑に榊の葉を浮かべて
「どうぞ安らかに成仏ください」
いやいや 悪いができそうにない
まだ描き足りないんだ
百物語の奴らと同じさ
人間死んだらお終いだが
死んだって お終いになんてさせねえ
己の執念を宿した魂が
この世に残る限り
人は永遠に生き続ける
人の器が壊れた姿を 浅ましく晒しながら
蠟燭の灯りが
ヨボヨボの爺を照らしている
さあ そろそろ吹き消してみようじゃないか
答えは分かってる
白く棚引く煙の後ろにいるのは
人間だ
─────────────────────────
注:茂問爺
妖怪を意味する児童語の「百々爺」をもじっている
─────────────────────────
葛飾北斎の傑作シリーズ『百物語』
百物語を題材にしているけれど、100枚どころか5枚しかない。
そのラストの作が、この「しうねん」。
あとの4枚は、こちら↓
さらやしき
『番町皿屋敷』のお菊さんがモチーフ。
井戸から現れた彼女の首が、皿を何枚も連ねた蛇のような姿で描かれている。
そうくるか~。独特すぎる発想。
笑ひはんにや
恐ろしい角が生えた般若が、子供の生首を掴んでいる。
首の切り口がザクロみたい。鬼子母神にインスパイアされてる?
お岩さん
『四谷怪談』の有名なヒロイン。
毒を盛られて顔が崩れたお岩さんの顔が、提灯と一体化してる。
なんかキモ可愛い。インパクトあるわ~
こはだ小平二
妻とその愛人に殺された役者、小幡 小平次の話から。
注:作品の表記は「小平二」ですが、モデルの役者名は「小平次」
幽霊になって、蚊帳の上から二人のイチャイチャを覗き込むの図。
髑髏のような恐ろしい顔。って、そんな顔になっても仕方ないよねえ……
ちなみに、なんで5枚で終わっちゃったのか、よく分かっていません。
百物語だから、「100枚揃うと本物の怪異が起きる」って恐れた?
版元(出版社)の鶴屋喜右衛門が、経営難で店を畳んでしまったから?
諸説あります。……もっと他の絵も見たかったなあ。
私の好きなNDLイメージバンクに特集記事がありました。
国立国会図書館NDLイメージバンク 肝試し:百物語の世界
https://www.ndl.go.jp/imagebank/column/kimodameshi
ちなみに、これは「浮世絵」というジャンルの絵画。
「憂き世(辛い世の中)」という仏教の言葉を、
「いや、それなら浮かんで楽しく過ごそうぜ!(浮世)」
と捉え直したのが江戸っ子。ポジティブシンキング~。
その江戸時代に大流行したのが「浮世絵」ですが、
ただの絵画というより、もはや色々な「ビジュアルメディア」なんですよね。
『アイドルのブロマイド』
歌舞伎役者を描いた「役者絵」
東洲斎 写楽
『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』重要文化財
(さんだいめ おおたにおにじ の えどべえ)
江戸時代・寛政6年(1794)
推し活は浮世絵で!
『ファッション雑誌・青年誌的な感じもあり』
美しい女性を描く「美人画」
喜多川 歌麿
『婦女人相十品 ポッピンを吹く女』
ふじょにんそうじっぽん
江戸時代・寛政4~5年(1792~93)頃
美人……かなあ?
『旅行ガイド』
各地の風景を届ける「名所絵」
歌川 広重
『東海道五十三次 日本橋』
とうかいどうごじゅうさんつぎ にほんばし
江戸時代・天保5年(1834年)頃
お茶漬に付いてたカードを思い出すわ
『ホラー・アクション』
「怪談絵」「武者絵」
歌川 国芳
『相馬の古内裏』(そうまのふるだいり)
江戸時代・弘化2-3年(1845-1846年)頃
ユニクロのTシャツになってたよね
浮世絵1枚につき、今のお金で大体500円くらい。
ワンコインで、誰もが気軽に「最新の流行」を自宅に持ち帰れたのです。
壁や襖に貼ったり、大切にしまい込まれたり。
何人もで回し読み(回し見?)して、盛り上がったりしたかも。
やがて。浮世絵は、明治時代に入ると「新聞錦絵」という形へ進化します。
東京日々新聞 第九百三十三号
画:落合芳幾※このときの画号は、一蕙斎
記:湿克堂龍吟
血みどろスキャンダル事件
嫉妬に狂った夫が、寝ている妻の口を刀で突き刺して殺害。
新聞名を掲げているのは、なぜか天使。
ご覧の通り、「新聞」といっても、錦絵(簡単に言うと浮世絵のこと)がメイン。
記事の内容は、絵を見れば一目瞭然。さらに、易しい文章が添えられているというもの。
これなら、知識層でない人々に対してもアピール満点です。
そうなると、読者層におもねって、ゴシップ的な記事が多くなる流れに。
スキャンダルな話や凄惨な事件。「それほんと?」的な噂話など……。
郵便報知新聞 663号
明治8年(1875年)
月岡 芳年画 /松林伯円記
これは、実話怪談風ニュースの回。
黒坊主
訳:神田福田町にある大工の親方の家で、去年の9月頃から毎晩夜中の12時になると、頭から下が真っ黒な姿をした坊主(妖怪)が現れる。
その坊主は、寝ている奥さんのそばにうつ伏せになり、吸い付くように奥さんの頬や口を舐めまわす。舐められた跡は、ベタベタして生臭く、耐えがたい臭いがした。
奥さんは恐怖で心身ともに参ってしまい、熱を出して寝込んでしまった。
すると、なぜかその夜からパタリと妖怪は出なくなった。
不思議なこともあるものだ。今は、もう消滅したという。
妖怪、やってることがただの変態ストーカー。
国立国会図書館NDLイメージバンク 明治時代の錦絵の特徴
https://www.ndl.go.jp/imagebank/column/meiji_nishikie
新聞錦絵についても載ってます
爆発的に流行った新聞錦絵でしたが、十年も経たないうちに姿を消していきます。
手間がかかり過ぎ、ニュースとしての速報性が無かった。
単色刷の挿絵と易しい文章で書かれた「小新聞」が発行されて、人気を奪われた。
そんな理由からですが、なんだか、この「新聞錦絵」にはメディアとしての原点があるように感じるんですよね。
「事実を、より刺激的に、絵(画)の力で分かりやすく伝える」
現代のワイドショーやネットニュース。SNS映えを狙う傾向、など。
江戸時代の「浮世絵」の流れは、脈々と受け継がれてきたんじゃないかなあ。
そして。誇張された記事には、人間の剥きだしの本性が描かれている。
鮮やかでどぎつい、血のような赤い染料を多用して。
出て来る妖怪ですら、まるで人間を妖に見立てて描いているみたい。
「建前や良心の覆いを取っ払ってみろ。人間の姿は、こうだろ」
浮世絵という芸術が辿り着いた、沢山の終点。そのひとつは、こう訴えているのだと思う。
★ ★ ★ ★
名残惜しいですが、今回で【日本画編(人間という名の迷宮)】はお終いです。
最後までお読み頂き、有難うございました。
来週からは、名画の詩集シリーズ第6作目を投稿していきます!
『名画の詩集(動物という名の鏡)』
動物たちは、人間を映し出す鏡──
名画に描かれた犬、猫、カラス、狐、狼、ライオン……。
自由に生きる彼らは、ときに人間に寄り添い、ときに人間を嘲笑う。
そして、沈黙のまま真実を映し出す。
それとも動物たちは鏡などではなく、彼らこそが人間の本質を体現しているのかもしれない──
一枚の絵から生まれた詩とエッセイを集めた連作集です。
これまで通り、毎週土曜お昼12:10投稿予定。
ぜひ引き続きよろしくお願いします!
──────────────────────────
~詩以外の作品も紹介致します~
時折AIイラストを入れておりますが、苦闘の連続。
こちらの作品で経緯を綴っております。
【小説に挿絵を入れたくてAI画像生成を始めたけど、大苦戦している話】
https://ncode.syosetu.com/n7288li/
AI画像生成をやったことのない方でも、「これなら自分でもできるんじゃね?」と思うこと請け合いです。
・【ダンジョンズA】:小学生男女が活躍する王道ほのぼのファンタジー
https://ncode.syosetu.com/n2217iu/
・【カイコン】:ネコ耳の美女と美少年とおっさんが奮闘する「昭和ファンタジー」
https://ncode.syosetu.com/n5126kt/
・【AIイラスト満載】物語で楽しむ北欧神話:オーディンとミーミル(隻眼の主神と生首の賢者)~滅びに挑む「最上の負けかた」~
https://ncode.syosetu.com/n3439lo/
どうぞ他作品も覗いて行って下さいね!




