ベルサイユは夢と散る(前)
ツァン「あ~ぁ...」
ツァンはがっかりとして指輪の無くなった指を見た。
ツァン「まさか国を出た途端に指輪が魔法のように消えたなんて...」
遊斗「...また結婚式なら挙げられる。
気にするな。
それに、結婚にはまだストーリー的に早過ぎたよ。」
ツァン「よね。
よーし♪元の世界に戻ったら結婚するんだから!」
そうこうしている内に気がついたら森は中世風の道に変わっていた。
ツァン「え~っ!!また中世~!?」
遊斗「そうとも限らないよ。
ほら、あの宮殿!」
突然女性バージョンになった遊斗が少し離れた所にある宮殿を指差した。
見覚えあるそれは....
ツァン「ベルサイユ宮殿!?」
遊斗「らしいな。」
男モードに戻った遊斗はゆっくりと歩き出した。
遊斗「この時代のオーストリアについてどれくらい知っている?」
ツァン「うーん...豪華絢爛な宮殿や貴族たちが優雅に暮らす時代かな...?」
遊斗「多分、その夢は木っ端みじんに砕ける。」
*********
ツァンは通路から漂う刺激臭に鼻をつまんだ。
ツァン「何これ...?」
遊斗「この時代のオーストリアの市民はほとんどが太陽王ルイ14世の影響でカトリックが多い。
カトリックはあらゆることをはしたないとしてきた。
むろん、排泄の際に服を脱ぐこともね。」
ツァン「うわ...ばっちい!!!」
遊斗「だからそれらの汚いものは壺なりに入れて窓から通路にポイ。」
ツァン「いやああああああ!!!!
今2階からおばさんが何か落としたよ!!!」
遊斗「で、その汚いのは農家の方々が放し飼いにしている鶏や豚が食べるのさ。
今、濡れてる床歩いてるけどそれは―」
ツァン「....オエエエエエエエエェッ!!!!!!」
ツァンはその場でリバースしてしまった。
*********
遊斗はツァンを近くで介抱を手伝ってもらった異教徒の老女の店で休ませた。
ツァン「はぁ...」
ノイローゼになりそうな顔をしてツァンは老人から渡してもらったコーヒーを飲んだ。
ドロッとする。
まずい。
老人「トルコのコーヒーは美味しいかね?」
遊斗「えぇ、ありがとうございます。」
遊斗はトルココーヒーをぐいっと飲むと老人にお礼としてポケットに入れてあった銀の塊を渡した。
遊斗「孫にお土産でも買ってあげて下さい。
さ、行くよ。
ツァン。」
ツァン「ヤダー」
遊斗「置いてくよ。」
ツァン「やだあああああああああああ!!!!」
*********
遊斗「さてと、宮殿に行こうかな...」
ツァン「やっと宮殿に行けるのね...」
遊斗「まずは裏路地。」
ツァン「え?」
遊斗「こんな格好で行ってみろ。
猿呼ばわりされて恥をかく。」
遊斗は近くの怪しいお店で酔いどれのお姉さんと交渉を始めた。
お姉さん「アァ?ナメてんのか!」
遊斗「俺たちに三流貴族の身分偽装とそれ相応の服を用意して欲しい。
こいつで払う。」
お姉さん「金塊?...ま、いっか。
すぐに仕上げてやる。
三日したら来い....zzZ」
お姉さんはカウンターに突っ伏して眠ってしまった。
遊斗「酔いどれの看病してるからツァンは適当に遊んで来ていいぞ。
ここら辺は異教徒の集まりだからね。」
*********
ツァンは遊斗からもらった小さな金塊の入った袋を腰に縛ってフラッと出かけた...。
その時、目の前に銀髪ショートの目つき悪い女の子が現れた。
見覚えある...。
ツァン「ジャッカル...」
ジャッカル「よく分かったな。俺は『佐伯 岬』。
お前の学園ではジャッカルとあだ名された女番長!」
ジャッカルは背中からバトルアックスを取り出した。
ジャッカル「俺の縄張りを荒らす奴はぶっ潰す!!!」
ジャッカルから強力な炎属性のオーラが爆発し爆ぜ回る。
ジャッカル「うおりゃあああああああぁっ!!!」
ツァン「いやああああああ!!!!!」
しかし、振り下ろされたアックスは止められた。
割り箸によって。
遊斗「大丈夫だった?ツァン?」
ジャッカル「な...箸でアックスを...くそ...アックスが動かねぇ...」
遊斗「ジャッカル君だね?
俺は『太陽 遊斗』だ。」
ジャッカル「太陽遊斗だと!?」
ジャッカルが動揺する。
ジャッカル「FBIを殲滅させた男がなぜこんな所に...」
そこでツァンは初めて遊斗がFBIを皆殺しにした犯人だと知った。
でも...
ツァン「でも遊斗は優しい。
よっぽどの理由がない限りそんな酷いことはしないよ!」
ジャッカル「...」
ツァン「ボクは遊斗を信じているし...それに好き。」
ジャッカル「な!?」
ツァン「だからボクは遊斗とずっと居る!」
ツァンの気迫にジャッカルはアックスを取り落としてしまった。
ジャッカル「(あのぼっちで意地っ張りな桜城がここまで...)
フッ...根負けだ。
先に行きな。
有名な鍛治屋のじいさんがいる。
奴に造れない装備はないからな。」
ジャッカルは口元に笑みを浮かべると路地の闇に消えた...。
ツァン「ジャッカルまで飛ばされていたなんて...」
遊斗「何か異変が起きているんだ...きっと...」
遊斗は空を睨んだ。
遊斗「俺たちにできることは次々と現れる世界の解決とこの世界の脱出方法を模索することだ...。」
ツァン「そのためにがんばろうよ!遊斗!」
遊斗「だな!」
遊斗とツァンは品物ができるまで裏路地の怪しい宿屋に泊まり、その時を待つことにした...。
遊斗「三日宿泊したい。」
するとカウンターのお姉さんはクスクスと笑い始めた。
お姉さん「えぇ、いいわよ。
なかなかタフな方なのですね♪
お嬢さん、お薬は用意してるから気分が悪くなったらいつでも来てちょうだい♪こんな大金出すならそれなりに保障しないと♪」
遊斗&ツァン「?」
お姉さんに案内された部屋は質素だけどしっかりと防音設備やセキュリティが成っていて、隠れ家としては申し分なかった。
遊斗「お香まで焚いているなんて...ストレスの解消には最適だな。
よし...次は侵入して何をするか...」
しかし、遊斗は体が火照っていることに気がついた。
ツァンを見ると...。
ツァン「遊斗ぉ....体が熱いのぉ...」
ツァンは服を次々とほうり投げていく。
遊斗「(しまった!ラブホに来てしまったのかあああああああああ!!!)」
遊斗は焦って出ようとしたが、腰が抜けてしまった。
遊斗「(くそ...女の体のせいで俺にまで影響が...ええい!鎮まれ!
俺のグスタフマックス!!!
このままではまずい...)」
ツァン「遊斗~♪」
真っ裸になったツァンが遊斗に擦り寄ると服のボタンを外し始めた。
遊斗「丸薬...丸薬...あった!!!」
遊斗は真っ黒な丸薬を二つ取り出すとツァンと自分の口に投げ込んだ。
ツァン「.....はっ!?
ボクは何を!?」
遊斗「このお香には性的な興奮作用もあるらしい。
だけどもう大丈夫。
鎮静の丸薬を飲んだからそういう成分は中和されてるよ。
効力は三日だからちょうどいい。」
ツァン「そう....って何でボク真っ裸なの!?」
遊斗「お香のせい」
ツァン「...はぁ」
ツァンはため息をついた。
遊斗「じゃあ...一緒にのんびり過ごそうか。」
ツァン「...うん」
ツァンは遊斗に身を預けるとすやすやと眠りについた...。
遊斗はツァンのツヤツヤとしたウェーブされたピンクのショートヘアを撫でた。
遊斗「疲れていたんだね...。
ゆっくりお休み。
ありがとう.....ツァン。」
遊斗は男女の感情が混濁したような表情で笑った。
遊斗「いつかお別れが来るかもしれない...でも、ツァンは幸せになって。
幸せな恋をして...幸せな結婚をして...ステキな家庭を作って...。」
遊斗もツァンに折り重なるように...眠りについた...。