22 初取引
初級クラス以上の説明は無かったが、魔力なし、武器無し、まだ14歳って事から
ランクアップするという事は考えられないのだろう。自分でもそう思う。
そういえば魔獣討伐とかも有るって言ってたけど聖女様の結界があっても
安全じゃないのか?
その辺の事も今度聞いておこう。
温泉の受付カウンターで登録証カードを見せると一瞬驚いた顔をしたお姉さんが
「お預かりする物があればこちらにお出しください」と番号の書かれたトレーに
同じ番号のひも付きプレートを乗せて差し出した。
ポケットから残ったお金を出してトレーに乗せて番号プレートを受け取った。
「ごゆっくりどうぞ」
と疑心暗鬼な表情で声を掛けてくれた。
脱衣所の入り口は男女別々になっている。まあ、当たり前の事だけど。
女の人もちらほらと歩いている。
脱衣所で服を脱ぐ。着替えはチャリに新品を出して貰って風呂敷に包んである。
この距離だとリリィと念話できるのでスマホは盗まれる事を考えて
チャリに置いて来た。
プレートを首から下げてタオルを持って浴場へと踏み入った。
洗い場は屋根付きだけど湯船は自然の中の岩場を利用したような造りになっていて
なかなか風情がある・・・
と言うかテレビで見る秘湯に近い状態だ。
もちろんシャワーなんて無い。蛇口らしきものも見当たらない。
洗い場は壁伝いに設けられた一段高くなった水路の中をお湯が流れていて
それが湯船に注ぎ込んでいる。
水路からくみ上げた湯で洗った体の汚れを流して湯に浸かる。
水路の元をたどると大きな石釜みたいなのがあって底から湯が沸きだしている。
縁には柄杓っぽい物が置いてありどうやら飲むことが出来る温泉の様だ。
湯船は石畳の様に岩が敷き詰められている。
周りの景色は自然そのもの。獣が飛び出して来てもおかしくない。
久しぶりに汗と汚れを落とし新しい服に着替えて預けた物を受け取ろうと
受付でプレートを出した。
さっきまでは疑いの目を向けていたお姉さんが愛想よくトレーを出してくれる。
そうか、さっきまでの俺は三日間着っぱなしの服でおまけに農作業までして
どう見てもお金なんて持っていそうにないその辺の悪ガキっぽかった。
今は新品の見慣れない服でお金持ちの子息っぽく見えているのかもしれない。
「またのご利用お待ちしております」
余りの変わり様にちょっと背筋がぞくっとした。
外に出て人目が無いのを確認してチャリに近づく。
クーラーバッグを出して貰いスマホをポケットに入れて隠蔽魔法を解いて貰う。
ギルドの引き取り窓口へと移動して魚を引き取って貰う事にした。
せっかく遠くまで来たからちょっと街の中もぶらついてみたい。
そうなるとある程度お金は持っていた方が良い。
それに忘れないうちにノルマもこなしておきたい。
窓口はまだ午前という事もあり空いている。
チャリを外の見える所に停めて中に入った。
「魚の引き取りってどの窓口でも良いですか?」
「小物の窓口はこちらになります」
右端のお兄さんが手を挙げてくれたのでそちらに向かう。
カウンターにクーラーバッグを乗せてふたを開けた。
「これ全部君が獲ったの?」
「はい」
はっきり言ってこの世界へ来て釣りをしている人を見た事が無い。
ジルも手掴みか網を使うって言っていた。
「どうやったらこんなに取れるの?魔法?」
「いいえ。企業秘密です・・・」
「・・・そうか。何か新しい漁法を編み出したんだな。
まあいいか。
それにしてもこの入れ物は魔道具か?氷も入っていて鮮度抜群だな」
「ありがとうございます。自慢の道具です」
「そうか。悪い奴に気を付けろよ。良い道具は高値で取引されるからな」
「はい。肝に銘じておきます」
「そうしてくれ。ギルドカードも一緒にだしてくれ」
ギルドカードを渡すとお兄さんは魚をトレーに移して鑑定していく。
「岩マス18匹とカワメが10匹、鮮度、大きさ問題なしで
岩マス一匹千ゼニでカワメが五百ゼニ、全部で二万三千ゼニだな。」
「そんなに?」と言うとお兄さんは「ここは領都の街に近いからね」
と教えてくれた。
お兄さんが銀貨、銅貨、半銅貨それぞれ一枚ずつと
明細書と取引内容を登録したカードをトレーに乗せて
「初ノルマ達成おめでとう」と言って差し出した。
「ありがとうございます」とお礼を言って受け取って
クラーバッグを持って外へ出た。
程なくポケットのスマホから警告音が鳴る。
警告音は危険の種類で三つの音で区別がつく様にしてある。
この音は人為的な危険を知らせている。
どうやら今の取引を見ていてよからぬことを考えている奴がいる様だ。




