第二十三話
次の日、午前中は商隊を手伝って、竜車の整備をしたり、レリムさんがアンリエッタの整備をするのを忍と手伝ったりした。
昼飯を食ってから時間が空いたので、忍と二人でに街の外壁の方に歩いて行く。一応、俺は竜機士用の鎧とビャクダンを持って行く。
門番の衛兵達に「ちょっと出てきます」と言うと「今の外は甲蟲への警戒中だから気をつけてな」と言われた。
街の内壁を出ると、外壁までに、田園風景が広がる。
時折伝令なのか、竜機兵と馬が外壁から内壁に走っていた。
「竜機兵ってのはすげぇよなぁ」
レリムさんがアンリエッタの整備をしている時に、忍は最初、恐る恐る竜機兵に近づいて来たが、慣れてきたらレリムさんに工具を渡したり手伝っていた。
「忍はああいうの好きなのか?」
「あー、うん。ウチの家がさ、車の修理工場やっててさー。車とかバイクとか機械をいじるのは昔から好きなんだよね。それで高校も工業系にしたのよ」
「へぇ」
だから鈴原工業に通ってたのか。
「機械科には女が3人しか居なくてさ、大変だったわー」
まぁクラスに女子3人とかはいろんな意味で大変だろうなぁ。
「徹は有高の二年だっけ?」
「普通科の二年だな。野球やってた」
「へぇ、有高ってそこそこ強くなかったっけ、レギュラー?」
「リトルからすっと野球一筋にやってたからさ、一応はサードでレギュラーだったな」
俺は夏の試合で左腕を骨折し、その通院でバスに乗り込んでいた事を話した。
「おしいねぇ、共学だしモテたんじゃないの?」
「いや、まったく」
俺は苦笑して、言う。実際汗臭い野球は全然モテ無いと思う。
「サッカー部とかバスケ部とかの友達は彼女持ちは居たけど、野球部はなぁ……」
ちなみに、左腕はなぜかこの世界に来て完治していたので、今の状態は凄く良い。
久々に忍との地球の話は楽しかった。
考えてみれば、この世界に飛ばされるまでは会った事も無いし、会う事も無かった忍と異世界で並んで歩いているのは変な感じだ。
「で、竜機兵だっけ?レリムさんが整備員?」
「こっちじゃ機兵鍛冶って言うんだけどな。ちなみにレリムさんは見た目がアレだけど28才らしいぞ」
「28才……鍛冶であの身長……ドワーフってやつ?」
「だったかな」
「ファンタジーだなぁ。ドワーフの男は髭面がデフォなのに、女はああなるのか」
「まぁ、竜機兵に興味があるなら、後で色々レリムさんに相談してみたら?」
「だよね。構造も気になるし、工具とかもっと色々あった方が便利だし、色々聞いてみるわ」
そういった話をしていると、外壁に近い所に建っている小屋に近づいた。
「ここだよ」
忍はそう言うと、小屋の中に入っていく。
木造の小さい小屋は放置されて暫く経つのか、ボロボロで今にも倒れそうだ。
忍は「あったあった」と言いながら鈴原工業の通学用指定鞄を持ってきた。
鞄にはアクセサリーが何個か付いていて、重そうに結構膨らんでいる。
「思ったより荷物多いな」
「ウチの学校は個人ロッカーが小さくてさ、教科書が多いんだよ」
忍はそう言うと、鞄を開いて中身を確認する。
俺の体験だと、教科書や参考書はかなりヤバイ。サクラやレリムさん、それにコクヨウさんも興味深く読んでいた。普通の人は読めなくても、アリスさんみたいに言語共有の理術を使える人は他にもいると思う。
「これは、危険物なんだよね」
俺は「工業技術基礎」って表紙の教科書をめくりながら言う。
専門科の教科書は難しいなぁ。
「教科書が?」
「知識の宝庫らしいよ」
「なるほどねぇ、異世界じゃ危ない知識も多いか」
「見せる見せないは忍に任せるけど、注意したほうがいいな」
「了解」
忍は鞄の中から小さいポーチを取り出すと中身を確認する。
「あー、後でサクラに確認しないと……」
「何を?」
俺は教科書を忍に返しながら何気なく聞いた。
「生理用品」
「ちょっ!おま」
「嫁居るんだし、そんなに気にしなくてもいいじゃん」
俺が「まだ嫁じゃ無いし」と言うと、忍はクククと笑う。
まぁそう言うことは女性陣に聞いて欲しいなぁ。
「そう言えばさ、徹とサクラは婚約してるんだっけ?」
「ああ、昨日説明したとおり」
「結婚はまだなの?」
「竜機兵で飯が食えるようになるまで、サクラには待ってもらってる」
結婚の時期はサクラとはドール村を出る前に相談していた。
「なるほどねぇ。ちょっと大人しいけど、しっかりした良い子だよね」
「……良い子なんだよね。可愛いし」
「はいはい、ご馳走様」
「まぁでも、高校生で結婚とか考えもしてなかった」
「こういう世界じゃ結婚早そうだね」
もう慣れてきたけど、日本の常識は通じない事が多い。
「さて、そろそろ行こうか」
二人で行きと同じように色々話しながらチュールの街に戻った。
内門の衛兵に挨拶をして、街中に入る。
街中はまだ戒厳令が引かれているので、武装した人達がウロウロしていた。
「やっぱ甘味が少なそうだね」
街の広いメインストリートを忍と二人で歩いていると、忍は屋台を覗きながら言う。
いくつか並んでいる屋台は肉の串焼きとかが多い。
「砂糖とか麦系は商隊でも扱ってるし、そんなに高くないと思うけどね」
「あと、調理パンみたいなのも無いなぁ」
「サンドイッチならサクラとかリーアさんが普通に作るけど、売ってるのは見た事無いかも?」
俺が全然気にしていなかった事を忍は言う。
屋台を見ただけでも、俺と忍は見方が違うなぁ。
「あれ?レリムさんと猫娘だ」
屋台が並んでいる場所を過ぎて、機兵工房が並ぶ一帯で、レリムさんとアリアンロッドの戦術機関士のルーリさんの二人が居たのを忍が見つけた。
レリムさん達は工房の入り口前で、中を覗き込んでいた。
「何しているんですか?」
「あぁ、トールさんと忍さん」
工房の中にはアリアンロッドとアリスさんが居て、工房の人達がアリアンロッドの左腕を分解していた。
肘から先の装甲が外されて、金属製のピストン状の筋肉筒が何本も向き出しになっている。
工房内は地球の工場見学で見に行った金属加工の工場みたいに、金属と油の匂いがしていた。
「アリアンロッドの左腕の修理でス」
その光景を忍が興味深そうに見ている。
「トールさんの一撃で、左腕の筋肉筒が伸びきってしまいましたので、交換しますわ」
アリスさんがこっちに来て説明してくれた。
「うわ、申し訳ない」
アリスさんは「一騎打ちの相手に謝るなんて、初めて聞きましたわ」と、クスクス笑うと。
「いいえ、腕を飛ばされるよりはマシでしたわ。それに、あの一騎打ちはわたくし達から挑んだものですし……もし、出来ればまた再戦をお願いしますわ」
俺はアリスさんの再戦の話に頷いた。
「あれは何してるんだい?」
工房の人が外した筋肉筒にうっすらと青く光る手を当てて、撫で回しているのを忍が聞く。
「あれは、一般的に鍛冶理術といわれる理術で筋肉筒の状態検査をしていますね」
「コレだけの機械の固まりを維持していくには、検査機械が全然無いと思ってたけど、魔法でやってるのか」
「部品ゆがみや亀裂など、いろいろな状態が分かりますよ」
「それって、レリムさんも使えますよね?」
たしかレリムさんもやっていたな。
俺が聞くと、レリムさんが頷いた。
「ええ、機兵鍛冶には必須なので……」
「それはどうやったら覚えられます?」
忍がレリムさんに聞く。
「普通は工房か鍛冶の師匠に弟子入りして、師匠から教えてもらいますね。理術の適性が無いと無理ですが」
「へぇ……」
工房の人たちはアリアンロッドの左腕をどんどん分解していく。
そして分解された部品は理術で検査され、二箇所に割り振られていく。
「筋肉筒は規格品ですか?」
「ほとんどはそうですね。筋肉筒は甲蟲の筋肉を処置して使っているんですが、基本的に消耗品ですし、実は竜機兵はここ200年ほどは、構造的に新しい物は無いんです」
レリムさんと会話している忍は楽しそうだ。
俺も見ていると結構面白いけど、サクラと買出しを行く約束があったのを思い出した。
「忍、俺はそろそろ戻るけど、まだ居るならバッグは先に俺が持って行くけど?」
「お?頼める?ワタシはまだここで見とく」
俺は忍からずっしりと重いバッグを預かると、皆と別れて商隊の方へ戻った。
カンカンカンカンッ!カンカンカンカンッ!カンカンカンカンッ!
サクラとランタンなど、商隊で手に入り難い旅の用品を買い物し、商隊の方へ戻る途中で、鐘を叩く音が街中に響いた。
その音が鳴り響くと、街のあちこちで走り出す人が居る。
緊急事態が起こっているのか、工房の方から怒鳴り声や、俺達がこの街に入ってきた方の門に歩いて行く竜機兵が見える。
「何でしょう?」
「とりあえず急いで、商隊に戻ろう」
俺とサクラは顔を見合わせると、商隊が集まっている広場に急いだ。
レギスさんの商隊に着くと、レギスさんを中心に竜機兵関係のメンバーと忍が集まっていた。
俺とサクラをレギスさんが見つけて声をかける。
「おお、トール君」
「何かありました?」
「今、詳しい状況待ちだが、街の近くに甲蟲の巣が出たらしい」
この前ヴォルトさんに教えてもらったが、甲蟲の巣とは実際の巣とはちょっと違って、甲蟲の前線基地みたいな物らしい。
地面から竜機兵が立って入れるほどのドーム状の巣が出来て、そこから大小の甲蟲が出てきて、鉱山などの資源や街などを襲う。
「そんなに急に巣が出来るんですか?」
「あぁ、場所や大きさにもよるが、一晩で出来る事もある」
「初期対応は機士団がするだろうが、各商隊の護衛の竜機兵や傭兵に声がかかるから、ココで待機してた方がいいな」
ヴォルトさんがそう言うと、皆で頷いた。
「アリス殿もオレ達と一緒でよろしいか?」
「ええ、修理もなんとか間に合いましたし、ご一緒させていただきますわ」
アリアンロッドを見ると、左腕の修理は終わったみたいで、降着していた。
「出撃の準備をしてきます」
俺がそう言うと、ヴォルトさんに止められる。
「敵の規模と巣までの距離がわからんから、まだいいぞ。もう少しすると、機士団の方から応援要請の伝令が来ると思う」
「レギスはすまないが、戦闘中に摘める物を用意してもらって良いか?」
「わかった」
こういった状況では、ヴォルトさんの落ち着いた指示は心強い。
周りの商隊も出撃の準備なのか、人がざわついている。
この世界では甲蟲相手だと、ほぼ無条件で行動を起こす。個々の利益よりも種族全体の敵である甲蟲に対しては皆積極的だ。
暫くすると、街の中心部の方から、馬に乗った兵士が現れた。
「私はリオス伯爵麾下、チュール駐留機士団の者です。竜機士の方々に応援を依頼したい! 現在、街から15リィの所にて、甲蟲の巣が出現しました。我が機士団は交戦中なれど、敵は多い。竜機士の方々は各竜機兵の準備が整いましたら順次正門前広場に集合していただきたい!なお、小型甲蟲も多いので、腕に自信のある傭兵も募集している!」
女の伝令はそう叫びながら、馬を走らせ商隊の集まっている広場で声をかけていく。
「15リィとは街から近いな……」
1リィが大体、1キロぐらいの距離なので竜機兵の足だと、20分ほどだ。
「よし、ヴェルデン、黒狼、アリアンロッドは出撃だ」
ヴォルトさんは皆に声をかける。
「了解しましたわ」
「はい」
リーアさんが皆に部隊魔法をかけてくれる。
「徹、サクラ、気をつけて」
俺とサクラが黒狼に向かう途中で、忍が声をかけてくれる。
「いってきます」
俺はサクラと黒狼に乗り込み、黒狼立ち上がらせると、槍を掴んだ。
アリアンロッドは修理したばかりの左手を握ったり開いたりしている。
『さぁ行くわよ~』
最後にヴェルデンが立ち上がると、俺達とアリアンロッドは正門の方に向かった……。
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