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三章 その五

 その日の部活は、葬式のような雰囲気だった。

 部長がいなくなって、三人だけの部室。神達、海法、そして俺は、みんな無言で、ただひたすら編集作業に没頭していた。

 俺を含め、部長の件を、誰一人として話題にしようとはしない。

 見知らぬ他人の噂話ならばまだ気が楽だったが、近しい人にああいったことが起きると、流石に話題には気を使ってしまう。結果、部長の話は暗黙の了解でタブー扱いになっていた。

 神達は元々無駄口をきくタイプの人間ではないが、海法は部活の大半を雑談で過ごすような奴だ。それがこんな風に口を閉ざしていたのでは、こちらとしても気が重くて仕方ない。正直に言って、不気味ですらあった。

 だからといって、こちらから海法に話を振ってやることはない。遅れ気味だった新聞作りを進めなければという気持ちもあったし、なにより、俺自身がそんな気分ではなかった。俺だって、先輩のことはショックなのだ。

 一方、神達はいつもと変わらない無表情でキーボードを軽やかに叩いていた。気丈に振舞っているのかと思ったが、どうも違うようだ。どうやらコイツは、まったくもって平常運転、部長のことは気にしてすらいないようだった。

 海法のように露骨に落ち込まれても困るが、神達のように全く変化がないのも嫌だ。矛盾していると自分でも思うが、それが俺の本心だった。身近な人間が自殺未遂をしたというのに平然とされると、なんだか、怖い。

 気まずいまま、時間は刻々と過ぎていく。外が暗くなってくると、誰ともなしに「じゃあ、帰ろうか」と言い出して、俺たちは互いに目を合わさず、そそくさと帰り支度を始めた。

 忘れ物がないか確認をして、重い足取りで部室から出る。

 そして神達が施錠をしようと鍵を取り出したところで「おい、海法! あ、三田村と神達も!」と、怒鳴り声がだだっ広い廊下にうるさく響いた。辺りを見渡すと、見覚えのない男子生徒が必死の形相で、こちらへと駆け寄ってきていた。

「誰?」と、俺。

「あー、あれうちのクラスの奴だわ。村野っていうの」海法が答えた。

「何で俺と神達の名前、知っているんだよ」

「前に一度、部室に来たじゃねえか。バスケ部を取材したときに」

 そうだったろうか。そう言われるとそんな気もする。生憎、人の顔を覚えるのは苦手だった。

 村野は俺達の前で立ち止まった。全速力で走ってきたんだろう。息も絶え絶えといった様子で、肩を激しく上下させていた。

「んだよ、どうしたんだよ?」

 海法はかったるそうに村野へと尋ねた。帰りがけに呼び止められて面倒くさく感じているのだろう。本当に、良くも悪くも分かりやすい奴だった。

 嫌そうな顔をされたにもかかわらず、村野は気にしていないようだった。というより、気にする余裕がないといった感じか。顔は憔悴しきっていて、体は小さく震えている。一見して、余裕がないと分かった。

「何かあった?」

 その様子にただならぬものを感じたのか、神達は一歩前に出て、村野を問いただした。

 しかし村野は歯をカチカチと鳴らしながら「教室、教室……」と虚ろに呟くばかりだった。完全に、気が動転している。

「落ち着いて。教室が、どうしたの?」

 村野をなだめるように、神達は冷静に言って、彼の肩を撫でた。

 尋常でない村野の様子に、俺は湧き上がってくる嫌な予感を抑えられなかった。

 そう、まるで既視感。

 だって昨日、海法が部室に来た時も、こんなふうに半端じゃなく焦っていて――

 俺が最後まで考えるより一瞬だけ早く、村野は喚くように言った。

「教室で、人が、死んでいる!」


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