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竜の住まう谷 ロベリア譚  作者: 訪う者
循環する魔力のその途中で。
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旅の途中に。

それは、何度も何度も繰り返し見てきた夢。



サラリと流れる様な艶やかな髪と、柔らかい笑顔。

ひんやりとしていて、どこかまとわりつく様なそんな空気。

彼のゆっくりとした動作が好きだった。温和で少し可愛らしい喋り方が好きだった。


例え、それらが、自分に向けられたものでなかったとしても。


穏やかな時間はそう長くは続かなかった。夏の頃に出会い、別れたのは冬の始まりだった。けれども、ずっと2人きりで過ごしていたからか、もっと長く一緒に居た気がする。

今でも、あの日々は私を形作る核になっている。


『───────。』






ハッと覚醒して、久しぶりに懐かしい夢を見たなと嘆息する。もう、あれから100年は経ったというのに、未だにこの夢を見ると動悸がするのは喜ぶべきなのか、嘆くべきなのか。


長い間・・・いや、竜の感覚ではそんなには長くない間、旅をしていた。王都の火竜に会いに行った時はまさかあれほどこき使われるとは思わなかったけれど、振り返れば楽しい日々だった。


旅から戻り、王都で最近の色々を話しているうちに、ふと思い出し、立ち寄ってみたのだった。







立派な川の流れる、深い森。

あの美しい湖はあの頃のままだった。

空から湖の側へ降り立ち、人へとその姿を組み替える。初めはあれだけ手こずったのに、今では息をするように簡単なことになってしまった。

湖の端へと近づき覗き込むと、見慣れた姿が映る。プラチナブロンドの髪はあの頃よりも少し長くなり、顔立ちは相変わらず14、15歳といった幼さだが少し荒んだように思う。相変わらず、この金色の瞳には慣れないけれど、もうどうしようもない。

水面に指先で触れると、波紋が広がり、自分の姿が歪んだ。それを見て、気にしても仕方が無いと短い溜息をついて、立ち上がる。


自然と、視界の端にはいるのは、彼といつかの少女の死に場所。


途端重くなる身体を、ゆっくりと動かす。竜の眼には、確かに見慣れた魔力の色がまだ見える。光の加減で濃度を変える水の様な魔力と良く慣れ親しんだ燃えるような赤い魔力。そして、未だにその核として燻っている穢れ。

しゃがみこみ、じっと見つめるが、大気中の魔力の流れに穏やかに揺らめくだけで、それらはうんともすんとも反応はしない。

赤い魔力はもうだいぶ穢れが落ちているにも関わらず、ここを離れようとしないのは、水の魔力がまだ相当の穢れを抱え込んでいるからだろう。少しずつ穢れを喰らっているのが感じ取れる。


2人はどこまでいっても、お互いを捨てきれないのだ。


はぁーあっと思い切り息を吐き出したあと、ゴロリと寝転ぶ。岩場にうっすらと生えている雑草が風に揺らめく。

空は青色を濃くして、夏の訪れを告げている。なんだか懐かしくなり、私はそっと瞼を閉じた。




そうして、今に至る。すっかり陽は落ちて、座り込んだまま空を見上げると見慣れた星空が広がる。頬を撫でる風から感じる魔力が懐かしくて、その魔力に寄り添うように目を閉じた。

が、そんな柔らかな郷愁は突然壊される。ぐにぃっと両頬を押しつぶされる。

目を開くと、二ヒヒといたずらっ子の表情をした幼女がこちらを見下ろしていた。


はにゃひてよ、(はなしてよ、)ありぇくとりゃ(アレクトラ)。」


「ふふふ。」


思わず顔面に掌底を食らわしてしまったのは仕方のないことだと思う。ぐふぅと面白い音を立てながら、2、3歩後ずさる彼女を尻目に立ち上がり、パンパンと服についた汚れを叩き落とす。


「こんなところで寝っ転がっておるから、無理心中的な何かと思うて見に来てやったというのに・・・」


「無理心中て・・・」


「何をしておったのじゃ?墓参りかえ?」


「まあ、そんなとこかな」


彼女はそんな私の態度が気に入らないようで、ふんっと鼻を鳴らす。そうして、いつもの様にふわりと浮き上がると、魔力の雲に寝そべるようにしてこちらを見下ろす。


「墓参りなど、なんの慰めにもならぬ。そこまで溜まった穢れは300年や500年じゃ落ちないであろうて・・・。」


「・・・それくらいあとの時代の方が、幸せに暮らせるかもしれない。」


「・・・・・・それは、まこと神のみぞ知る。じゃな。」



しばらくの沈黙の後、アレクトラがコロコロと寝転がりながら言った。


「行き先は決まったのかえ?」


「うん・・・もうしばらくあちらこちらを旅してみようと思う。」


「そうか・・・。妾の元へもたまには来るのじゃぞ。」


「また、遊びに行くね。」



しばらくの後、若葉色の竜と赤色の竜はそれぞれ空へと旅立っていった。次にこの地を誰かが訪れるのはいつになるのか。それはわからない。けれど、魔力は循環し時は移ろう。


2つの魂が在るべきところへ戻る頃には、きっと・・・



けれど



それはまた、別のお話。


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