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目覚めた場所は

「ふぁ~……ん?」


朝の光が差し込み起き上がると、腕の中でモゾモゾする何かを見つけた。サイズ感からしてキールかと思い、そのまま二度寝しようと抱きしめて瞼を閉じた瞬間、ゴンっと痛々しい音と共に顎に衝撃が走る


「いっててて……」

「キッ、貴様…!このわしをおいて勝手に寝るとは何事か!」

「……What?」


キールよりも少し押さないように聞こえる声を耳にし、私はそっと腕の中にいるものを見た。片方の腕と布団を退けると、そこには銀色の髪でおかっぱ頭の幼いエルフが居る。謎が謎を呼ぶんだが、これはどういうことだろう。キールは?ラルクやオウガは。処理しきれない情報の数々に私は目が回るような感覚を覚える


「……」

「あっ、貴様待て!」


状況の整理しようと、起き上がってベッドから離れようとする私に対し、逃がすまいとギュッと抱き着いて来たエルフの子供。奮闘する小さい生物にどうしたもんかと困り果て、仕方なくぽふっとベッドに座ってみた。すると子供は誇らしげに私の膝に座、足をパタパタさせてふふんとドヤ顔になる

どうしてそんなドヤ顔なんだ?と思ったりもしたが、私のことを聞いてくれる子か分からない為少し下手に出ておくことにする


「貴様、これよりわしの家来だぞ!何をほおけておる!」


外の景色に意識を向けていると、先程までドヤ顔だった少年が少し怒った様子で私を見上げていた。表情がコロコロ変わって子供らしく、愛らしいと思った私はなるべく悲しませないように優しい口調で言葉を返した


「困ったな。私は家族の元に帰らないといけないんだが……」

「知らぬ。我が召喚で眠ったまま応じる馬鹿な貴様が悪いのじゃ」

「えぇ……」


その時の自分に対し、なんてことをしているんだガルマンと少し頭が痛い。こうなっては仕方ないことなのだろうかと思いながらも、呼び出した張本人である子供は可愛いので可愛さに従い撫でてみた。「このわしをそのように撫でるなど!」と言ってはいるが、顔が嬉しそうなので話を聞きながら続けよう


「召喚したって事は、他の子は?」

「知らぬ。わしの魔法陣から出てきそうになったやつは貴様以外突っぱねてやったわ!」

「そんなドヤ顔で」


その時突っぱねなかったらここに居たのか、と子供の考えることが今の私には分からないとため息が出かけた。召喚魔法はまだ私もちゃんと覚えていないからどうこう言える立場ではないが、やっぱり突っぱねられたから傍に居ないんだと思うと少し悲しい


「ここはどこだ?」

「ここはエルフの国、ヴィンデス王国である!」

「……イシュタントからどれくらい離れてるんだ?」

「イシュタント?大陸を2つ挟んで……うーん……」

「いや、遠いのはわかった。ありがとう」


大陸二つは絶対に遠いと考えていると、子供はニッカリと笑って「我が従者となるのだぞ!光栄に思うが良い!」と言ってきた。その笑顔は可愛らしいが、私の言いたいことや望みとはかけ離れている


「よっこいしょ……」

「んふふ~……!?コラー!これを外さぬかー!」


ポーカーフェイスで子供をどこかに連れて行くと見せかけ、ポイッと椅子に置いて影縫いで固定。それに気づいた子供はじたばたと動くも腕しか動かないのを見て顔を青ざめさせる


「やっ、やだ~!どっか行かないで~!え~ん!」

「ごめんな、私は自分の子達を置いてきてしまってるんだ」

「やだ~!貴様はわしのなの~!え~んっ!」


ぴーぴー泣き喚く子供に後ろ髪を引かれる思いで窓から羽根を広げて脱出。伝達魔法系を覚えて、今すぐにでも彼らの安否が知りたい。私はざわめく気持ちを押し殺して街中へと向かった


《図書館》


「……ほぅ……」


本を買いに行ったはいいが、金がない事に気付いたので急遽図書館に来た。図書館には沢山の書物があり、伝達魔法について書かれているものもある。多少難しいものではあるが、私は何がなんでも習得して連絡しないといけない

そう考えていると、やっぱりあの時いつも携帯していたスマホは便利だったんだとつくづく思わされる。この世界でもそんな便利なものがあればいいのにと思うが、それはこの世界での魔法全てに失礼かと思い直し私は本を何度も読んだ


「居たぞ!ルイ様の召喚魔だ!」

「なんで召喚主の言うことを聞かないんだこいつ!」

「うわ、なんかきた」


暫く本を読んでいると、鎧と言うには軽く、軽装と言うには重い微妙な武装をしている兵士に見つかった。内容はなんとかわかってるのであとは実践するのみなのに、邪魔してくる。きっと先程の会話からして少年が差し向けたのだろう


「私はあの子供の召喚魔となった覚えはない!今回のものはミスだ!もっかい召喚しろ!」

「コラー!まてー!」

「待つか!」


兵士の言葉を無視し、私は羽根を広げてバサバサと空へと飛び立つ。本のことはしっかり元あったところと線結びをしていたので、今頃は元あった場所に戻っているだろう

飛んでいる中、ここまで逃げたらいいだろうと森に面する場所で腰を下ろした。何度か兵士に見つかったため長時間の飛行となったが、案外疲れは見えない。良かったと安堵したのも束の間、つんつんと何かに足をつつかれた


「なんだ……あっ」

「わしの所に戻ってくるとは、やはりわしが良いのじゃな!」

「お邪魔しました~」

「ダメ!」


羽を休めに降りた場所は城と繋がっており、どうやらこの少年の憩いの場だったらしい。見事に捕まってそのまま兵士に連行されて部屋に連れ戻された。応じる気なんてなかったって言っても言うこと聞いてくれないので困った困った


「なんで私がいいんだ?また召喚すればいいのに」


そうしてくれた方が私も助かると付け足すと、少年は少し目を逸らして唇を尖らせる。これは拗ねているか、何か渋々話をする時の子供の仕草だ


「……貴様はわしが漸く召喚できた、最初の召喚魔だから…離したくない」

「そうは言っても、私にだって家族がいる。その子達を置いてきてしまっている以上、君の召喚魔としてここに滞在する訳には行かないんだが」

「……やだもん。わしが、わしがやっと召喚できた、わしだけの……」


なんとか説得しようと思ったが、それは逆効果でうるうると瞳に溜まる水は、雫となって少年の頬を伝う。どう足掻いても、少年のそばにいないとダメなようだ


「わかった、分かったよ。連絡くらいはさせてくれるよな?」

「!うん!」


妥協した内容を彼に話すと、少年は先ほどまでの涙が嘘のように可愛らしい笑みを浮かべた。あの様子からして嘘だとは思えないが、感情の起伏が激しいタイプのようだ。その感じも幼い子供、と言った印象を受けて深くにも和んでしまう。甘いぞガルマン、怒れ


「……何を見てるのだ?」


やることが無いため一冊だけ借りてきていた魔導書に目を通していると、少年がなんの前触れもなく話しかけてきた。私の手元を見ずすぐに私の方を見て声をかけてきたから、本の中身というより私に話しかけてきてくれたのだろうか


「伝達魔法についての魔導書だ。読めるか?」

「よ、読めるぞ!わしを愚弄しておるのか!」


少しおちょくってみたのだが、子供だからやっぱりそれに乗っかってしまう。そんな所もやっぱり可愛いなぁなんて思って、私はもう少し彼がどんな子なのか理解するためおちょくってみた


「子供なのによく難しい言葉を言えるなー、よしよし」

「フッ、ふざけるな!わしは今年で12歳じゃぞ!」

「あぁ、可愛い可愛い」

「可愛い言うな!!」


おちょくりは大成功し、途中本音がポロッとでたが怒られたので仕方なく頭に乗せていた手を退ける。すると、少年はそれを見て少し寂しげにこちら見上げてきた


「な、なぜ手を……」

「?可愛がるの駄目なんだろ?」

「か、可愛がるのは良い!可愛いというのは駄目じゃ!ほ、ほれ!頭を撫でろ!」

「難しいなぁ」


どう言った違いがあるんだろうと思いつつも、よしよしと撫でると私の足の上に乗って破顔して喜ぶ少年。とてつもなく可愛いと思える訳だが、やはり少し思うところがある


「それ、実践せぬのか?」

「そうだな、今からしてみる。ちょっと静かにできるか?」

「わしじゃぞ?出来るもん」


不意に声をかけてきた少年の言葉に同意し、私は彼に子供相手特有の言葉をかけてみた。すると、ドヤ顔で口に手を添えて早く早くと急かす動きをする少年。ちょっと可愛いなぁって思いながら本を開き、本の通りに相手を思い浮かべ、呪文を唱えた


「大いなる風の精霊よ、我が望みし者の元へ言の葉を運びたまえ。魔力を代償に応えを求むる……『コンタート』」


そう唱えると目の前に淡い光が現れ、その光から精霊が姿を現す。私と同じ緑の髪と、メッシュであろう赤い括られた髪に青色の羽のような耳。全体的に緑で白い部分が見えない瞳に、簡素な白を基調とした服。頭には小さな花が散りばめられていて、その姿は私の手のひら程だ。明らかに人間ではない彼女はスっと私の目の前に近づき、私の額にコツンと人差し指を押し当てると目の前に映像が流れてきた


『どど、どうしようおじさん!僕ガルマン様のところに戻らなきゃならないんだよ!』

『ガキの事なんざ俺に言われてもなぁ……』


映像に映るのは、慌てふためくキールと執事服のようなものを身につけながら、口調が崩れている初老1歩手前と言ったような男の姿。キールも男もこちらには気づいておらず、二人で話し込んでいた


『何とかしてよー!えーんっ!』

『てめぇもう十六になんだろうが!泣くな!』

『だっで~っ』


ぴーぴーと泣くキールに対し、男は年上に対して言葉もなっていないとデコピンをかます。それが痛かったのかまた泣き出すキールに、私は耐えきれず声をかけてみた


「……キール、ちょっといいか」

『どひゃぁぁっ!』


ガラガラガッシャーンッ


仮面をつけた男に泣きつくキールに話しかけると、こちらを見た瞬間飛び跳ねて近くにあったテーブルと激突した。仮面の男は居住まいをただしごほんと咳払いをする


「伝達魔法で連絡している。なんか変な召喚儀式に応じてしまったみたいで……暫く合流できないと思うんだ」

『そ、そうなの?僕もね、オウガやラルクと離れちゃって……気がついたらここに居たんだ』

「?それはどういうことだ?お前は召喚されるような種族じゃないだろ」

『なんだかよく分からないんだ……頼りになる人がこの人しかいないんだけど、僕どうしたらいい?』


キールが連絡する為に出来た画面に仮面の男を連れてくる。恭しく一礼をしてキールをしっかり画面に映るように移動させた。どうやらどこかの館のようにも見えるが、よく分からない。執事だろうか。先程の口調の崩れ方とは比べ程にもならないほど礼儀正しく、その洗練された動作は見事である


『ソリエ・ルイ=オーギュスト様。ご機嫌麗しゅうございます』

「む?貴様とあったことはないぞ。誰じゃ」

『今は冴えない隠居生活を送っている男でございます。貴方様に会ったのもこれが初』

「……?どういうことじゃ」


よく理解出来ていない様なので、これがこうでこういう……という話をしてみるも首を傾げられる。愚弄とか言えるから少しの言葉はわかってくれるだろうと思っていたが、学びたてだったんだと思うことにして私は少しわかりやすい言葉に変えてもう一度説明してみた


「お前はここの城の坊ちゃんなんだろ?色々情報とか流れてるんじゃないか」

「まぁな!わしは民とよく遊んでやるから仕方ない事よ!」


遊んでもらってるの間違いじゃないか?とか考えつつこっちを心配そうに見てくるキールに微笑みかけた。キールとは連絡できた。あとは残り二人の生存確認だ


「何が起きたかこっちでも調べておくが、申し訳ない。良ければうちの子を預かって欲しい」

『畏まりました。暫くの間こちらで育てさせて頂きます』

『そ、育てる?何を?』

『吸血鬼にしては礼儀がなっていない様なので』

『!?!?』

「宜しく頼む……直ぐに迎えに行ける訳でもないし、出来るなら色々教えてやって欲しいしな。育ち盛りだもんな」

『では、これにて。何かございますればまたご連絡を』


あわあわと混乱するキールを後ろに下がらせて仮面の男が一言二言何か言ったあと、連絡が途切れた。精霊はグッと背伸びをした後次は?と言った感じで首を傾げてくる。どうやらずっと待っていてくれたようだ。優しい子である


「さぁ、貴様の子とやらをもう一度写すが良いぞ!」

「ほんと可愛げがあるのかないのかわからん王子様だな……」


先程の会話が少し楽しかったのか、早く次次と急かしてくる少年にため息がでた。私は気を取り直して砂嵐状態の画面のような場所にもう一度魔力を注ぎ、次はオウガのことを思い浮かべる。頼むから、繋がってくれ。安全確認だけでもさせて欲しいのだ

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