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例えばこんな恋語り  作者: K+
12章 彷徨い(サマヨい)

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56/125

 十一月三日、文化の日、一般には休日だが、青葉高校の生徒は文化祭で登校日。そして梛女子高校の役員達は、なるべく参加見学をするように求められていた。

 琴巳(ことみ)は、順子(よりこ)といつもの場所で待ち合わせた。青高に着いたら、裁縫五人娘とも落ち合い、公演衣装の最終チェックをする予定となっている。

 歩きながら、順子はわくわくした様子で訊いてきた。

「リっちは王様なんだよね?」

 うん、と琴巳はえくぼを浮かべる。

 昨日、最後の練習で出演者は衣装を着て演技してみた。〝裁縫主任〟として琴巳は立ち会い、初めて通しで観せてもらった。

「カーリーヘアの王様。王様って言うより王子様みたいで、かっこいいの。童話から抜け出して来た感じ」

「いいねぇ。リっち、栗毛だし、マッチしてそう」

 順子は後ろ手に持っていた手提げを、上げて見せた。「カメラ持って来たんだ。劇の後にみんなで撮ろうよ。出演者は衣装着たままで写ってもらうなんて、どう?」

「わ。劇のみんなも喜びそう」

 両手を合わせて琴巳は賛成したが、次の台詞に表情が固まった。

「写真コンテストがあるんでしょ?」

「そ、そういえば、聞いた、かも」

「上手く撮れたら兄ちゃんに出品してもらおうかなー、なんて。入賞賞品はあっちの学食券なんだってね。だから兄ちゃんも乗り気なんだー」

 順子は面白そうに話し、歯をこぼす。琴巳はぎごちない笑みを固定させた。

『――発案、俺』

 そう(たけし)は言った。

 昨日、体育館で琴巳が観劇の場所に迷っていると、彼はカメラを持った生徒とやって来た。

 どうも、いいアングルを探しに来たらしかった。目敏く気づいた武は、カメラマンに声をかけて別れると、こちらに来た。

『見学?』

『う、うん』

 琴巳は意味無く歩き出しながら、頷いた。武はのんびりついて来て、言った。

『文化祭の後で、期間中に学内で撮ったのを対象にした、写真コンテストをやるんだ』

『そ、そう』

『俺と加賀のツーショットでもあれば、周りを牽制できるのに』

 琴巳が肩をすぼめて振り返ると、武は喉を鳴らした。『そう思ったら、結構イける気がした』

『…………』

『コンテストの発案、俺』

 武は舞台に目をやりながら、言った。『実行委員長は頷かなかったけど、他の連中がやりたがって、企画が通った』

 琴巳は、ちょっぴりホッとした。彼をサポートしてくれる仲間が居る点に。

『成功するといいね』

『どっちが?』

 琴巳が首を傾げると、武も顔を傾けた。『企画の成功? 牽制の成功?』

『えっ、き、企画』

『俺は両方成功させたい』

 武は言うと、舞台にレンズを向けている生徒に目を流した。『今撮るか。丁度カメラマンが居るし』

『やっ、ヤだっ――よしてっ』

 琴巳が焦って青い袖を掴むと、少年は可笑しそうに琴巳の手元を見た。

『冗談だ』

 ……どうして、ああいう時の台詞まで同じなんだろ。

 脇を走り抜ける車を目に映しつつ、とほほ、と琴巳は思う。今日も武に会うかもしれないと思うと、気が重くなってくる。

 琴巳は、そっと順子に寄り添った。

「ヨリちゃん、今日、ずっと傍に居ていい?」

「何をいきなり……どきどきしちゃうじゃん」

 順子はおどけた口ぶりで応じた。「ずっとってことはぁ、夜明けの珈琲まで?」

「……今夜、泊めてくれる?」

「おいおーい」

 順子がひらひら手を振って、冗談冗談、と琴巳は笑う。

 二人は、既に賑わう青高の門をくぐった。

 数刻後、別の二人組も。




 栩麗琇那(くりしゅうな)は、咲子(さきこ)に腕を引かれて青葉高校に入った。

 校門の所でパンフレットを受け取ったが、物珍しさを否めず、先ずは周りに目をやる。母校以外の高校に入ったのは初めてだ。

 鈍い青色の制服を着た男がうろうろしていて、私服校出身の栩麗琇那には新鮮に映る。ふと、梛女子高校の制服もちらほら目につくと気づいた。気づくと、何となしに目線を落とす。

 咲子は、校舎の入口が近づくと歩調を緩めた。見せて、と栩麗琇那が持っていたパンフレットを取る。立ち止まって開き、何処行ってみるー? と相も変わらず陽気な風情で問うた。

「劇なんて良くない? たいく館で三クラス、会議室で一クラスが公演」

「あぁ」

「巧く配置したもんねー。公演時間重なってないから、四つ共観れる」

「そう」

 内心落ち着かず、栩麗琇那は気の無い返事をしてしまう。咲子は、ひと月隣に居て慣れてしまったのか、まるで気にした風も無く続けた。

「中高生の劇は、創作じゃないと定番よね。〝一年一組:白雪姫〟」

「男が()るところに捻りがあるんじゃ?」

「それだと観たいような観たくないような感じだけど……〝共演:梛女子高校一年一組有志〟」

 ぴくっと栩麗琇那は眉が動いた。咲子が言を継ぐ。「梛女の子に主役頼んでるのかしら」

 栩麗琇那は咲子の手元に目を走らせた。ぎょっとする。一組の次に一年五組の演目が並んでいる。琴巳は、五組ではないか。

 来てる? まさか、居ないだろうな――

 栩麗琇那は、今朝も琴巳に会わなかった。

 加賀家の子供達は食卓を囲まなくなっている。

 最初に公士(こうし)が、バスケット部の朝練に出ると言い、六月頃から食事を一緒にしなくなった。そして九月からは、栩麗琇那が生活をずらした。それでも琴巳は朝夕、用意をして、冷蔵庫に入れたり、ラップをかけて食卓に置いている。今日もそうだった。

 栩麗琇那が家を出る時、琴巳の靴が無かった。夏の終わりから元気の無い彼女が、休日に、朝から何処へ行っているのか。

「もしもーし」

 咲子の声量が上がり、栩麗琇那は我に返った。思わず胸元を掴んで、隣を見る。咲子が、不審そうに見上げてきていた。「聞いてた?」

「いや、その……」

 言葉に詰まって栩麗琇那は口許を片手で覆う。咲子は口紅を塗った唇に、指先をあてた。

「珍し。いつもは、ぼーっとしてても話は聞いてるのに」

「……すまない」

「じゃ、もっかい。四つ共観ると、今日は一日劇三昧よ。それでいいかしら?」

「…………」

「ちょっとちょっと――」

「あぁ、聞いてた」

 栩麗琇那は、仕方無く頼んだ。「五組はパス」

「五組?」

 おうむ返しに言って、咲子はパンフレットに目を戻す。しばしの沈黙が、二人の間をたゆたった。

 栩麗琇那が不機嫌から前髪を梳いていると、ははぁん、と咲子は呟いた。

「わーかっちゃった」

「なら、口にはしないでくれ」

「ま、いいでしょ。確かめないであげる」

 咲子は諒承すると、気づかうような目をした。「どっか別のトコ行ってもいいわよ? ちょっと遠いけど、ソウシ芸大も今日、学祭やってるわよねー」

「女子高生の間を闊歩するんじゃないのか」

「女子大生でもいいじゃなーい?」

 咲子は気が変わったらしく、腕を組んできた。「アストがライブに来るのよ、確か」

 校門へと咲子が足を向け、栩麗琇那は苦笑した。

「分かった。チケットは俺持ちで」

「あら、ラッキ」

 二人は、早々、青葉高校を後にする。

 栩麗琇那は心の内で咲子に感謝した。琴巳を傷つけずに済んだと、思った。




〝金のガチョウ〟は、かなりの盛況で一日目の幕を閉じた。琴巳は順子や衣装仲間と本番を観たが、周りの好反応の方に感想を洩らし合った。

「ウケたねぇ」

「ウケてたねぇ」

「こんなにウケるとは」

 順子が、手提げを持ち上げた。

「写真撮ろう撮ろう」

 体育館を出た渡り廊下で〝金のガチョウ〟に携わった仲間達は、順子を加えて写真を撮った。

 シャッターリモコンを手に、撮り終えた順子は一同に問うた。

「上手く撮れてたら要りますー?」

 全員が頷き、一、二、三……と順子は人数を数える。琴巳はミニトートバッグから、メモ帳を取り出した。一枚破り、シャープペンシルのヘッドをノックする。

 男子が十九で女子が十一、と順子が言って、琴巳はペンを走らせる。

「ヨリちゃん、自分も入れた?」

「勿論」

「じゃ、三十枚丁度ね」

「あ、プラス一」

 順子はカメラを手提げにしまいながら、言った。「コンテストに出す分」

「そっかそっか」

〝+1〟と書き足し、琴巳は芯を戻した。はい、とメモを渡す。サンキュー、と順子は受け取り、それも手提げにしまった。しまうと、傍に居た裁縫娘の五人が、声をかけてきた。

「衣装完成の打ち上げしようよ、どっかの模擬店で」

「主任も店長もまだ仕事残ってるけど、今日は忘れて、ぱーっと」

 言われて、琴巳は親友を見やる。順子は喜々とした表情で、オーッケイ、と言った。

 そうね、と琴巳も応じた。六人も周りに居てくれれば、例え武に会ってもやり過ごせるだろう。

 総勢七人は、ぞろぞろと校舎に入った。裁縫娘の一人、日本人形のような風体の瑠璃(るり)が、校門の所で配っていたパンフレットを開く。皆立ち止まり、それを覗き込んだ。

「あんみつとか食べたい」

「男子校に甘露屋?」

「ちょっと不気味なイメージがあるなー」

「そうだねぇ。甘露屋って、着物美人が出て来る雰囲気だよね」

「赤い前掛けとかして?」

「そうそう。丸い漆塗りのお盆持って」

「着物美少年てのも良くない?」

「美少年なら甘露屋じゃなくてもいい。探せ探せ」

 そんなの書いてないよぅ、と瑠璃が苦笑いする。順子がからから笑った。

「そういうコピー可だったら、何処も入れそうだね」

「〝美少年の居る喫茶店〟」

「〝美少年の居るカラオケボックス〟」

 口々に例が挙がり、琴巳も何となしに、パンフレットを見ながら言った。

「〝美少年の居るお化け屋敷〟?」

 一瞬、しん、となって、他の六名が爆笑した。何だそりゃー、とポニーテールがトレードマークの堀蕗からツッコミが入る。

 熱くなった頬を押さえる琴巳に、順子が腹を抱えながら、ナイスナイス、と親指を立てて見せた。

「一番、行ってみたいかも」

「居るかもよ? 美少年のお化け」

「お化け屋敷なんてあるんだ?」

「あるある、〝二年六組:お化け教室〟。これってお化け屋敷でせう」

「何か食べてから行ってみる?」

「で、何食べるわけ?」

 それを決めてたんだった、と少女達はハタとする。七人はどことなく真顔になってパンフレットを囲んだ。さほどせず、ケーキがメインメニューらしき喫茶店に行くとが決まる。

「〝一年三組〟か」

 瑠璃が、頁を始めに戻す。校内の地図が載っていた。(ふき)が、遠くを見るように額に手をかざす。

「さぁて、今どの辺だー?」

 気づいた琴巳は、促した。

「ナビは任せて? ここには、春に来たことがあるから」

「おぉ、そうだ。級長、お願いしまーす」

 肩を揉んでもらって、はぁい、と琴巳は笑顔になる。

「一の三はこっちでーす」

 琴巳が示し、少女達は再び歩き出した。

「交歓会も、まんざら無意味な行事じゃないんだぁ」

「交歓会無かったら、いくら近くても男子校の文化祭には行かなかったかもなー」

「うん。まず、美少年の居るお化け屋敷には入らなかった」

 それを聞いて、琴巳は順子に泣きつく。

「うう、みんなが苛める」

 きゃはは、と五人娘が笑う。琴巳はしばらく、拗ね顔で順子の腕にしがみついていた。


 ケーキと飲み物を昼食の代わりにしてから、琴巳達は〝お化け教室〟の二年六組に向かった。二年生の教室は、生徒棟の最上階である。

 各校舎の配置は違うが、教室の割り振りは、青葉高校と梛女子高校は同じだ。一年は三階、二年は四階、三年は二階。

「来年になったら、毎日四階まで上がらないといけないのかぁ」

 ちょっぴりふっくらタイプの節子が洩らした。「三階に上がるのでさえ結構シンドい時あるのに、もう一階上がらなきゃならないなんて」

 裁縫を離れたところでは弓道に打ち込んでいる蕗が、苦笑いした。

「せっちん、年寄臭い意見だなー。若人なら、しっかりしろ!」

 ぱんっ、と背中を叩かれ、ひゃっ、と節子(せつこ)は声をあげる。琴巳や順子も、くすくす笑いながらポンポン背中を叩いてやった。

 賑やかに六組まで来ると、入口に短いが行列ができていた。順子が、ささやかな音の口笛を吹く。

「遊園地並だぁ。待たないと入れないなんて」

 ホント、と相槌を打った琴巳は、壁の貼り紙に気づいた。黙読する。

【一、お客様は十分おきにお入り頂きます

 二、お一人ないしお二人でお入り下さい

 三、入口は六組の前の扉、出口は七組の後ろの扉となっております

 四、料金、お一人様一回、五十円頂戴します。税込み(笑)。返金不可。悪しからず】

〝尚、心臓の弱い方は御遠慮下さい〟という注意書きまであり、本格的、と琴巳は呟く。

 一緒に入ろ、と順子が言ってくれて、琴巳は頷きかけたが、ためらった。自分達は七人居る。誰か一人、あぶれてしまう。すぐ、皆もその点に引っ掛かった。

「ジャンケンして、負けた人が一人で入る?」

「うーん、それサムいな」

「負けた人がもっかい入る?」

「そだね。もっかい分の料金は、みんなでカンパしよう」

「十円余るのは慰労金」

「チロルチョコしか買えないなぁ」

 あはは、と一同は笑う。ともあれ、グーチョキパーでグループ分けをした。琴巳は運良く一回入るだけで済んだ。次に、どのグループから入るか、メモ帳にあみだクジを作った。琴巳と一緒に入ることとなった瑠璃がクジを選んで、一番目を引き当てる。

 そうこうしているうちに、順番が来た。料金を入口で払い、緞帳らしい黒い布を分けて入る。背後で鈴の音が、ちりーん、と響いた。

 暗い教室には、何やら怪しげな音楽がひっそりと流れている。足元に、ごくぼんやりと発光する、道順の矢印が見えた。琴巳と瑠璃は手をつないで、そろそろと進んだ。

 壁を隔てた辺りから、きゃあっ、と声が聞こえてきて、二人は思わず寄り添う。瑠璃が囁くように言った。

「えぇー、学校の出し物にしてはやたら雰囲気あるー」

「う、うん」

 予想外にしっかり作られており、琴巳はどきどきしてくる。

 突然、べこぼこっと音がした。左右にあった壁が近づいて来て、瑠璃が短く悲鳴をあげた。琴巳は慌てて手を引く。

「早く早く、前に前に」

 ぱたぱたと二人は小走りに通り過ぎた。やられたぁ、と瑠璃が胸を撫で下ろし、琴巳も、ふう、と息をつく。途端、ぴとっと額に何かが触れた。

「っひゃっ」

 琴巳が声をあげると、隣で、瑠璃も同様の悲鳴をあげた。

「しらたき!?」

「こんにゃくかもぅ」

 揃って目を上げると、すうっと白い何かが上に行く。横にした棒に、ずらりと吊るしてあった。

 微かに男性の笑い声が聞こえた。

「具体的に言い当ててきたなー」

「主婦?」

「にしちゃ、声が若かったぞ」

 小声の台詞に、琴巳達は顔を見合わせる。互いにちょっと照れ臭そうにして、前に進んだ。

「瑠璃ちゃんが当たってたみたい」

 琴巳が話しかけると、友人は暗闇で歯を見せた。

「何か、細くてひゃっこかった」

「うんうん」

「それにしても、凝ってるー」

 二人は感嘆を洩らし、次の瞬間、わっ、と互いにしがみついた。床が、急に不安定になった。ぶよぶよしている。

「タイヤかな」

 瑠璃が言って、あぁー、と琴巳は体勢を整えながら納得する。

「小学校の頃、こういう古いので遊んだ覚えがある」

 ぼこんぼこん、と足元に音をたてて、二人は垂れ幕を分けた。どうやら、六組のベランダを通り、七組に行くらしい。外の音がよく聞こえたが、ベランダも黒塗りのダンボールか何かで覆われており、景色は見えなかった。

 黒く短い道を過ぎ、再び垂れ幕を分ける。分けるや否や、突進して来るモノがあった。瑠璃が悲鳴をあげる。

「ヤだぁっ」

 びっくりし過ぎて声の出なかった琴巳の手を引き、瑠璃はベランダへ逆戻りする。「何だった、今の!?」

 相当な速さの鼓動を自覚しつつ、琴巳は答えた。

「た、多分、理科室の、標本だったと思う」

「そ、そっかそっか」

 よし、と二人は手をつなぎ合うと、再度幕を分ける。ごーっという車輪の音と共に、先刻よりゆっくりめに、かつらを被った骸骨が向かって来た。手前の方で止まり、かたかた踊る。

 なるべく避けて脇を通り抜けると、瑠璃は大きく息をついた。

「さっき、ホントに心臓飛び上がったぁ」

「わたし、声も出なかったよぅ」

「二人で入って良かったねー」

 そろそろ終点だろう、と、二人は声量も普通に、話しながら道順を行く。

 狭い道が無くなり、床に大きな箱が三つ四つ転がっていた。瑠璃は、道のあった方を振り返り振り返りする。

「あそこで終わりだったのかな?」

「迫力だったねぇ」

 壁の一角が〝EXIT〟とぼんやり光っている。琴巳は指差した。「出口に到着ー」

 すると、やにわにバタンッと周りで音がした。足をすくめた二人に、箱から飛び出して来たお化け達が寄って来る。白い布を被った者や、絵の具でメーキャップしたのか、顔を血だらけにした者が不気味な声をあげて迫って来た。

 ひゃあっ、と琴巳と瑠璃は駆け出した。急いで〝EXIT〟とある布を分け、外へ出る。出て、昼間の廊下の眩しさに目を細めた。一安心する。

「御観覧ありがとうございましたー」

 横手から係らしき青高生に声をかけられ、少女二人はやれやれという感じの笑みで応じた。おーい、と入口の所に居る順子が手を振ってきた。琴巳達は寄り添ってそちらへ行く。

「面白かったみたいだね」

 期待の眼差しを向ける順子に、琴巳は肩をすくめる。

「たくさんびっくりしちゃった」

「わ。楽しみぃ」

 順子は三番目のクジだった。琴巳は、入口を見やって言った。

「堀ちゃん達、入ってるんだね」

 順子は、ついさっき、と応じる。

 瑠璃が、ちょっと小声で訊いてきた。

「主任、ここ、女子トイレが無いなんてことは……?」

「ん。大丈夫、あるある。少ないけど」

 琴巳は階段に足を向けつつ、親友を振り返った。「みんな出て来たら――」

「そこの階段口に居る」

 順子は目で示してから、いってらっしゃーい、と手を振る。

 琴巳は瑠璃を案内し、階段を降りて行った。

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