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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
70/155

−天才なんてたかが知れてる−


気が付けばそこにいた。見慣れたようで見覚えがないような学園の廊下はいつにもなく静かに思えた。多分ここは本当の学園ではないだろう。それだけは何となく分かる。

歩く。ひたすら歩く。人気のない廊下をひたすら。どこまで続いているのか分からない長い道で赤黒い背景が続く異空間みたいな場所は夕暮れであるからも確かにある。不気味にすら感じる世界を無音が支配して生を見失なっていた。孤独を覚えながらもこんな最果ての地の場所が世界の何処かにあるとは思えない。が、これを何と例えたら良いのかの答えは直ぐ様簡単に出る。

地獄とーー。

しかし雰囲気だけがその通りではなかった。

ピチャピチャと、踏みしめる度に響く音。決して無音ではなかったが、私からしたら音としての認識から外したかったのだ。何故ならここは濡れるような場所ではないからだ。当然屋根が配備された場所で池溜まりが出来る筈はない。

ぬちゃっとした感触。足がへばり付いて思うように上がらないまるで底なし沼を歩いているような新しいソレを自覚した。が、何回か試してから今一光源の乏しい所では判りづらく思い推理を止めて先を目指した。

長く永遠とすら思う廊下は歩けど歩けど収穫はない。ずっと足に変なぬかるみを踏んだ気分になるだけで全く人は見当たらない。

時間は夕刻だろう。いや夕刻だろうか? 曖昧さを覚えるが珍しい事もあるのだなと程度の印象のまま窓から見える景色をちらりと見る。

薄い狼煙が中庭から上がっていた。火事でもない焚き火みたいなものは弱々しく空へと昇る。放っておけば何れ消えるから気にするべきことでもないだろう。

ただ何を燃やしていたのだろうか?

そんな疑問をしながら取り敢えず適当な一室の扉を開く。やけに滑りを感じる取っ手に掃除が行き届いていないと感じる。

見覚えがある。自身の席が置いている部屋ではないが、確かに私が通う校舎の一部であり、知らない人物達が出入りする教室だ。きっと誰か一人くらいは人がいるのではないかと考えたが、それは甘い考えであった。

不気味なくらいの静けさ。あるのは陽射しすら遮る暗がりの一室。乱雑に配置された机等散らかった風な場所はあまり褒められた感じはなく、塗られたみたいな赤い空間の教室をぐるりと周る。しかし望むものはない場所と理解して諦めて後にした。

多分この教室にはまとめな生徒は少なかったと思う。

暴れた後のように机が反転しているくらいだ。喧嘩でもしたのだろう。そんな不良みたいな学生は夕刻まで滞在なんてしないだろう。更には教卓の周囲は落書きだらけだ。なんて読めば良いか分からないくらい汚い字が教養の質を物語らせている。

やれやれと溜息を吐きながら呟く。

今日は変な日だとーー。

そうしてもはや慣れてしまったぬかるみを踏みしめながら次の扉を開く。あんまり期待はしていなかったがやはりその通りであった。

開けた先には誰も居なかった。平時なら教諭が歩いていたり座っていたりする職員室なのだけれどここも人っ子一人いない。

あるのは邪魔なくらいのよく判らない山みたいな塊だ。どうやらここも酷く散らかっていて収拾がついていない。散乱した用紙や物品がやけに目につく。

一体彼方もこちらどうなっているの?

目を細めながらふと近くにあった用紙を手に取る。

何年何組ーー。何処かの学級名簿だ。名前をずらずら眺めてアースグレイ・リアンの名前を発見した。彼の教室だと判っただけで大した情報ではなかった。特に彼以外に知っている人物もいないし。

それにしてもえらい汚れてしまった。手にしたのを置いた頃には絵の具でも撒き散らしたようにベタベタになっていたけど、まあこの部屋の有様を見れば気にするような事ではないだろう。そんな事よりも目的が果たせなかった以上この場所に意味はない。

この場所も後にした私。

ふらふらと覚束ない足取りで変な頭痛すら覚えながら首を横に振り、通路を邪魔する障害を跨ぐ。

誰だあんな所に赤塗りの装飾剣を放置したのは。

こんな場所だったのだろうか? 自身の知る学び舎とは足元も整備されていない廊下を良しとしていたか? 風紀委員は何をしている?

疑問の尽きないままに何とか突き進んで階段を発見する。窓がない場所は暗すぎて深淵へと誘うようで私の不安を煽る。しかし気付いた事があった。

ああ、そうか。ここはまだ校舎の二階だったのだと理解してまだまだ探す場所があると希望を持つ。同時に変に歪みのある笑みがこぼれながら手摺りを持ち階段を昇る。

手に感じるのは暖かいのか冷たいのか判らないベトベトしたもの。ふと視線を落としたら何処から漏れ出したのかと考えるような染み付いた液体が流れていた。

新しい。新しさだけしかなく、それ以外はなかった。ただ、釣られるがままに私の視線は徐々に上へと向かう。

せめて誰かいてくれと切実に願う。

だがあるのは赤を垂れ流す幾重の残骸だった。静かに山を作り上げる塊は夕陽のような、或いは真っ赤な光で照らされてより一層に不気味さを帯びる。

僅かに目を細めてから見開く。

見慣れた光景だ。先程からずっと見てきた。最初の教室でも、次の職員室でも、歩いてきた廊下にもそれは沢山あった。

にも関わらず頭を抱えて首を横に振って今にも過呼吸になりそうな荒い呼吸で手摺りに縋る形で上を目指す。

私を認識してくれる誰かはいないのか?

懇願にも近い気持ちで辿り着いた場所はとある雰囲気の違う一室だ。開けるか否かなんて答えは不要なのは頭が理解している。

なのに押そうとするその手に力は入らず小さく震える。

言い出せばキリがないのかもしれない。初めからずっと私は極寒に身を置いたような感じで安定しない足取りのままだった。ここまで来れたのも不思議なくらいなのだ。

直感が告げている。

これ以上はーー。


「………え」


そこで押し開けた内部。地面には赤い絨毯が歪みながらも真っ直ぐ続いている。ゆっくりとその先を追い掛けて歩く。どうしてか前を向いては歩けずにひたすら辿る。

だが少しもしない内に教卓のような机に行く手を遮られる。ただ赤い絨毯の目印は尚も続いており、自然と顔を上げる形となった。

その先にはーー。



ーー首から上だけが残された瞳孔が開いたシルビア・ルルーシアと目が合った。



「あ、………あぁ………」


しっかりと確実に絶命した存在を直視するのは簡単な事ではない。が、暫くの間は何がどうなっているのか理解出来ず、彼女が生きていないと分かるまで目を背ける事が叶わなかった。


しかし駄目だ。乱暴に引き裂かれたような頸部しか残ってない人間がどうやって生き残ると言うのだ?


その残酷な光景は視線を外したところでしっかりと脳内に焼き付いて離れず、嘔気が込み上げる。夢ならば覚めてくれと言葉に出来ないまま嘆いた。

狼狽えながら私は腰を抜かしながらも後ろに退くがベチャベチャと手に粘着するものがようやく何かを理解した。


これは絨毯ではない。ーー血だ。この真っ赤に染まる世界の大半は誰かの流した鮮血による空間だ。あの長い廊下も、夕焼けの日差しに感じた窓も、教室に入る時に感じた取っ手の違和感も全部。私が受け入れられないままにここまで来ただけだった。


血を踏む感覚が不快感を与える。その言葉にならない声を押し殺しながら避けると何か別なもに接触した。


柔らかく、冷たい。ただひたすらに。


恐る恐る振り返る。

そこには血溜まりの池に溺れる友人の姿。

アースグレイ・リアンが虚な表情を残したまま天を仰いでいた。


「ーーひっ」


悲鳴が漏れる。彼もまた栗毛の少女のように、またはそれ以上に醜怪な状態だっただろう。腑を抉られ、貪られた形跡を思わせる無造作に中身を散乱させていた。


今度は吐いた。目かはも鼻からも情け無く流れる体液を抑える事は不可能。既に冷たかった。自身が触ったものは彼の体内の一部だ。そう結論が出てしまえば駆られる衝動を必然である。


どうして次から次へと知っている者達の死体が出て来るのだ?

有り得ない光景。いや、何度も繰り返すが分かっていた。歩けど歩けど続く赤黒い空間は散った血。私はずっとそれを踏みしめて歩いていた。窓から見えた狼煙の正体。それはこの学園の人達を集めて積み上がった人の山に火が放たれていたもの。私は立ち込める煙しか見ようとしていなかった。とある一つの教室は何者かが荒らした痕跡だ。どう考えてもちょっと暴れた程度ではないのに私は机の下敷きになっている生徒すら気のせいだと思っていた。職員室に人っ子一人居ないのは生きている人間がいないだけだ。

全部全部信じたくなかった惨状だったから私は背けていた。

立ちあがろうとするが足が縺れて倒れる。そして背中に気持ち悪い液体の感触を覚えながら天井を向いた。


「ーーッ!?!」


垂れてくる血。目に付いたのは逆さ吊りにされ、胸に自身の刀を生やした神門 光華があった。ある意味一番原形は残してはいたがあちこちの裂傷が酷く、その表情は最後の最後まで苦痛に呻く拷問をされたような姿。

昏倒しそうになる。しかしはっきりしてくる五感が意識を絶たせずに内から拒絶反応の塊を吐き出す。嘔吐ならまだマシだろう。吐き出したのは喉を壊すような叫喚だ。そのまま血を吐けそうな獣の奇声よりも気味が悪いものが校内を支配した。

激しく動いた訳でもないのに恐ろしくしんどい。よく分からない精神状態のままあらゆる教室、あらゆる場所に私は歩く。


「………嘘………?」


誰も、誰も居なかった。命の尊さを侵害した場所しかここには存在しなかった。

切り刻まれた男子生徒。性別が分からないくらいに焼け焦げた人間。四肢のない女子生徒。大人の肉体としか思えない首から先が潰された教員。もはや形を残さない赤い何か。

私以外に残るは死だけだった。

あっちを見て、こっちを見て歩く先は全てが手遅れの末路ばかり。遅かったのか間に合わなかったのかすら考えられずに恐怖の感情が支配する。

どうしたのだ? どうなったのだ?

何があったのだ? いや、何故起きたのだ?

どうやって起きたのだ?

考える程におかしい。この学園に何らかの事件が舞い込んできたのは間違いない。が、起きた事情には理解が追い付かない。

机の彼女も、横たわる彼も、吊るされる彼女も一筋縄ではいかない天才達だ。こんな無残に屠られるなんて一体どんな襲撃者だ?

天才にも分からない。何一つ把握出来やしない。ただ、唯一分かるのはこの事件の黒幕は残酷非道で学園を制圧するくらいに強かった事実だけだ。

そんなことが出来る者達なんてーー。


「ま、まさか………」


居た。たった一つだけ可能な集団が居た。


それはーー。



「ーーッ!!」


私は飛び起きる。視界に広がっていたの白の清潔感溢れる一室の全貌であった。

あ、これ知っている。と見渡す横には一定の間隔で鳴る電子機器。そして二つの点滴が装着された器具。

色々と思うことが多すぎた。

悪い夢を見ていたかと思いきや次は好まない病室の空間。

ただゆっくりと落ち着きを取り戻すことでこの状況の原因を思い出してきた。

あ、そうだ。そうだったんだ。


「私は負けた………のね」


勝利目前の場面で私は恐らく肉体に負担を掛け過ぎた影響により異常が現れ、深紅の少女に不覚を取ってしまった。間の悪い仕方ない状況にしても、もしこれが生死のやり取りならばこうして目が覚めることはなかっただろう。

だが自身がどれだけの戦力になるのかが分かっただけでもあの戦いは必要なものだったかもしれない。


「………全然役に立てないわ」


結局まともに魔法を使ったのは二桁にも届かない。度合いにもよるが使える限界は約五回くらいで想定するしかない。

五回ーー。これまでの自身では考えられない数字だ。一体それだけで何が出来る? 何をする?

これではへカテリーナ・フローリアのことを言えはしないだろう。

先程見ていた胸糞悪い夢はよく分からないが、このままではああなってしまう示唆をしているかもしれない。でなくともそれくらい深刻に受け止める必要はある。

だけどどうすれば良いのよ?

などと溜め息を吐いているとーー。


「溜め息吐きたいのはこちらですよー」

「あ、セラさん………」


元から居たのか、壁にもたれ掛かりながら自身と同じく溜め息をつく主知医。こうして彼女が居ると言うことは中々の状態であったのだと予想する。

が、意外にも私の考えは外れていた。


「どんな容態かと思えば私が来た時には異常無し。脈も平常。血を吐いたと知らせを受けているのに臓器関係も問題無し。魔臓器に関してもおかしな点はない。………一体何の冗談ですか?」

「冗談も何も………」


そんな責めるように述べられても此方も困る。自分の身体のことは一番自分が知っているとかは迷信だ。だから分からないのは分からない。寧ろ何もなかったのならそれで良かったとしか私からしたら思えない訳だ。まあ、向こうの機嫌と簡単な軽装格好を見れば折角の非番を潰して来たのに骨折り損のくたびれ儲けだったと予測出来るので下手な発言は禁句だ。

でも確かに苦しくもなければ、身体が重かったり気持ち悪くもない。逆に体調は良いとさえ今は判断出来る。

ではあれは何だったのだろうか?


「考えられるとすれば過剰な魔力に人工臓器が抑制を入れる為に身体に呼び掛けた弊害ですかね?」

「と、言いますと?」

「早い話、無茶をするなってことです」

「は………はは」


きっと概ね事情は聞いているのだろう。少しのんびり口調が抜けた喋りに私は乾いた笑いで誤魔化すしかない。

多分怒っているわ。


「大体今回で貴女の限界がどれくらいかを図る物差しにはなったでしょう。次も大丈夫とは限りませんから注意して下さいね?」

「は、はい」


頷くしかない言葉を述べられては素直に従うしかない。やはりどれくらい魔法が使えるのとかは先程の結論通りに定めるしかない。下手に身を削って分析するには代償がでかい。

まだ死にたくはないのだから。

だけどこれで悪魔を止めることが出来るのだろうか?

そしてこの騒動を招いた人物を捕まえることはーー。


「って言っても貴女は無茶をするからそうなってしまってるんですもんねー」

「は、はあ………」

「確かに無茶をしてしまう所はあの人に似てる部分がありますかもねえ」

「………?」

「いえ、こっちの話ですう。とにかく異常はありませんでしたが、今日は安静にしていて下さい。貴女が良くても心配する友達は居るんですから」

「すみません。肝に銘じときますよ」

「ーー友達や、仲間は大切にして下さい」


そう最後に意味深に語って彼女は簡易な白衣を脱ぎながら去って行った。非番の日に予定でもあったのならきっと切り上げて来たのであろう。申し訳なく感じながら私は大人しく寝台に横たわり今日はゆっくりと休ませてもらうことにした。

まだ時間はある。ここで無理が祟って数日以上の入院を余儀なくされるのが最も最悪な結果だ。山積みな課題は一つ一つ丁寧に片付けていく必要がある。先程言われたように多分心配してくれた皆のこともある。

だったら今するべきは当然一択しかーー。


「………いやいや、ジッとしてられないわ」


なんて指示を間に受けている場合ではない。早速命令違反行為だが、本当に悠長に構えている暇はない。ただでさえ予定ではへカテリーナ・フローリアの件を早々に片付けて悪魔の足取りを探すつもりだったのだ。


「世界が掛かっているのよ。こうしてはーー」

「世界が何だって?」

「だから世界の危機の時に………」


げっ、とついつい乗せられて返事をした私は変な声を漏らす。

しまったまだ誰か居たのか。いや、現れたのか。流石に重大な内容を盗み聞きされてたなんて不覚にも程があるじゃないの。やはり調子は優れないのだろうか?


「立ち聞きだけどな」

「そもそもこそこそもしてなかった!? って何だユリス先輩か」

「一人で何言ってんだ? あと失礼な言い方だな」

「失言だったかしら?」

「世界〜辺りからずっと失言してるな」

「おっと………」


とは言っても彼なら多少なり情報を知られても問題ないか。それより何故先輩がこの場に居るかの方が疑問である。


「学園も大魔聖祭で忙しいし、同じ部員として仕向けられた」

「刺客ではないよね?」

「人間は失格かもな」

「貴方ってあまり人付き合い上手くなさそうだもんね」

「お前は後輩として失格だな」

「失言」

「それはそうと」


実りのないやり取りはさておき。

何処に焦点を合わせているのか分からない視線を向けてくる。まあ語らずとも誤魔化そうとした話の追求をしているのだ。世界なんて単語出されては気にならない方がおかしい。

ただ一体何処から話せば良いのかとは考えてしまうし、この場で説明するのは好ましくない。これ以上誰かが来ては動けなくなってくるばかりだからね。

一先ず説明する部分も簡潔にまとめる為にも抜け出しながらが都合が良い。


「ーーってな訳で出るわよ」

「どんな訳だ。ミイラ取りがミイラになっているぞ」

「ミイラなら大人しく付いて来なさい。ついでに協力してよ」

「………来るんじゃなかったな」

「可愛い後輩のお願いくらい聞きなさい」


大半が理不尽な意見を押し通して病院からの脱出を開始する。

正面からは色々と邪魔がありそうだと判断した私は思い切って窓から抜け出す。幸い雨が強い今なら目立ちにくいだろう。

窓の外に飛び出て近くの建物に着地。そこから低い場所まで軽々と降り立つ。見上げて病院の窓の方を眺めると細身の男性が溜め息らしきものを吐いてから飛び出してきた。


「めんどくせえな」

「何してもそんな感じじゃない?」


そんなやり取りをしながら付近の雑貨店頭で傘を買い、濡れた身体を魔法で乾かしがてらざっくりとした説明を行う。

先ずは悪魔が存在したと言う経緯。そして悪魔が仕出かそうとする魔王の復活についての大体の予想展開や、条件。その為に今するべきこと。深く経緯は語らないが、その掻い摘んだ情報だけで納得して考えてくれる彼には少しばかり感謝する。

まあ問題はこれからどう動くかだ。もしかしたら堕天のルーファスは皆既日食の日まで動かないかもしれないし、既に水面下で企んで行動しているかもしれない。ただいずれにせよ、このセントラルの都市内で怪しい箇所や術式を割り出す必要はあるのだ。きっと光明巧みに何かを隠している可能性は高い。まさか当日に大規模魔法を展開する用意をする訳にもいかない筈。

残りの悪魔を含めると少し不確定要素が増えるが、間違いなく早い段階からの準備を進めているだろう。

ようやく湿った感覚が無くなって来た所で取り敢えず方針を固めて動き出すのを考える。


「って言ってもこの広さだ。二人で探すには時間がかかるぞ?」

「それでも探すしか今は出来ないわ。私も抜け出した身だからいつ病院に連れ戻されるやもしれないし」

「エイデス機関に頼らないのか?」

「一員の一人とは情報を共有しているからそっちはそっちで任せてるわ」

「じゃあ可能な限り割り出せる範囲を絞って探すのが賢明だな。しらみつぶしに探すやり方はそちらさんに任せるとして」

「でもどう割り出すの?」


その範囲を絞るのが難関なのに大してそうでもないような口振りが気になる。

すると淡々と傘を広げて歩き出す彼は言った。


「大規模ってことは中継点となる陣を引くのは当然だ」

「あー、そうか」

「まず何処を起点にして広げるかさえ考えれば自ずと範囲を狭まるぞ。お前にしては珍しい見落としだな?」

「見落としてはいたけど。起点に居るのはもう誰なのかが分かっている以上、火中に栗を拾いに行くものよ。それなら安全な外周域の術式を見つけた方がーー」

「万が一それが上手く行っても向こうが再び修正すれば無駄になる。きっと保険は掛けているだろう。なら最初っから大元叩くのが良い。どうせ倒す相手だろう?」

「まあそうだけど………」


悪魔と戦ってないから言えるような気もする。真っ向から挑むならそれなりに戦力を用意しなければその案は難しくも思える。特にまだ残っている悪魔と共闘していたならば目も当てられない事態なのだ。が、ユリス先輩の言い分は正しい。限られた時間、広域の捜索。相手の出方やその他の要素を考えれば一番単純な意見だ。もしその案を避けてもきっと対策はしているだろう。そこまで読み切っていなければ私の案は危険なものかもしれない。

ただ、どうにも誘導されている気がする。何方を選んでも良いような正解のない問題を出されているみたいに。


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