43話 緩やかにしかし 正しく 確実に
会議室
重い空気
「報告を」
「対象の村には今流行りの端末である、ノアの生産工場、及びその工場で働く人たちの宿泊施設、が建てられ、さらに最新の調査では 自立する人型のロボットなどが確認されています」
老人たちは頭を抱えある
「今現在、村に人が 流入しているという話を聞く、それへの対策はどうなっている」
「だめだ、無理やり 村に収監されたり、拐われたなんとか事件性のあるものがない、全て 志願してのことだ、違法性がない」
「こちらが村に派遣した人員はどうだ、何か有益な情報は得られたか」
「はい、村に取り入れられている設備やシステムは、どれも非常に画期的です。少子高齢化が進む現状の日本において、実用性は極めて高いと考えられます」
一度、言葉を切る。
少しだけ迷うように、視線を落とした。
「……正直に申し上げます」
空気が、わずかに張る。
「現場の感覚としては、“理想形に近い”とすら感じています」
誰かが小さく顔をしかめる。
だが、止まらない。
「人手不足は解消され、事故は減少、生活基盤も安定しています」
淡々と並べる。
「住民の満足度も高い」
一拍。
「……これを否定する材料は、現時点では見つかっていません」
沈黙。
「少なくとも、“現場としては”評価せざるを得ません」
誰もすぐには言い返せない。
「……問題の本質はそこではありません」
静かに口を開いた。
「設備でも、技術でもない」
一瞬、間を置く。
「人です」
視線が集まる。
「特に、若年層」
空気がわずかに変わる。
「現在の若者は、出世や地位よりも」
言葉を選ぶように続ける。
「安定した生活、そして自分の時間を守れるかどうかに価値を置く傾向があります」
誰かが小さく頷く。
「長時間労働、将来不安、低賃金」
指折りではないが、並べていく。
「それらを避ける選択をするのは、もはや自然な流れです」
一拍。
「そして――」
視線をまっすぐ向ける。
「そのすべてを、あの村は解決している」
沈黙。
「……」
誰も否定しない。
「生活は保証される」
「労働は強制されない」
「時間は自由に使える」
短く、確実に刺していく。
「……本来であれば」
誰も口を開かない中で、そのまま言葉を継ぐ。
「ここまでの項目は、特別なものではありません」
静かに。
だがはっきりと。
「最低限度の生活の保障」
「労働環境の改善」
「将来不安の軽減」
一つずつ置いていく。
「いずれも、これまで“やるべきだ”とされてきたものです」
誰かがわずかに顔を逸らす。
「……やっている」
小さく、反論が入る。
「制度としては整備されている」
「はい」
即答する。
否定はしない。
「“制度としては”」
その一言だけ、少しだけ強く。
「ですが現場の感覚としては」
視線を上げる。
「“届いていない”」
沈黙。
「支援はあるが使えない」
「制度はあるが機能していない」
「保障はあるが実感できない」
淡々と並べる。
「……その差を」
一拍。
「そのまま埋めたのが、あの村です」
空気が変わる。
「誇張ではありません」
「現場で見たままを申し上げています」
逃げ場を与えない言い方だった。
「……つまり、何が言いたい」
低い声。
圧がかかる。
だが、引かない。
「単純です」
短く答える。
「“できていないことを、できている形で見せられた”」
間。
「それが、今起きていることです」
誰も動かない。
「……」
「そしてもう一点」
まだ終わらせない。
「これが最も問題です」
視線を巡らせる。
「若年層は、“比較する”世代です」
スマートフォンを軽く示す仕草。
「情報を見て、選ぶ」
「どこで働くか」
「どこで生きるか」
「誰のもとにいるか」
一つ一つ、現実として落とす。
「……」
「その選択肢に」
静かに言い切る。
「あの村が入った時点で」
一拍。
「流れは、止まりません」
完全な沈黙。
「これは予測ではなく」
目を逸らさずに続ける。
「既に始まっている現象です」
誰も、すぐには言い返せなかった。




