01.幼女と異世界転生?
「………!」
誰かが叫んでいる気がする。それと同時に体も揺さぶられる。
もー、うるさいなぁー。
もうちょっと寝かせてよ。
今日は体調が悪いのか頭は痛いし、グルグルと回転するような目眩もする。体も休息を欲しているようで、起きる事を拒否しているようだ。
「………!………!」
休ませて欲しいのにも関わらず、一向に静かにならない声に少し苛立ちながらも目を開けると、涙でお化粧がぐちゃぐちゃになっている紺色の髪の美女と銀色の髪のイケメンが覗き込んでいた。
化粧が崩れても美しいなんて……美は正義。そんな事をぼんやりと考えていると――
「ああ。エリザ!!」
「エリザ!!本当に良かった……」
急に美女に抱きしめられ、額にキスされた。
ちょっ、アニメやラノベの見すぎかな。これは夢か。美人に抱きしめられるとか素敵な夢すぎる。次に目を覚ましたらいつもの日常が待っている。もうこんな美男美女に会う事はないだろうけれど、今は寝かせてほしい。私はまだ眠いんだ。
誰か頭を撫でてくれている感覚がする。包み込まれるかのような温かい大きな手。何なんだか凄く安心する。
私の意識はそこで途切れた。
※※※
「んー。今何時?……あれ?いつもの所に時計がない……」
(時計どこにやったかな?……全く覚えてない。スマホでいいや。)
右手を動かし枕元をわさわさするが、いつもあるはずのスマホの感触がない。
呻きながらもゴロンと仰向けになると、視界に入ってくるのは知らない天井。それに驚き辺りを見渡せば、豪華なベッドにフカフカの布団に滑らかなシーツ。白を基調にしながらも、頭元には沢山のクマのぬいぐるみが置いてある、ちょっとファンシーな部屋。時計もスマホも見当たらない。
(へっ?何処ここ?)
慌ててダルい体を起こすと、ちょうど扉をノックする音が聞こえる。
「失礼致します」
そう言ってメイドの格好をした女性が入ってきた。『私』はその姿をまじまじと見ていたので、頭を上げた瞬間にばちりと目が合ってしまった。薄茶色の瞳が大きく開かれると、小走りで駆けてきて『私』の額に手を当てた。
「お嬢様。体調は如何でしょうか。熱は……下がったようで安心致しました」
「ええっと……少ちダルいですが、大丈夫です」
心配そうな顔をしているメイドに安心して貰えるよう、乾いた声で今感じている症状を伝える。するとメイドは更に驚いた表情をした後に『私』の右手を両手でキュッと握りながら、ふわりと柔らかく微笑んだ。
美しすぎるその笑顔は、いとも簡単に『私』の心をかっさらっていった。目の前で微笑む彼女の濃い栗色の髪は、ショートボブのように短めに切りそろえられ、黒のロング丈のメイド服装を見事に着こなしている。
思わず、惚れてまうやろー!そう叫びたい。女だけど。
「奥様に目を覚まされたことを伝えて参りますね。お嬢様はベッドでゆっくりしていらしてください」
メイドは『私』の手を離すと軽く一礼をして部屋から出ていった。
手が離れた事に少し寂しく思いながら、目線を下に下げると、小さな手が視界に映る。疑問に思いながらも手をグーパーしてみる。小さくてぷにぷにスベスベの白い手。ハッとして布団を跳ね除けて驚愕した。
(ちっさっ!!)
これは子供というよりも幼女だった。顔も触ってみると、やはりぷにぷにのスベスベ。これは夢の続きだろうか。お約束とでも言うように頬を手で抓ってみる。
「……痛い」
(もしかしてこれは現実?今は夢みたいに曖昧ではなく、意識もはっきりしている。どういうこと?)
ある事象が頭をよぎる。
(いやいや、そんなまさか!?)
「…………」
(まじで!?)
ある事象……それは「転生」。
ここ数年ネット小説で王道となっている転生。あれは本当に起こり得るものだろうか。根拠はないが、よく聞くそれとは少し違う気がする。体は動くけれど、ほんの少し違和感がある。馴染んでないような……何か着ぐるみ着ているような感じがしてならない。勿論『私』自身であることは間違いないのだけれども。
とりあえず、幼女の体になっている時点で他の可能性として考えられる「転移」や「召喚」は違うはずだから除外しよう。
そこまで考えて、さっきのやり取りをふと思い出す。
ちょっと待て。美人メイドに夢中で気づかなかったけれど、メイドは『私』を見て「お嬢様」って言っていた。お嬢様って一体どこの金持ちだ?
この部屋の調度品はかなり質の良さそうな物ばかりに見える。『私』が「お嬢様」である事は確かなようだ。
しかし、時間軸や時代背景、世界観……この部屋を見る限りでは、そういった情報は得られそうにない。
『私』が混乱している間に時間が経っていたのか、また扉をノックする音が聞こえる。その音に慌てて布団を元に戻す。
「はい、どうぞ」
そう返事をすると、前の夢で見たコバルトブルー色の髪の美女が慌てた様子で入ってきた。そのまま抱きしめられる。
「エリザ。目が覚めたのね。……本当に心配したのよ。私、あなたがいなくなってしまったらと思うと怖くて……」
声が震えている。すぐに抱擁を解き、美女はサファイアの瞳を揺らしながら心配そうに『私』の顔を覗く。
「体はどう?辛くない?」
「ご心配をお掛けいたちまちた。少し体はダルいですが、大丈夫です」
少しでも安心させようと微笑んだ。美女も『私』の言葉に一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに穏やかに笑い『私』の額にキスをした。
「そう……大丈夫そうで良かったわ。後でアーニャにスープを持って来させるわ。それまでいい子で休んでてね」
声には出さないが、美女にキスされた『私』のテンションはかなり上がっていた。
美女が部屋から出ていくのを確認すると、ぽすっとベッドに倒れ込む。あの時は夢だと思ってたけど、青髪とか『私』の知ってる世界にはコスプレイヤーしか知らない。まさか、あの美女がレイヤーなわけないから……考えられるとすれば、やはり異世界転生だろうか。
メイドが「奥様に伝えてくる」と言って美女が来たのだから、彼女は『私』の母かそれに近い人なのかもしれない。
コバルトブルーの髪を初めて見た『私』は自分の髪色が気になって一房摘んでみる。
(おふっ。)
その色は水色でした。水色か……別人になるなら王道の金髪が良かったとボヤいてみる。なるようにしかならないか。と、ポジティブな『私』は思考する事を諦めた。
とにかく今は体調を戻さないといけない。体調を戻すには水分と栄養と睡眠だ。——よし寝よう。




