26話 不完全性の意味
「完全自動化もできるな」
タカシは呟く。
アーカーシャの機能を使えば、資材の生成から組み立て、出荷まで。
すべてを完結させることができる。
本来なら、人の手は一切いらない。
完全に機械化された工場の完成形を作ることも可能だ。
「……でも、それだと意味がないんだよな」
今回の目的は、工場という“職場”を作ること。
人を呼び込むことにある。
だからこそ、この工場にはあえて余白を作る。
面倒な部分はすべて機械に任せる。
残すのは、人ができる軽作業。
単純で、淡々とした業務。
理恵が覗き込む。
「全部機械にできるなら、人を雇う理由ってあまりないですよね」
タカシは少しだけ笑った。
「そうでもないさ」
「人が働く理由が、何かを生み出すためだけとは限らないだろ」
少し間を置く。
「人ってさ……誰かの役に立っているとか、自分の機能を発揮できているって思えた時に、生きてる実感を持つもんなんだよ」
室内は黙って聞いている。
「だから、意味があるとかないとかじゃない」
「人が幸せになるためには、こういう“少し不完全なもの”が必要なんだ」
タカシは設計を確定させた。
「この工場は、生産のための場所じゃない」
「人が幸せになるための場所だ」
工場の設計が進む中で、理恵がふと疑問を口にした。
「そもそも、原材料ってどうするんですか?」
タカシはあっさり答える。
「それは俺が用意する」
「用意するって……どこから?」
「まあ、いくらでも作れるからな」
軽く言う。
理恵は一瞬黙る。
「……そうでしたね」
深く考えるのをやめた。
つまり、この工場において原材料費はほぼゼロに等しい。
「ってことは……価格、かなり自由に設定できますね」
「ああ」
タカシは頷く。
「だから、人件費に回す」
「人件費?」
「どうせなら、ちゃんといい生活してほしいだろ」
タカシは画面を操作しながら、条件を決めていく。
「手取りは……35万くらいでいいか」
「え?」
「残業なし。金土日祝休み」
「え?」
「週休3日制。実働は6時間くらいで十分だな」
理恵が完全に固まる。
「……ちょっと待ってください、それ」
タカシは気にせず続ける。
「まあ、途中で休憩は入れる。3時間働いたら……1時間半くらいでいいか」
「いや多いですって」
「いいんだよ、そのくらいで」
さらっと言い切る。
「人が幸せになるにはさ、仕事だけじゃ足りないんだよ」
少しだけ真面目な声になる。
「趣味とか、自分の時間とか、ちゃんと持たないとダメだろ」
室内が静かに聞いている。
「今の働き方って、ちょっと偏りすぎてるんだよな」
「残業とか、いらないし」
「働く日数も、本当はそんなにいらない」
タカシは少し考えてから、付け加える。
「でもまあ、いきなり減らしすぎても落ち着かないだろうし」
「週3日くらいがちょうどいいだろ」
理恵がぽつりと呟く。
「……こんな求人、見たことないですよ」
「そりゃそうだろ」
タカシはあっさり答える。
「普通じゃないからな」
画面には、完成した求人内容が表示されていた。
この工場は、生産のための場所ではない。
人が、ちゃんと幸せになるための場所だ。




