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エンディングフェイズ

 “シューラヴァラ”矢神秀人との死闘を繰り広げた翌日のUGN・N市支部。喫茶店の地下にあるナツキの部屋で、ナツキはパソコンのモニターに向かい合っていた。

 上司である、日本支部長・霧谷雄吾に事の顛末を報告するためだ。

今回の事件は、かなり大きなものだった。

 FHエージェント二名が関わるバス横転事故。新たなオーヴァード、八部江の誕生。そして拉致された綾瀬の奪還。

 これら一連の事件は、ここ最近は目立った事件もなく落ち着いていたこのN市を大きく騒がせることとなった。


「ナツキさん。お疲れさまでした」

「うん」


 それらの対応に追われたナツキは曖昧に頷く。霧谷もその苦労が分かるのか、苦笑い気味だ。勿論こうして二人がこんな表情をしていられるのも、ナツキをはじめN市支部の人員が必死に戦ったおかげである。

 画面の向こうにいる霧谷が、表情を引き締めて言う。


「FHの計画は阻止されました。綾瀬真花は、適格者ではありませんでした。どうやら、八部江君の周囲にいたときのレネゲイドの反応を誤認した可能性が高いようです」


 霧谷によると、八部江はレネゲイドに適格しオーヴァードとなったが、綾瀬については詳しい調査の結果オーヴァードになることはないだろうと判断されたそうだ。

 おそらく今回の事件でFH側もそれは理解しただろう。しばらくは念のため綾瀬の周囲に気を配る必要があるが、彼女が再びFHに狙われることはないだろう。

 ……それは、“シューラヴァラ”矢神秀人を除いて、だが。


「矢神秀人が彼女に固執したのは、彼にとって大切な人だったからでしょうね。しかし、ジャーム化によって正常な関係を構築できなくなってしまった。……日常を失うとは、そういうことです。ナツキ支部長、あなたもジャームにはならないよう、くれぐれも気をつけてください」

「了解です」


 霧谷の言葉に、神妙な顔でナツキは頷いた。

 ナツキに限らずオーヴァード達は、いつ自分がジャームになるか分からない恐怖と戦っている。

 その恐怖に飲み込まれないためにも心を強く持ち、常に自制を心がけ、そして自分が守るべき大切な人達のことを忘れてはいけない。レネゲイドが囁く欲望に負ければ、自分の力が仲間や大切な人に牙をむくかもしれないのだから。


「では、このたびはご苦労様でした」


 そうして霧谷とナツキの通信が終了した。




 八部江とジバシの二人は、いつも通り高校へと登校していた。

 昨日シューラヴァラとの戦闘があったばかりだが、それでも二人の『日常』が変わることはない。二人ともシューラヴァラから受けた傷も治療して、学校生活に戻ることに支障はなかった。

 UGNの病院から二人、連れだって教室へ向かう。互いの微妙な苦手意識が解消されたわけではないが、それでも死闘を乗り越えた仲間として多少は認め合う程度にはなっていた。

 もちろん二人とも、相手に向かってそんなセリフを言うことはないだろうが。

 朝の学校は、呆れるほどに昨日と変わらなかった。忙しなく生徒が入り乱れる下駄箱の様子も、教室から漏れ聞こえる楽しそうな喧噪も、何も変わらない。

 だがジバシは勿論、八部江もまた、この退屈にすら感じられる変わらない日常の尊さを身をもって体感した。

 ガラリと教室のドアを開け、二人は教室の中に入る。すると、そんな二人に気がついた女子生徒が声をかけてきた。


「おはよう、八部江君。それからジバシ君も、もうこの学校には慣れた?」


 勿論、その女子生徒とは綾瀬真花である。彼女もまた昨日、UGNの病院で処置を施され、日常へと戻っていた。

 声をかけられた八部江とジバシは小さく手をあげて挨拶に応える。


「おはよう、真花ちゃん。今日も元気だね。……間違えた、今日も可愛いね」


 八部江の挨拶に交えたストレートな褒め言葉に、綾瀬の顔が真っ赤に染まった。


「そ、そんなっ、可愛いなんて……」


 わたわたと慌てて、顔の前で手を振って照れる様子はとても愛らしい。八部江も思わず笑顔になる。

 綾瀬は誤魔化すように小さく咳払いをした。それで調子を取り戻したのか、そのまま八部江に笑顔で話しかける。


「そうだ、昨日は八部江君のおかげで助かったよ」

「ごめんね、怖い思いさせちゃって。でも、あいつが悪いんだよ」

「えっ? おっと……?」


 八部江の後ろで声のトーンを落としたジバシ。それで八部江も自分の失態に気がつく。

 ――綾瀬真花には記憶処理が施されており、昨日の事件のことは何も覚えていない。


「えっ? 何の話? ほら、宿題見せてもらったよね……?」


 綾瀬が八部江の言葉に困惑の表情を浮かべる。八部江は慌てたように弁明した。


「あっ、ああ、うん! そうだね! 勘違いしてた!」


 あはは、と笑ってはいるが内心冷や汗ダラダラである。綾瀬はきょとんと不思議そうに首を傾げている。


「そういえば、聞いた? 矢神君、転校しちゃったんだって。残念だよね、急に転校なんて……」


 綾瀬がちらりと視線を送ったのは、昨日まで矢神秀人が座っていた席だ。

 FHエージェント矢神秀人はあの後、行方をくらましている。

 八部江は未だ、昨日の“シューラヴァラ”の凶悪な表情が頭から離れていない。


「そうなんだ」


 八部江は小さく、そう返すことしかできなかった。


「やったぁ!」


 ジバシはこれで監視任務や護衛任務がなくなり仕事が減るので、小声で喜んでいたが。

 三人の頭の上で、始業を知らせるチャイムが鳴った。

 綾瀬は二人に手を振り、自分の席へ戻っていく。何事もなかったかのように、今日という一日が始まる。

 これからもこの日常は続いていくのだろう。それが例え、脆く崩れそうなものであったとしても。

 八部江はこの日常を守るためにも、自らが目覚めた力と向き合っていくことを決めた。



「……おい、八部江。お前後で屋上な? 秘密だって言っただろ?」


 ――その前に、先輩からのお説教のようだが。


これにて、ノベルパート終了となります。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。


https://ncode.syosetu.com/n3019eq/

続編、DX3rdリプレイ「Fiction breakers」です。良かったらどうぞ

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