14章
1
三日。制御訓練と並行して、彩葉は生徒会の全回線ログを洗っていた。演習室。薄暗い空間にモニターの光だけが浮かぶ。
「見つからないはずがないのよ」
静かな声。
「鳳凰寺が“内部状況”を正確に把握している。偶然ではない」
俺は壁にもたれ、演算を抑え込む。未来は、まだ多い。だが今は集中を一点に。漏洩経路。
生徒会サーバー。
演習記録。
異常同期率のデータ。
それらが外へ流れている。
「白斗」
彩葉がこちらを見ずに言う。
「あなたの演算で、通信ログの“違和感”を削れる?」
「確率の歪みを探せばいいんだな」
「ええ。人為的改竄の痕跡は、必ず不自然な選択をしている」
ヘッドセットを装着。今回は仮想戦ではない。情報空間。ログの海。
2
数字が、流星群のように流れる。通常通信は滑らかだ。だが一箇所。わずかに“重い”。未来を分岐させる。
改竄なしの未来。改竄ありの未来。後者だけ、演算が引っかかる。
(ここだ)
削る。余計な分岐を消す。残る一本。送信元。学園内部。生徒会権限保持者。名前が、浮かぶ。
――副会長・高槻 玲司。
ヘッドセットを外す。息が荒い。
「副会長だ」
室内の空気が凍る。夏芽が首を振る。
「嘘でしょ……?」
彩葉は、目を閉じる。
「証拠は?」
「通信ログの改竄経路。外部IPは鳳凰寺」
静寂。
「……直接、聞く」
彩葉は立ち上がる。
3
生徒会室。高槻はいつも通り、穏やかな顔で書類を整理していた。
「会長? どうしました」
「質問よ」
彩葉の声は平坦。
「あなた、鳳凰寺と接触しているわね」
一瞬。ほんの一瞬だけ。高槻の指が止まった。
「何の話ですか」
俺は未来を見る。否定を続ける未来。逃走する未来。そして。開き直る未来。最も確率が高い枝を、残す。「ログは押さえた」
俺が告げる。高槻の視線が変わる。穏やかさが消える。
「……さすがですね」
肯定。夏芽が息を呑む。
「どうして」
問いは彩葉から。声は揺れていない。
「どうして裏切ったの」
高槻は苦笑する。
「裏切りではありませんよ」
「では何」
「合理です」
一歩、前に出る。
「会長。あなたは優秀だ。だが学園という檻の中で完結している」
「言いたいことを」
「鳳凰寺は、世界を動かす側だ」
視線が俺に向く。
「彼の力は、ここで腐らせるべきではない」
「兵器にする気か」
「管理ですよ」
同じ言葉。 橘と同じ。
「暴走すれば都市一つ消えかねない」
正論。だが。
「だから差し出したのか」
「“保険”です」
高槻は淡々と言う。
「あなたが壊れた場合、即時回収できるように」
彩葉の拳が、わずかに震える。
「私を信用していなかったのね」
「感情論ではありません」
「答えになっていない」
沈黙。俺は未来を見る。このまま対立すれば、学園は分裂する。高槻は単独ではない。支持者がいる未来が見える。
(……面倒だ)
なら。削る。対立の未来を。
「条件付きで協力させる」
俺が言う。全員がこちらを見る。
「高槻。鳳凰寺との連絡は続けろ」
「白斗?」
夏芽の声。
「ただし、俺の指定情報だけを流す」
彩葉が理解する。
「偽装情報で財閥を誘導する」
「そう」
未来が整理される。
分裂回避。
内部監視強化。
時間稼ぎ。
高槻は目を細める。
「危険な賭けですね」
「合理だろ?」
一瞬。笑みが交差する。
「……会長の判断に従います」
彩葉は数秒沈黙し、頷いた。
「監視下での職務継続を認める」
処分はしない。
利用する。
4
夜。屋上。夏芽が小さく言う。
「怒らないの?」
「怒ってる」
「でも利用した」
「必要だから」
空は黒い。未来はまだ多い。だが一つ、確定している。鳳凰寺は罠にかかる。その代わり。俺の演算負荷は増す。現実干渉も、強くなる。
「白斗」
彩葉が隣に立つ。
「あなたは冷たい」
「知ってる」
「でも」
わずかに、柔らかい声。
「正しい」
その言葉は重い。俺は夜空を見る。未来を削り続ければ。最後に残るのは、何だ。
勝利か。
孤独か。
それとも、、、、、
まだ見えない座標_
裏切り者の回ですね




