21 冒険者登録
建物近くの物陰にチャリを停めて人目がない事を念入りに確かめてからチャリの結界外へと出た。チャリはこの世界では異質な物なので俺が離れる時は安全対策として隠蔽魔法を発動したままにしておいて貰う。まあ俺と一緒に居る時でも相手が大人だった場合、チャリの存在を納得のいく様に上手く誤魔化して説明できるとは限らないけど。
その点では子供っていうのは好奇心の方が勝って相手を疑ってかかるという事を知らない。大人に成りかけの俺としては信用ならない大人より子供達を味方につけておきたい…
チャリを置いたまま建物に入って内部を見回し 天井から吊るされている案内プレート下に在る温泉の受付らしき場所に向かった。途中ですれ違う大人達がちらちらとこちらを見るが気にしない。
「14歳だけど入泉料っていくらですか?」
受付のお姉さんは一瞬、顔を顰めた様に見えたがすぐに愛想笑いを浮かべた。
「君はこの温泉は初めて? ここは冒険者組合が運営しているから
冒険者は無料なんだけどその他の一般の人は子供も含めて半銅貨一枚よ」
半銅貨一枚っていったら約千円か… 庶民には贅沢な定食一人前・・・
14歳のガキにとっては普通は出せない金額なんだろう。そこで後学のために気になっている事を聞いておく事にした。
「冒険者って14歳でもなれる?」
「登録料を払えばなれない事は無いけど… 二階にこの街の支部が有るから興味が有るなら詳しい事はそっちで聞いてくれるかしら」
ラノベ異世界物の定番職業は冒険者だ。そりゃあ興味はある。それにいつまでも釣った魚を売るだけで生活していくのは厳しいだろう。
だからこの際冒険者についての詳しい説明を聞いてみる事にした。早速お姉さんに教えて貰った二階の窓口に向かうと 途中の階段ですれ違うのは厳つかったり いかにも冒険してますって感じの身なりのおっさんが多い。
階段上がってすぐ正面にある受付窓口の三人はお姉さん二人とお兄さんが一人だ。一番手前でニコニコしているのちょっと若いお姉さんに聞いてみる事にする。
「すみません、冒険者登録について教えて欲しいのですけど」
「承知しました。お歳を教えて頂けますか?」
「14歳です」
「冒険者登録は13歳から可能です。何か得意な武器とか魔法は有りますか?」
「・・・ないです」
ラノベ定番と言ってもこの世界での冒険者の仕事ってまだ良く判らないので 自由に使えても自分の持ち物では無いアイテムボックスの事は黙っておいた方が無難だろう。
「冒険者は主に食用や素材になる動物や魔獣を狩ったり、実力によっては組合からの要請に応じて魔物や魔獣などの討伐を行う事もあります。
他には商隊などの警護もありますがこちらも当然戦う術が必要です。
薬草や植物関連の素材集めと言った仕事も有りますが初心者向けで報酬は少なくそれだけでは生活する為の職業とするのは厳しいでしょう」
「生活資金を稼ぐ仕事は追々を見つけるとして 繋ぎの生活費を稼ぐ為に登録しておくっていうのは可能ですか」
「はい。登録は可能ですが特典を受ける為のノルマは発生しますので登録抹消されない様に気をつけて下さい」
「ノルマ?ってこなすの大変ですか?」
「ノルマ分の働きがあって初めて温泉が無料になるとか、組合の運営に出資しているという事になりますので初級クラスでもひと月に最低銅貨五枚分の報酬を受け取る事が出来る仕事を請て頂くか、相当分の食材や薬草を持ち込んで頂く事になりす」
銅貨五枚って約一万円か。岩マスが15匹で約八千円だったから何とかなりそうだ。
「あの、食材って魚とかでも引き取って貰えるんですか? 俺、魚を捕まえるのは得意なんでそっちでなら何とかなりそうなんですけど」
「もちろん魚でも大丈夫ですが、魚ですとかなりの量が必要になると思いますよ」
「ちなみに岩マスっていくら位で引き取って貰えますか」
「岩マスですと大きさや鮮度にもよりますが高級魚ですから一匹鉄貨五枚から半銅貨一枚が相場ですね」
鮮度は間違いなく良いと思うし大きさも問題ないだろう。追々他の魚や手に入りそうな薬草なんかも探してみよう。魔物や魔獣は… 遭遇する事すら御免こうむりたい。
「じゃあ取り敢えず登録をお願いできますか」
「手数料が銅貨一枚にになりますけど・・・」
まだ手持ちがあるし入泉料を払って温泉に入る事を思えば二回分で元が取れる。
ポケットから銅貨を出してカウンターに置くと驚いた顔をされたが 申込用紙をカウンターに出して記入方法を教えてくれる。
「文字は書けますか?」
此処へ来てから字が読めるので書く事も問題ないだろう。
「たぶん」
「では名前、年齢、本拠地を記入して得意な魔法、使用武器の欄は空白のままでよろしいです」
イメージしながらペンを走らせると文字が書けていく。
「本拠地ってイスト地方でも良いですか? まだ定住する場所が決まっていないんです」
「そうですか。とりあえずそれで構いませんが決まったらまた登録し直してください」
「わかりました」
この世界で定住する事はなさそうだけど… 現時点では元の世界に帰る事を諦める気はない。
「後は魔法が使えないとの事ですからこちらのカードに人差し指の血判をお願いします」
わー、それって針で突いてってやつだよね。
釣りをしていれば頻繁に指に針が刺さるけどそれとこれとは話が別だ。指先を見つめること暫し、「えいっ!」とばかりに針を刺し血が出るように指先を扱く。
無事に血判を押し終えたカードをお姉さんがカウンター後方で仕事をしている人に渡して待つこと暫し
「こちらが登録者カードです。再発行は手数料がかかりますので無くさない様にお気を付けください。初級ランクは先ほど申しました通り一か月以内に当組合と最低でも銅貨五枚に相当する取引をお願いします」
「わかりました。買取のカウンターはここで良いんですか」
「薬草買取は右手奥のカウンターで行っておりますが、その他の素材魔獣等生物は建物を出て右手の一階に窓口がありますのでそちらにお持ちになってください」
「ありがとう」
そう言ってカウンターを後にして一階に下りた。




