三章 その六
教室前は、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
泣いている女子がいる。興奮して叫んでいる男子もいる。携帯電話で写真を撮ろうとする不謹慎な奴も、気持ちが悪くなって嘔吐する奴も。
そんな生徒たちの人だかりを遠ざけようと、五人ほどの教師が体を張って教室を塞いでいた。岸川先生も、普段の穏やかさからは信じられないくらい声を張り上げて「みんな、戻りなさい! 解散、解散!」と怒鳴っていた。きっと放課後じゃなかったら、もっと沢山の野次馬が集まっていたに違いない。
ほんの少しだけ開いている教室のドアの向こうに見えたのは、首吊り死体だった。
警察が来るまでは手を出さないつもりなのか、死体は天井から吊るされたままだ。
その表情は、正しく断末魔。
煮固めた絶望を目の当たりにしたように目を剥いて、その瞳からは流涙の跡が見てとれた。きっと体中の穴という穴から、あらゆる汁が漏れ出しているのだろう。つま先から滴っている液体は、果たしてどこの体液なのか。
ドアの隙間は、ほんの十センチ程度しかなかった。だけど、それで十分だった。
十センチしかドアが開いていなくても、どれだけ距離が離れていても、リアルな死体の衝撃は、決して薄まることなく、ダイレクトに俺の心を貫いた。
隣で海法が何かまくし立てている。後ろから神達が俺の腕を引っ張っている。だけど俺の体は動かない。心も凍りついたように、動かない。
まるではりつけにされた様に、もしくは魅入られたように。
俺はその場から、一歩たりとも動くことが出来ないでいた。




