ミドルフェイズ2
2日後、もともと怪我のなかった八部江はUGNの息のかかった病院で念のために精密な検査を受けたあと、無事に退院が出来た。
そしてその翌日からすぐに学校へ登校することとなる。
普段から朝のホームルームぎりぎりに教室に駆け込む八部江は、その日もホームルームぎりぎりの時間帯に教室内へ駆け込んだ。
後ろのドアから教室内に入り、窓際の列の後ろから二番目に座る。ここが彼の座席だ。
近くの席の友人と朝の挨拶を交わすと、すぐに担任の教師が入ってきた。
だが、ガラッと開いたドアから入ってきたのは彼女だけではなかった。担任教師の後ろに続いて教室に入ってきたのは制服姿の男子生徒。
その生徒は八部江にとっては非常に見覚えのある顔、ジバシだった。
転校生の噂などなかったせいで、教室がにわかに騒がしくなる。
八部江も驚いて声こそ上げなかったが、思わずしかめっ面になった。彼にはあまり良い印象は持っていないのだ。
それはジバシも同じだったようで、八部江と目があった瞬間に彼もわずかに顔をしかめた。
先生は教卓の前に立ち、ざわつく生徒たちを静かにさせる。
「今日は、転校生を紹介するわよ」
「……ジバシです」
先生に自己紹介を促されたジバシが小さく名乗る。突き放すようにぶっきらぼうな名乗りかたに、先生も思わず苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、ジバシ君は空いている席に座って」
そういって指し示したのは、なんと八部江の一つ後ろの席だった。この教室に空いている席はそこしかないのだから仕方がないことなのだが。八部江は天を仰ぎ、窓際後ろの席で喜んでいた半月前の自分をひどく呪った。
ジバシが八部江の後ろの席に座るために八部江の隣を通ろうとしたとき、なんとジバシは八部江の椅子を小さく蹴った。
周りには気付かれないような蹴り方だったが、八部江の心労が増したことは言うまでも無い。
ホームルームが終わると、大勢のクラスメイトがジバシの元へと集まってきた。突然クラスにやってきた転校生に大勢から質問が矢継ぎ早に繰り出される。ジバシはそういったことに慣れているのか、適度にあしらいながら質問を捌いていた。
そんな集団に少し遅れるように綾瀬真花もやってきた。
だが彼女が用があるのは転校生のジバシではなく、その一つ前の席に座っている八部江のようだ。
八部江には、こちらへやってくる綾瀬の顔がどこか浮かないものに見えた。
「ねぇ八部江くん」
「おはよー」
「うん、おはよう八部江くん」
笑う彼女だが、やはり元気がないようだ。
「あ、そうだ八部江くん。もう怪我は大丈夫なの?」
「あ、うん。全然大丈夫だったよ」
「そっか、よかった。入院したって聞いたからちょっと不安になって」
「すぐ治った、すぐ治った。まあ大丈夫だったよ。そっちこそ大丈夫?」
「うん、私は大丈夫。――だけど」
綾瀬の表情にいっそうの陰が差す。
「この間の事故のことなんだけど――」
だが彼女は少し言葉に迷った後、
「――ごめん、やっぱり何でもない」
そういって八部江から離れていってしまった。
何か言いたげだった彼女に不安を覚え、話の続きを聞くために八部江は立ち上がろうとした。そのときだった。
「八部江くん。綾瀬さんは事故に遭って怖がっているんだ。君はあまり話しかけるべきじゃないと思うよ」
冷たい口調で声をかけてきたのは、同じくクラスメイトの矢神秀人だった。
矢神が八部江に声をかけたことによって、ジバシも二人の様子に意識を向ける。保護対象と捜査対象が接触しているのだ。万が一のために備えていつでも動けるよう身構える。
そのせいで、何故かジバシが矢神を睨みつけるようになっていたが……。
その視線に気付いた矢神はジバシへ体を向け、まるで値踏みするような、見下すような目線を送る。
「何だいさっきからこっちを見て。君、転校生だよね。僕と八部江くんが話しているのが、そんなに気になるのかい? さっきからずっとこっちを見ているよね」
「……矢神くんには、用はないんだよ」
「だったら、僕にはあまり近づかないでくれるかな。僕も、平穏無事な学校生活を送りたいからね」
嫌味に満ちた笑みを残して、矢神は立ち去った。
そのあまりに腹の立つ態度に思わず。
「……後でシメるか」
もちろん本当にそんなことをすれば、ジバシは上司のナツキから怒られるのだが。




