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◇旋律と蒼天のブライニクル◇  作者: 天弥 迅
始動
68/155

−悪魔的天才⑦−


「踊りやがれッ!」


再び【七剣星】が襲い掛かる。彼女の意思で操作しているようには思えない挙動に私は咄嗟の反応力だけで躱す。

上から二本が降り注ぎ、背後から飛んでき、逃げた先に狙いを済まさせる。こんな調子じゃその内袋小路に入る。どうにか法則に近い彼女の癖を見つけ出さなければならない。

そう思っていると。


「無駄だ。そいつらはあたしから魔力を吸い出して勝手に動いているだけだから自分でも動きは分からねえよ」

「ーー嘘でしょ」


冗談じゃない。これでは動きは読めない。どれだけ魔力の軌道が見えてもこの数では注意は払いきれないのだ。

そうこうしている間に気づけば西洋剣は自身を囲む形に陣形を取っていた。

否、陣形ではない。

これはーー。


「魔法陣ッ?」


ハッ、と深紅の少女に目を向ける。

そうだ。私が相手にするのは七本の武器だけじゃない。その根源ともなる者がいるのだ。

実質、八対一の攻防。後手に回ってしまう程に怒涛の攻撃。弱点を克服したのではなく、弱点を突けない更なる特化生。

少し甘く見ていたかもしれない。


「【連鎖螺旋(スパイラルチェイン)】」


頭上から巨大な魔力の衝撃が落ちてくる。重力魔法みたいに一定範囲を狙った魔法だが、全方位に散らばる【七剣星】も同様に魔力の波動を放つ。

360度死角や逃げ道はない。チェックメイトを掛けられた一手である。防御も貫かれるし、攻めでは全部を迎撃は無理。

そうなればあの手段しかない。

あまり使いたくないが、凌ぐ為に出し惜しみをする場合ではないだろう。

私は相応の対価を支払う原始魔法を行使した。


「【強制中断】」


対象の扱った魔法を強引に不発にさせる力技により、あと僅かの所で彼女の魔法は消失する。相変わらず便利過ぎる力ではあるけど、その代償は暫くの期間その魔法が使用不可になるものであまり頼り過ぎるのは宜しくない。

が、使ってしまった。多分学園大魔聖祭までには制限解除はされるだろうけど手痛い。やはり私がへカテリーナ・フローリアを見縊っていたのが要因だ。

ただ、こうなればやはり尚更彼女をぶつける訳にはいかなくなってしまう。

何故ならーー。


「どうした? 引導渡すんじゃなかったのか?」

「………」

「今の魔法は暫く使えねえって前に言ってよな。だがあたしはまだ使える。次はもうねえぞ?」


勢いを取り戻した彼女は【七剣星】を生み出す。一度使えば暫く使えない魔法に対しての有利性は大きい。苦肉の策で逃れたならば言われた通り不利になってくるだろう。


「そうね………次はないわ」

「ああん?」


私の返答に違和感を覚えたへカテリーナ・フローリアは怪訝な表情をする。

だから一言だけ助言を与えた。


「気を抜かないように」

「………テメェ、がな!」


舐められたと思ったのか、苛立ちをそのまま天器に乗せて仕掛けて来る。

各々が独立した動きの読めない挙動。忽ち逃げ道を封じるように配置されていくが、特に私は気に止めはしない。

それが苛立ちを助長させた。


「今なら降参する機会をやる。言え」


命令口調。まあ、この状況を見ればどちらが強い立場にいるかは聞くまでもないか。

仕方ない。

ここから先は何も言わない。


「後悔すんなよッ!?」


拒否の合図と受け止めた彼女は死角無しの攻撃を放つ。

全方位から迫る西洋剣達。更にその奥では自身の念動力魔法をいつでも使える状態。

それらは深紅の少女が培ってきた才能と努力の全て。今回のアズールでも優勝候補筆頭だろうし、仲間として胸を張れる強さだ。素直に賞賛する。

だけど知っているかしら?

貴女の二つ名が持つ別の意味を。


「やはり無謀だわーー」


そう私は小さく漏らした。



カナリア・シェリーとへカテリーナ・フローリアの戦い振りは傍観する三者からは心臓に悪いものであった。

やる気満々の両者。深紅の少女は毎度のことだが、いつもサラッと流していた彼女が珍しくも戦う意思を見せたこと。

最後に全力を出していた姿を知っている神門 光華辺りは特にそわそわしてしまう。あの悪魔を相手に正面から戦い抜いたのだ。幾ら才能あるとは言え一個人の実力程度じゃあ話にならないと考えていた。これにはアースグレイ・リアンも同じ結論であり、シルビア・ルルーシアも何方が有利かは贔屓目に見ても明らかだった。

その筈がーー。


「フローリアさん………天器を使えるのですね」

「僕も驚いたよ。シルビアは知っていたのかい?」

「いいえ。一番付き合いの長い私でもこれは知りませんわ」


番狂わせ。天器があるとないで大分見る目が変わってしまうくらいに勝負の行方が左右される。

ただそれでも依然あの異端の天才の方に分があるとは思うのだが攻め数が少ない以上、押されている風にしか見えない。

彼女もまた予想外な流れに驚きが勝って虚を突かれている姿が伺えた。


「シェンリンは本気を出していないのですか?」

「恐らくは。ですが………」


多分肉体のことがあるから慎重になっているのはあるだろう。激戦をすればそれだけ負担が掛かり、命に関わるかもしれないのだから余計だ。

だからそんな意味でカナリア・シェリーが戦うのが心臓に悪いとも言える。


「シェリーは基本的に対人相手には本気になりにくいのかもしれない」

「それはあるかもです」


碧髪の少年の発言に同意する灰色の少女。

こればかりはあまり詳しく知らない栗毛の少女は理由が分からなかった。


「シェリーさんの持つ力は対人間相手にしては過剰な攻撃になるからです」

「放てば無事では済まないから使わないと?」

「悪魔相手なら過剰でも構わないだろう。お構いなく倒すのが念頭にあるから」


つまり殺傷能力が強いのだ。特に彼女の本領の魔法は生来の魔法から掛け離れているか、最上級魔法を連射する戦法だから並大抵の人間にはなす術もない。何せ兵器がそこにあると言っても過言ではないからだ。故に体技系に魔法を織り交ぜたりした工夫で戦うのを主としている。それはそれで限りあるもので本気は出しているが、全力には及ばないだろう。

彼女は長所、代名詞を封印しているのだ。


「でもこのままじゃ負けますわよ?」

「はい、問題はそこですね」

「うん、確かにへカテリーナは僕よりも遥かに実力がある魔導師だった。きっとシェリーも修正する」

「なら………」

「本気になってしまう」


彼女の言っていた意味が今なら分かる。アズールに出るダリアス・ミレーユに本気を出させたら不味いのだ。

これから先の戦いはそれを証明する。

直後に異端の天才は【強制中断】の魔法を使う。

あれの効力を知っている者達からすれば使う以上、手を抜いた状態では抑えきれないことを意味する。

本来その魔法は相手の魔法を無力化する用途で編み出した訳じゃないのだ。本人が創り出した強力な魔法を制御する方法としてのもの。

いよいよ不穏な空気になりつつある。


「止めましょう」


感じ取った光華は決断をする。


「そうだね。お互い命に関わる」

「止まり………ますか?」


頷くリアンとは別にシルビアは難しい表情で不安げに言う。

二人の戦いを止めるだけの手段が無ければ力付くになる。だが彼女達をそのやり方で止めるにはかなり敗れ被れであるのだ。中途半端な止め方だと大火傷になりかねないくらい危険なのだ。

ただそれでもやるしかあるまい。


「僕がへカテリーナを抑える。神門はシェリーを。シルビアも補助に回りながら二人の説得を」

「分かりました」

「聞く耳をまだ残していることを願うしかありませんわ」


そこへ都合良く深紅の少女が動き出す。何やら会話を打ち切って仕掛けていた。これもまた野生の勘なのか、始末が悪い。

対する異端の天才はまだ動きを見せないが、動き出した瞬間が三者も止めに入る時だろう。

彼等はいつでも対応出来るように構える。

しかしカナリア・シェリーはまだ静観する。


まだ、まだなのか?


あのままでは逆に彼女が倒されてしまう状況にしか見えない。一体どうするつもりだ。

止めるにも止めづらい展開を眺める。


そんな三者をーー。


異端の天才は嘲笑うかのように。


「ッ!?」

「ーーぁ!」

「えッ?」


視界から姿を消したのだった。

小さく弾ける雷と大きな爆音を残して。



次の瞬間には私の見ていた景色は背中側に移動していた。背中側と言ってもかなり遠くで、振り返れば随分な距離を取ってしまっていたのである。

直後に古い家屋すら震わせて窓を割る程の轟音と衝撃が響く。予想していたのを遥かに上回る結果に惚けながら呑気に私は感想を心中で呟く。

ーーそうか、こんな感じなのね。

正直成功か失敗かで言えば半々だった。まあ見様見真似でやってみたのだから上首尾ではあるけど、まだまだあの人のものに比べれば優しい。

未だ残る雷の跡。山彦のように木霊する音。

そして現実感のなかった最速の域の世界に近付いた感覚。

限り無く押さえ込んだだけでこれだから本物はもっと恐ろしいのだろう。

でも十分過ぎる効果は掴めた私は置き去りにされた深紅の少女にこの技名を告げる。


「ーー【俊電(しゅんでん)】」


これは如月 愛璃蘇の使う雷をその身に宿して使う単なる高速移動。細かく言えば雷を纏うことによる身体機能の激化に加えて移動する際に足から放電させた力を加速に繋げた人間砲弾みたいなものかしら。

使ってみて改めて馬鹿げた思考の力だと感じた。本当に自分を打ち出すような方法なのだから身に掛かる負担は強化抜きの身体では無事には済まないし、制御する動体視力に度肝抜かれる。だってこれまで見ていた世界が全く別物の別次元に飛び込んだと錯覚させるのだから。これに慣れたら大概の速さなんて取るに足らないだろうが、多用する気になれはしない。

ちょっと迫力があって楽しかったのは否定しないけど。


「………ぁ?」


間の抜けた声と一緒に此方に顔を向ける【無暴】。信じられないものを見たよりかは何が起きたか全く理解出来ていない様子だ。置き去りにしたのは本当に色々なものであるようだった。


「そう言えば貴女はこの技術を目にした記憶はなかったわね」


バチィバチィ、と足に雷を纏う。地の踏み心地を確認しながら今一度あの感覚を思い出す。

ーーこんな感じかしら?

私は駆ける。

何の芸もない猪突猛進。しかし見えないのならばどう接近しようと関係はない。

ただし次は行き過ぎないようにしっかりと制動を掛けて深紅の懐辺りで止まる。

短距離の高速移動。速さは大分落としたが。

今のは見えたかしら?

へカテリーナ・フローリア?


「ーーッ!?」

「ほら? 行くわよ?」


雷の鋭い蹴りが爆発する。直前に西洋剣が彼女を守るが、放電により加速された勢いに受け止めきれずに吹き飛ぶ。息をつく間もなかったのに僅かな刹那で防いだのは関心する。

そして反撃すらしてきたのも。


「くそがぁッ!」


渦巻く貫通型魔力の波動。苦し紛れの追撃逃れで使ったであろうそれを掻い潜り、そこへ待ち伏せるように現れる【七剣星】の一本が自身に矢となり迫る。

これも身を少し傾けて躱す。

後続で二本目、三本目と続いて来るのを今度は紙一重で抜けて再び直進。尚も襲い掛かる西洋剣を置き去りにしていく。これで四本目、五本目。

ただ行動が読めているなら逆に狙いすますのも難しくない。六本目、七本目が視認も難しいカナリア・シェリーを捉えていた。

先読みだ。

魔力の波動が眼前に。が定点射撃をするのですら精一杯なのか雑な威力であるのを感じ取り、雷を前面に展開して衝撃で搔き消す。

そうして天器の猛攻を突破した所へ【無暴】の莫大な魔力の気配。

この戦闘最大の一撃が繰り出された。

無の魔法からなる最上級の魔法。


「【波動爆砕(ブラスト)】」


家屋が吹っ飛んで来た。多分魔力を帯びたそれは単純に想定する威力、強度の何倍以上かだ。なりふり構ってなれないとは言え、辺り一帯を滅茶苦茶にしてしまう程。

彼女の浮かべる焦燥の表情を見れば手に取るように分かる。不意な圧倒的速度差。猶予や判断力を与えない反射的な部分の行動が顕著だ。特に初見じゃない以上、多少の攻め手を変えたくらいでは私は驚かない。だからこの事態に対抗する準備は整っていた。

全ては無駄だ。今の私にはーー。


世界が置き去りにされている空間で両の手に捲き上る強力な突風。同じようで全くの別物ですらある二つの力は放電する雷に混ざり合い、迸る暴風として自らの肉体に纏わりつく。

ドクン、ドクンーーと胸の所らへんが脈動する音と衝撃を感じる。

ああ、そうか。暫く負担を意識して抑えていた方量を解除したからだ。それにより代替えの代物が悲鳴を上げているのだろう。

自身の正規のものなら問題ない。が、失なった一部を補うに過ぎない人工物にはここら辺が限界なのを認識しながら世界が原点に戻る。


準備は整っている。

へカテリーナ・フローリアが放つ一撃。

それを上回る極限魔法。

風と風、そこに加速を伴う雷を織り交ぜる複合技術を駆使した力。


「複合魔法ーー【疾風迅雷】」


ゴアッ!! と手元から離れた風の暴力。制動していたがあの速度の勢いを跳ね返し後ろに下がる程の反動。それが魔力を与えられし家屋と激突する。


結果はあっさりと全てを風が吹き飛ばした。


「ッ!!?」


敢えて起動を上方に逸らしたが、余波に周囲は台風が直撃したような場となって荒れ狂う。地を削り上げ、吹き飛ばし、草すら根こそぎ奪い去る。そこへ天からの落雷が遅れてやって来て破壊の限りを尽くす。天罰が下ればこんな光景だと思うくらいに降り注ぐ。

正に災害級だ。

そんな一部の巻き添えになった深紅の少女。何回か転がり回りながら無残な姿で地に身体を預ける。

大丈夫。直撃はさせていない。致命傷も彼女なら避けてはいるだろう。命には関わらない。

それでもーー。


「………うぅ………」


後には何も残さない空間。遠目に見える三人も被害から免れる為に随分後退したようだ。

この惨状を見ればやり過ぎた。

たったーーたった一撃だ。

これがまともに街に及べば一部の機能が崩壊する所だっただろう。況してや人間に直撃してしまえばどうなるかは考えたくはない。

だってこの力を向けるべき相手は人外なる存在に対してのものなのだから。

私が本気を出すとはこう言うことなのである。倒すなんて生易しい力じゃない。殺すでもまだ甘いくらいだ。

何もかもを消し去る。加減なんて出来やしないのである。


「………まだだ………」

「!」


ーー立ち上がるのね。

考えていなかった訳ではないが、まだ粘るのがどういう意味か。

私が先に相手で良かった。ここに立っていたのが違う者ならば、風前の灯火の彼女はきっと。


「貴女は下手に強い。だからこの領域の者に本気を出させてしまう」


手に作り上げる氷剣を軽く薙いでへカテリーナ・フローリアに剣先を向ける自身は冷静にその肉体の状態を観察する。

額からは血を垂らし、右腕は折れているのか震えが止まっておらず、あちこちに打撲みたいな跡。足は雷の痺れから己を支えるのでいっぱいいっぱいな様子。肉体の損傷を総じて纏めたら満身創痍だ。多分この氷剣で小突くだけで意識は彼方に飛んでいく。

変わらないのは諦めを知らない、認めない闘争力。精神力に関しては軽く此方側に片足が浸かっている。恐怖を怒りで塗り替えるような強靭さだ。

ただこの瞬間だけは全く別の意味で私は叱咤する。


「勝てない相手に挑むのは無謀なのよ」


それもなまじ強さがある人物には届かない言葉なのは分かっていた。しかし意識を絶つ前に教えてあげなければならない。

例え身勝手な押し付けであっても。


「じゃあ約束………はしてなかったけどアズールは辞退してもらうわね」

「………ク………ソ………」


震えている右手を上げようとする。最後の抵抗をするつもりなのは明白だが、取るに足らない遅さだ。こうなって来ると哀れみすら抱いてしまうくらいに滑稽な姿。

見ていられない私は早々に幕引きを図る。


ーーごめんなさい。フローリア。

振り上げた氷剣であと一押しの一打を狙い振るった。


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