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スタジアムでオリンピック

 2016年、東京。4年後に東京オリンピック開会式が開催されるスタジアムの前に、宗一郎は佇んでいる。煙草を一度気取って吹かせようとするが、彼は煙草を吸えないらしい。吸い込んだ煙をゴホゴホと吐き出してむせている。この男、宗一郎は酒も煙草もやらないようだ。

 私達の視線にはたと気づいた宗一郎は、こう語り掛けてくる。

「如何でしたか? 幽霊と少女の淡く切ない恋物語。これも一つの『愛のカタチ』ではないでしょうか。大切な想い。伝えられずに離れ離れになるのはよくあることです」

 そして感慨に耽るように白く透き通った雲が流れる青空を仰ぎ見る。

「快人君は、閻魔様のご厚意もあり、伝えられなかった想いを伝えられましたが、さて……」

 そう言って宗一郎はスタジアムを見つめる。

「あなた方の関心の一つに2020年、東京オリンピックが成功するかどうかというのが一つございましょう」

 宗一郎は手を挙げて私達の意見を遮る。

「いえ、結果をお伝えするなんて無粋なマネは致しません。次に語られる『愛の物語』は東京オリンピックが無事終わった時代の物語」

 そして宗一郎は眉間に指先をあてる。

「東京オリンピック、カジノ構想が実現した時代とあっては世の中も多少乱れている、いや煩雑となっている模様です」

 煩雑。2014年を生きる私達にとってはやや想像がつかないが、東京オリンピック後の東京は少し荒れているらしい。いや、次の物語は、荒れた生活を送る一部の人々にスポットライトをあてているのか。そう私達が考えていると宗一郎は優しく私達に話し掛けてくる。

「今しがた、あなた方の危惧はしっかりと伝わりました。大丈夫です。私が今度お見せする物語の人々は、悲しくもそのような境遇にあるのです。彼らは苦しみ、もがきながらもやがて抜け道を見つけます。それはまるで一人の女性にエスコートされたようでもあるのです」

 そう言うと宗一郎はコホンッと一つ咳払いをする。

「さてさて、物語の語り部『オズマ』が私を急かしているようなので、参りますか。いざ! 2021年の東京へ!」

 その言葉を残してタイムマシーンに跨った宗一郎は2016年、東京をあとにする。彼の消えたスタジアム前にはキラキラと煌めく光の跡だけが残った。

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