表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第1話 絶望の戦士ラクス 後編

 カリムの襲撃から3日、俺は王宮の救護室に運ばれ、国王自ら謝罪と充分な休養を命ぜられた。

 情けない事に熱は下がらず、全身を襲う倦怠感。

 動けない俺に、ずっとハリスは傍を離れなかった。


 特に会話らしい会話は無かった。


『どうしてナラム王国に来たのか?』

『目的はなんなのか?』

『討伐隊のみんなは?』

 聞きたい事は山程あったが、ハリスの目を見ると言葉が出てこない。

 なにより、ハリスの視線が俺の心を乱していた。


「そろそろだ」


 四日目の朝、俺の包帯を取り替えた後、ハリスが呟いた。


「そろそろとは?」


「今回の件だよ、全ての調べが着いた筈だ」


「そうか」


 何の連絡も無かったが、カリムとサラの取り調べは進んでいたのか。

 ハリスの魔法で吹き飛ばされた二人は衛兵に縛られて連行されたが、死ななかったんだ。

 ハリスは加減をしたのか。


「ああ...覚悟してくれ」


「覚悟?」


「そうだ、ラクスには辛い話になる...」


 そう言ったハリスは口を噤んだ。

 その表情は引き締まり、大きな波瀾を予感させた。


「ラクスすまなかった。

 暗殺の証拠を掴むには、実際に襲う現場を押さえるしか無かったのだ」


 ハリスの予想通り俺は陛下から呼び出しを受けた。

 呼ばれた部屋に入るなり、陛下は頭を下げた。


「そんな、陛下お止め下さい」


 陛下が下位貴族に頭を下げる等ありえない。

 恐縮どころでは無かった。


「連れて参れ」


 陛下の言葉に扉が開き、衛士達が1人の男を引き摺って来た。


「離せ!」


 後ろ手に縛られた男。

 顔は腫れ上がり、服はボロボロに破れている。

 変わり果てたカリムの姿だった。


「さてカリム、貴様はどうして捕まったか分かってるな?」


「陛下!これは何かの間違いです!」


 反抗的な態度でカリムが叫んだ。


「お前はまだシラをきるのか」


「だから誤解なのです!」


 何が誤解なんだ、俺を殺そうとした事か?


「もう機密の件は調べは着いておる...よくも、我が娘にまで」


 機密?我が娘?

 そういえばサラの姿が見えない、まさか死んだのか?


「アンゴラにナラム王国の機密も持ち出していた。あとラクスの暗殺もな」


「へえ...」


 ハリスが俺の耳のあった穴に囁いた。


「知りません!」


「そうか...では」


 陛下が頷くと、再び衛士達が現れる。

 また1人の男が引き摺られて来た。

 猿轡を噛まされている、今度は見覚えの無い奴だ。

 整った顔立ち、立派な体格、漂う雰囲気は只者じゃ無い。


「...お前は!」


 男を見たカリムは絶句する。

 奴は誰なんだ?


「アイツは?」


「アンゴラの密偵だ」


「密偵?」


 アンゴラ王国の密偵か。

 カリムと連絡を取り合っていたのか、よく捕まえられたな。


「私が捕まえた」


「ハリスが?」


 それは凄い。

 アンゴラの密偵といえば、世界中に潜んでいる。

 奴らは警戒心が強く、身体能力にも優れ、人を殺す事も躊躇しないのに。


「この者が持っていた文に、我が国の機密が詳しく書かれていた。

貴様の字でな、どう説明する?」


「あああ...」


 密偵から証拠まで掴んだのか。

 ハリス、お前は何者なんだ...


「カリム、貴様の企みは全て調べが着いた。

 最早、言い訳は出来ぬと知れ。

 アンゴラの者と謀り、我が国を滅ぼそう等と」


「ああ...」


「...まさか」


 そんな事を企んでいたのか。

 何も言わないカリム、どうやら認めるしか無いみたいだな。


「即刻カリムの首を()ねよ。

 その首は密偵と共にアンゴラ王国に送り届けよ。

カリムの家族も同様の処分とする」


 カリムの家族か...『知らなかった』それで済まないのは分かるが。


「そんな!家族だけは!!」


「国家に対する反逆の連座は一族郎党と決まっておる。知らぬ訳ではなかろう」


「それだけは!!まだ下の子は三歳なのに!!」


「それならば、なぜその様な事をしたのだ!!」


「それは...」


 涙を流すカリムだが、陛下の言う通りだ。

 反逆者の家族とはそんな物。

 陛下の言葉に強い決意が滲んでいた。


「陛下...サラは?」


 やはり気になってしまう。

 サラは王族に連なる人間だ。

 加担していたなら処刑は免れまい。

 縛り首か...火炙り...反逆の罪はそれだけ重い。


「サラか...あやつは薬漬けにされておった」


「薬ですか?」


 どうしてだ?

 一体なんの為にサラを薬を?


「あやつ等の書いていたアンゴラへの文に書かれてあった...半年前...最初は無理矢理と」


「...そうでしたか」


 半年前か、俺がナラム王国に帰って来た頃だ。


「ラクス、サラは王宮の一室で、お前の無事をずっと祈っておった。

 それだけは信じてくれ」


「陛下...」


 辛そうな陛下に言葉が出ない。

 それならサラはどうして俺の所に来なかったんだ?


「サラはお前の怪我を聞いて、国中の名医を頼んだ...とても見る事は出来ないと。

 治らぬと聞いたサラは...その頃だ、ヒュドラの呪いを消すにはアンゴラの秘術が有効と。

 カリムめ...その為には金が必要と...私に相談も無く...愚かな娘だ」


「...そうでしたか」


 ヒュドラの呪いを消す秘術なんか聞いた事が無い。

 サラはどうしてそんな馬鹿な話を?


「...私だって本当なら金を積むさ」


 小さな声で呟やくハリスの目に怒りが滲んでいた。


「気づいた時は手遅れであった...最早サラは...」


「今サラは?」


「錯乱しておる、薬の禁断症状じゃ...覚めぬ方が幸せかもしれぬ」


「そうなのですか」


 そういう事か、ここには居ないのは納得だ。


「こいつらに身体を、これ以上は...すまぬ」


「こちらこそ、申し訳ありません」


 サラは薬で身体まで穢されてしまったのか。

 それは地獄だ、俺なら堪えられない。

 戻らない方が幸せと言った陛下の言葉が分かった。


「サラの処分は追って下す、以上だ」


「分かりました」


 どんな処分が下されるんだろう?

 陛下の心中を思うと、それ以上は言えなかった。


「陛下!何卒お慈悲を!!」


 身体を捩りながら、カリムは引き摺られて行く。

 失禁したのか床に水溜まりが出来ていた。


「畜生!アンゴラに逆らって、ただで済むと思うな!!」


 捕らえられて居た密偵が猿轡を噛みきり、大声で叫んだ。


「見苦しいな、密偵ならば、そのまま舌を噛むのが務めだろ」


 密偵に侮蔑の視線を向けながらハリスが呟いた。


「ハリス!この裏切り者!!お前はユート家の人間だろうが!!

 同じ密偵では無かったのか!!」


 今なんて言ったんだ?


「もう縁は切った」


「ふざけるな!!」


「ハリス、お前は一体?」


 ハリスが密偵?

 それにユート家といえばアンゴラ王国の名門貴族だ。

 王国内はもとより、世界中で謀略と暗殺を生業としている。

 その名は俺でさえ知っていた。


「私はラクスの味方...それだけは信じて。

 ちゃんと説明するから」


「ああ...信じるよ」


 ハリスは嘘を言って無い。

 震える小さな手を、そっと手の平で握る。

 僅かに光るハリスの涙にそう思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] なんだか敵も味方もみんなが裏で動いてそうな予感 あとハリスさん、顔晒してたら勇者に狙われるんじゃ [一言] サラがラクスを気に入っていたという描写はなんだったのか、と思っていたらこんな…
[気になる点] ハリスの過去 暗殺者から賢者にジョブチェンジ? 女性の身で? もうハリスが勇者でいいのでは [一言] 更新ありがとうございます エリクソンとカリムとで 万国びっくりクズ合戦ができます…
[気になる点] ハリスの旋風〜♪ ……すいませんなんでもないです許してください [一言] サラさん ラクス大好きな気持ちに付け込まれて結果ヤクに漬け込まれちゃったという なんとも可哀想な事に…… し…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ