0.Prolog
それは、3歳の誕生日を迎える一週間前の話。
私、エリザ・シュトーレンは40℃を超える高熱を出し、生死をさまよっていた。
意識はすでに現実にはなく、ふと気付いた時には暗闇の中で一人うずくまっていた。
「た……す…………け……て……」
苦しい……。寒いはずなのに、熱い何かが激流のように身体中を激しく循環し、気道が狭窄しているせいで呼吸がままならない。そんな中、微かに発した言葉は、当然誰にも届くはずもなく闇に消えてゆく。
いったいどれぐらいの時間もがいているのだろうか。数分なのか、数時間なのか、はたまた数日なのか……。苦しい時間が永遠のように感じる。
初めは流れ出ていた涙も唾液もいつしか出なくなった。幼いながら自分はもう死ぬんだ、と感じ始めた頃には身体を動かす事が出来なくなった。
私は自分が嫌いだった。大嫌いで、自分なんて早く居なくなればとも思っていた。とうの昔から……産まれる前からこうなる運命を知っていたのに。でも、いざ死ぬ時になったら……こんな自分でも、愛してくれている家族の顔が浮かんだ。
私が死んだら悲しむかな?ああ、皆の泣く姿は見たくないな……。
そう、私はちゃんと理解もしていた。運命だけでなく、自分の中身が異質である事を。だから……私はわざとあんな態度を取っていたのに……。困った子だと思っていた癖に愛する事を辞めない馬鹿な家族。
愛なんて……欲しくなかった。気味が悪いと見向きもしせずに放っておいて欲しかった。
でも、私が愛される事を素直に受け止める事が出来ていたなら、もう少し違う人生が待っていたのかな?
はは……それはないか。
神から与えられた私の運命。大きな期待だけを背負わせて、それに器がついていけてない。体が、心が、欠陥品の私。なら……私はなんの為に産まれたのかな……。3年も満たないこの命に意味はあったのか。神様、どうせ期待するなら全てが完璧にすべきでしょ。
でも……もし……願いが叶うなら……せめてもう少しだけ……あの優しく暖かい家族の元で生きてみたい……。本当は……。
──死にたくない。
ふと、目の前に小さな光がふわりと飛んでいるのに気がついた。虚ろな目でじっと追いかけていてると、光は淡く7色に光っている事に気がつく。そして、ほんのりと温かい。
すごく綺麗な光だと思った。触れてみたいと思った。
あの光に触れたら……親不孝者な私でも光のある場所に……天国に……行けるかな。
最後の力を振り絞って光に触れたその時、光は強く発光し、頭の中に多くの情報が走馬灯のように流れてきた。この世界とは全く異なった別の世界に住んでいたある一人の女性の記憶が。
──そして、私は『私』となった。