第1話 ねぇ、一緒に写って!
男性の若々しい笑い声が響く、夜のリビング。
十一歳の少女は大きなソファの端に座り、タブレットでSNSを眺めている。
画面には、笑顔の家族写真が並んでいる。
世界中の親や兄弟、子どもたち。絆を感じさせる動物たち。
喜び、誇り、感謝、祈り。
そこに並ぶ「美しい幸せ」が、少女の目を引いている。
少女の隣では兄がだらしなく寝そべり、賑やかに話を続けて父親を笑わせている。
父親は一人掛けの椅子に体を沈め、息子の話をおかしそうに聞いている。
母親は、開け放たれた隣室で、いつものように机に向かい書き物をしている。
少女は思案顔で、兄と父親を交互に見つめる。
(お兄ちゃんもお父さんも、どうしていつも笑ってるの。私はそんなに笑えない。)
(いつも何か見たり考えたりしてるし、笑いたくない時だってある。)
(お兄ちゃんだって悩みはあるはずだし、お父さんだって疲れてるはず……それとも二人は、理由がないから笑ってるの?)
少女は視線をSNSの画面に戻す。
同じ年頃の子どもたちも、兄や父親のような笑顔で写真に収まっている。
(私は、こんなふうに笑えていない。)
少女は兄と父親の談笑に割って入る。
「お兄ちゃん、お父さん。」
タブレットの画面を二人に向ける。
「私とこういう写真を撮って!」
兄と父親は、少女が見せる画面を覗き込む。
兄の目がイタズラっぽく光り、少女は真顔を作って応える。
父親が低く優しい声で言う。
「家族写真かな。みんないい顔をしているね。」
兄の指が画面をスクロールしていく。
「撮ってどうするの? SNSに上げるの?」
「決めてないけど欲しいの。今しか撮れないって感じの写真が欲しい。」
「この子、可愛いじゃん。」
兄が指さした先には、仏頂面の女の子が笑顔の家族に囲まれている写真。
父親が吹き出す。
少女は兄を睨む。
睨まれた兄は、さらに楽しそうに笑う。
「私こんな顔してないもん。」
「いいよ、じゃあ撮ってみよう。この顔が……ふはは! 写らないか試そう。」
ソファに座り直した兄が、タブレットのカメラ機能を起動させる。
父親に促されて少女も座り直し、兄と父親の間に収まる。
兄がカメラ画面に三人を映す。
「ほら、撮ろう。さん、に、いち……。」
(シャッター音)
【写真】笑顔を作った少女と、真顔の兄、穏やかな笑顔の父親。
少女はすぐに隣の兄を見上げ、睨む。
「みんなが笑顔の写真がいいの! お兄ちゃん、笑ってよ。」
「ははは! ほら、カメラ見て。さん、に、いち……。」
(シャッター音)
【写真】笑顔を作った少女と、しかめっ面の兄、穏やかな笑顔の父親。
「ねえ! お兄ちゃん! もう、ちゃんとやってよ!」
(シャッター音)
【写真】兄に向かって目を釣り上げて怒る少女と、大笑いする兄、顔をほころばせて見守る父親。
「やだ! やだやだ、あーあ、もう!」
少女は兄をソファに押し倒し、そのまま隣室の母親のもとへ駆けていく。




