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第3話 三人の仲間 前編

 カリムの処刑は斬首と正式に決まった。

 最後まで命乞いをしていたカリムだっだが、共に処刑と決まったカリムの家族たっての希望で最後の夜に家族の晩餐が特別に許された。


 穏やかな笑顔でカリムに微笑む妻と子供達、涙を流しながらカリムは謝罪を繰り返したそうだ。

 翌日、カリムの刑は執行された。

 最後にようやくカリムは陛下に謝罪をした。

『私が愚かでした』と。


『子を持つ親である筈の貴様がなぜ...』

 陛下の言葉にカリムは泣き崩れたそうだ。


「なんか哀れだな」


 ラクスはカリムの最期を聞いて呟いた。


「人間は弱いもの、一度享楽に溺れると、何も見えなくる」


「そんなもんか...」


 私の言葉にラクスは寂しそうだ。

 婚約者を薬漬けにし金を奪った挙げ句、殺そうとした奴なのに。

 ラクスは甘い、人間の闇を余り知らないのだ。


「密偵の処刑はやらなかったな」


 密偵は処刑されず、アンゴラ王国に送還されて意外そうだけど、奴をそう簡単に処刑させてはならない。


「アイツはここで死なせる訳にいかない」


「どうして?陛下はアンゴラと(紛争)を構えるのを躊躇したのかな?」


 ラクスには分からないだろうけど、あの密偵は能力を含め、全く大した奴じゃ無かった。

 アンゴラ王国から見ても、惜しい人材では無い。


 カリムに近づいた手口だって、ギャンブルの借金に苦しんでいたのを肩代わりしたのが切っ掛けだ。


 サラを襲ったやり口も、王女に薬を盛るなんて、余りにもリスクが高い。

 だからあっさりバレた。余りに、お粗末な密偵だった。


「私が陛下に進言したんだ。処刑を止めるように」


「ハリスが?」


「そうよ」


 陛下に進言なんて、ラクスは驚いているが、ちゃんと信頼を得る為にする事はしたのだ。

 サラは現在王都を離れ、静かな田舎で転地療養が決まった。


 初めてをあんな奴等に奪われたんだ、経験の無い私だが、女としてその苦しみは分かる。

 身体を戻し、記憶を消したが、やはり事実は残る。

 サラはおそらく誰にも知られず、生きて行く事になるだろう。


 どこかに嫁ぐが、1人のままか、それは分からない。

 同じ人を愛した女性として、サラの幸せを...

 だからこそ、あの密偵を処刑で済ます訳にはいかないのだ。



「あの密偵は簡単に死なせない」


「え?」


「奴はアンゴラで殺される運命だ」


「まさか?」


 ラクスは知らないんだ、アイツが辿る末路を。


「任務に失敗した密偵はユート家に送られる」


 ラクスは黙って私の言葉を待つ。

 陛下にもこの事は伝えてある、アイツを待っている末路を。


「あの密偵は自分がどうなるか知らないんだ、だから自殺すらしない」


「自殺?それはつまり...」


「任務を遂行出来なかっただけでなく、機密まで奪われ、捕まった挙げ句、自裁すらしない。

 そんな密偵は破棄される...他の密偵達に見せしめとして」


「見せしめ?」


「そうアイツはユート家から激しい拷問を密偵達の前で加えられる事になる。

 そうなったら手遅れ、自分で死ぬ事すら許されない」


「それって...ハリスも」


 やっぱり聞くよね、私はユート家の人間だったから。


「私も立ち会った。やらなければ自分が...嫌な記憶よ」


「そうか...」


 拷問に直接加わってはいない、私の役目はヒール担当だった。

 痛めつけられた密偵にヒールを掛け、また拷問部屋に送る。

 そして死ぬギリギリまで痛めつけられ、また私の元に...


『こ...殺してくれ』

 例外なく、密偵はそう言った。

 あの言葉は4年経った今も耳にこびりついて離れない。


「大丈夫か?」


「大丈夫」


 心配そうなラクスが私を見ていた。

 どうしてかな?

 感情を(おもて)に出さない自信はあるのに。


 そして1ヶ月が過ぎた。

 カリムの首と密偵は後1ヶ月したら、アンゴラ王国に届くだろう。


「アンゴラ王国はどう出るかな?」


「たぶん言いがかりとか言ってくるんじゃない?」


「そうだな」


 アンゴラ王国は何かと近隣国にちょっかいを出す。

 向こうが抗議すると『知らない』や『言いがかりだ』と言って、時間を稼ぎ大軍を向ける。

 祖国ながら、本当に嫌な国だ。


「そろそろ、こちらから出向くとしよう」


「どこに行くんだ?」


 このまま安住するつもりは無い。

 なにより、ラクスは命を狙われているんだ、そして私も。


「仲間の居る国に」


「仲間?」


「そうだよ」


 ラクスには言って無かったが、勇者パーティーが一旦解散した時、仲間に伝えた。


『私は必ずラクスを助ける』と。

 みんな口々に協力を約束してくれた。

 先ずはアレックスとヒューイ、そしてメシアを頼ろう。


「ナバーロ帝国だ、メシア達に」


「ナバーロか...みんな元気かな」


 懐かしそうに左目を細めるラクスだが、ナバーロ帝国まで安全な旅という訳には行かないだろう。


「一応、メシアには手紙は書いた」


「返事は?」


「ああ、いつでも来いと」


「いつの間に...」


 そんなビックリする事かな?

 メシアはナバーロ帝国の第三皇女だ。

 アレックスとヒューイは帝国の兵士だから、協力して貰わないと。

 アンゴラ王国と戦うには、ナバーロとナラムの共闘は必要不可欠なのだ。


「読む?」


「ああ」


 メシアからの手紙をラクスに見せる。

 指の無い手では手紙を捲る事が出来ないので、テーブルに一枚ずつ丁寧に広げた。


「どうしたの?」


 ラクスは悲しそうに手紙を見つめるが、深刻な内容では無いのだけど。


「...読めん」


 ラクスは顔を上げて呟いた。


「ごめんなさい...」


 うっかりしていた。

 手紙に書かれている文字はナバーロ語だ。

 ラクスに読めなくて当たり前じゃないか。


「俺...学が無いから」


「違うよ!手紙を盗まれても大丈夫な様にだから」


 この文字は一般的に使われている物では無い。

 更に、ナバーロ帝国の古代文字、一部の人間しか知らなくて当然だ。


「でもハリスは読めるんだろ?」


「まあ...一応は」


「ほらな」


 読めるのは無理矢理覚えさせられたからだ。

 アンゴラ王国の人間だって、普通の密偵では読めないだろう。


「...訳そうか?」


「頼む」


 話が進まないので、ラクスに書いてある内容を口頭で伝えた。


「...ナバーロ帝国に来いか」


「そうね」


 帝国から正式な誘い。

 そしてナラム王国と共闘の締結を目指す。

 魔王が再び出てくる前に、アンゴラ王国と戦う訳には行かない。

 そうなったら共倒れだ。


「気をつけてな、頼むぞラクス」


「畏まりました」


 一週間後、私とラクスはナラム王国を出る事を陛下に伝えた。

 二人だけで向かう、あくまでナバーロ帝国との下交渉だ。

 目立ってはアンゴラ王国に感付かれてしまう。


「ハリス殿も世話になった」


「いいえ...」


「いや、1人の父として礼を言わせてくれ。

 ありがとう」


「陛下...」


 ナラム王国の国王ではなく、1人の父親としての言葉に胸が熱くなる。

 この国を滅ぼしてはダメだ。

 決意を新たに私はナラム王国を後にした。


 大斧使いのアレックス、豪剣士のヒューイ、魔法剣士のメシア。

 三人の強さは本物。

 帝国の協力が得られなくても、この三人だけは絶対に手離せない、ラクスを護る為には...


 馬車はナバーロに向かう街道を進む。

 ナラム王国を出て一週間、ナバーロ帝国まで残り3日位だ。


「アレックス達元気かな?」


「元気してるって書いてあったから、大丈夫よ」


 馬車の中でラクスの包帯を替えながら答える。

 ラクスの身体は相変わらずの状態。

 なんとか助けてあげたい。

 命に代えても、元の身体に。


「痛い?大丈夫?」


 薬を塗っていたら、ラクスが私を見ていた。


「ハリス、話し方が変わってないか?」


「そう?」


 気づかなかった。


「ああ、ちょっとな」


「ダメ?」


「いや、そっちの方が良い」


「じゃ、これで」


「そうだな」


 呑気な会話も悪くない。

 ずっと張り詰めていたから、ラクスは心配したのかな?


「ん?」


 馭者の言葉と共に馬車が止まった。


「どうした?」


「前方から人が」


「なんだと?」


 馬車の窓から外を見ると、大勢の兵士がこちらに向かって来るのが見えた。

 手にしてるのはナバーロ帝国の旗、わざわざ迎えに来たのか。


「ハリス様とラクス様ですね?」


「そうだ」


「我々はナバーロ帝国の者です」


 どうやらメシアが手配したのだろう。

 だけど、直接会いたかったな。


 「これより我等がナバーロ帝国まで、ご案内致します」


「ありがとう、頼むよ」


 ナラム王国の馬車から乗り換え、迎えの馬車に乗る。

 これで、一安心だ。


「おい」


 ラクスがナラム王国の馭者を呼び止めた。


「俺達の馬車が見えなくなったら、お前の馬車を捨てて、馬だけで逃げろ」


「え?」


 真剣なラクスの言葉に馭者は驚いている。

 私もだ...


「分かったな」


「...畏まりました」


 馭者は小さく頷き、ナラムに向けて消えて行った。


「...ラクス」


「ハリス...」


 ナバーロの馬車でお互い頷く。

 余計な会話は要らない、馬車を取り囲む異様な殺気に私にも気づいた。


(ごめんなさい)


 外の奴等に気づかれないよう、口の動きだけでラクスに告げた。


(いいさ、お前だけでも逃げろ)


(嫌よ)


 なんて事を!


(このままじゃ二人共犬死にだ)


(死ぬ時は一緒だよ)


(...ハリス)


 困った目をしたラクスだけど、これは私のヘマなのだ。

 まさか帝国が私達を消そうと考えていたなんて。


 メシア達が関与しての事か分からない、情報が洩れたのか?

 何にしても、状況は絶望的だ。


 一気に魔法をぶちかましても、外の奴等を皆殺しは難しい。

 その上、ラクスは満足に動けない。

 捕まってしまうのは避けられそうも無い。


「ねえラクス...」


 最後だ、私はラクスの手を握り、自分の気持ちを伝えてから死のうと決めた。


(諦めるのは早い)


 ラクスは首を振りながら私に頷いた。


(剣はあるか?)


(あるけど...?)


(一体何を?)


(俺は敵のを奪うとして...)


 立ち上がったラクスは包帯をほどいて行く。

 剥き出しになる身体。

 痛々しい傷痕が露になり、一糸まとわぬ姿となった。


(ヒールを頼む)


「なぜ?」


 思いもよらぬラクスに、思わず声が出る。

 そんな事をしても、治るのは短時間、直ぐに爛れてしまう、そしてラクスには激痛が襲う。

 でもそれなら...


(猶予は無い、せめて最後は戦士らしく逝きたい)


「分かった、ヒール!!」


「良し!」


 忽ちラクスの身体が元に戻って行く。

 懐かしい...ラクスだ...


「何をして...」

「借りるぞ」


 剣を構えたナバーロの馭者に手刀を加えたラクス。

 剣を奪い、馬車のカーテンを腰に巻き外に飛び出した。


「バカな!」


「死にかけでは無いのか?」


 ラクスを見た兵士達は驚いている。

 そのまま、兵士の身体を切り裂いた。


「ふん!」


「ファイアボール」


 一気に敵陣へ突っ込む。

 策なんか無い、そんな余裕なんか...


「...畜生」


 たった十数分でラクスの手から剣が滑り落ちる。

 彼の指先は既に失われていた。


「...やってくれたな」


 私達の周りには十数人の兵士が倒れている。

 予想以上にナバーロの兵は強かったのだ...


「あと...少しあれば...」


「...喋らないで」


 ラクスの身体から吹き出す体液、酷い激痛に顔を歪ませ、やがて気を失った。


「死ね!」


 残された兵士が一斉に襲い掛かって来る。

 まあいいさ、ラクスと一緒に死ねるなら悪くない。


「神の雷!」


 突然の稲光が目の前に落ちる。

 兵士は言葉を残す暇さえ与えられず、塵と化した。

 間違いない、あの魔法は...


「...メシア」


「遅くなってごめんなさい」


 プラチナブロンドの長い髪。

 彫りの深い顔は相変わらず気品に溢れていた。


「馬鹿者!」


「ギャア!!」


 怒号に振り返ると、斧を持った髯の大男が兵士を真っ二つにするのが見えた。


「アレックス...」


「ハリスの坊や、元気そうじゃな?」


 アレックスは鬼神の顔から優しい笑顔になる。


「坊やはいけませんよ、こんなレディに」


 右手から聞こえる声。

 そこに居たのは...


「...ヒューイ」


 細身の身体から想像出来ない鋭い太刀筋。

 貴族の気品漂う風貌は変わらない。


「遅くなった、何しろ私達は牢屋に押し込まれてたのだ」


「...大丈夫よ」


 ラクスの身体を抱きしめながら、私は三人の仲間に微笑んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんなになってもラクスが強い 元々ヒュドラの毒を自分から浴びにいってそれでも尚戦ってたくらいの人物ですが、覚悟決めるの早いしこんな身体でもメンタルも強いし皆が頼りにしてたのも当然なのかな …
[一言] なぁ……帝国も………滅ぼそうぜ いいだろ………なぁ……
[良い点] 嫌な想像通り帝国は敵だったが 元仲間達は仲間のままだった [気になる点] カリムの家族は 連座で処刑されると知りつつ 最後の晩餐を共に 笑って過ごしたのだろうか 何という気高さ [一言]…
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