29話 変化
村に変化が出始めたのは、それからすぐだった。
「……なんか、増えましたよね」
理恵が歩きながら言う。
「ああ」
タカシは軽く周りを見る。
夕方の通り。
以前より、明らかに人が多い。
「お疲れ様でーす」
工場帰りの人間が、軽く手を上げて通り過ぎていく。
それだけのやり取りが、自然に増えていた。
「この時間に、人が歩いてるの……なんか新鮮ですね」
理恵が小さく笑う。
少し先から、いい匂いが流れてくる。
「……あれ?」
店の明かりがついている。
「ここ、前は閉まってませんでした?」
「ああ、やってなかったな」
古びた食堂。
暖簾が、ちゃんと出ている。
中から声が聞こえる。
「いらっしゃい!」
タカシたちが中に入ると、数人の客がすでに座っていた。
「お、タカシさん」
店主が軽く手を上げる。
「再開したんですね」
「ああ」
店主は少し照れたように笑う。
「人、増えただろ?」
「このまま閉めてるのもなって思ってな」
「やれるうちはやろうかって」
タカシは頷く。
「いいんじゃないか」
それだけ言う。
店主も、それ以上は何も言わなかった。
料理を作る。
客はそれを食べる。
当たり前の光景だった。
理恵はその様子を見て、小さく呟く。
「……戻ってきてますね」
「ああ」
タカシは短く答える。
外に出ると、別の店にも明かりがついていた。
一つ、また一つ。
夕方の村は、少しだけ賑やかになっていた。
それでも、騒がしくはない。
ただ――
人が暮らしている音が、ちゃんとあった。




