ゲームセンターで夢現
2039年のゲームセンターで宗一郎は呑気に遊んでいる。彼が前にするゲームの筐体は、様々な趣向、仕掛けが凝らしてあり、未来を先駆けたゲームに私達には思えたが、宗一郎にとっては、そして2039年の日本人にとっては、レトロゲームにあたるらしい。宗一郎は、一際ゲームに熱中して汗を流すと、額を右手の甲で拭う。
「ふぅ。残念。ゲームオーバーです。獣人が主役のなかなかに面白いゲームだったのですが、私の手には余るようです」
そう言って宗一郎は香川と徳永の物語を振り返る。
「徳永さん。愛を無くしたと言っては少し語弊があったようです。正確には愛を奪われた悲しい男というべきだったかもしれません。それにしても……」
一つ呼吸を置いて、ゲームセンターの騒音に心地よく宗一郎は身を委ねる。2039年のゲームセンターは、まるでテーマパークのようだった。
「香川という男は、不思議で謎めいた魅力のある男でしたね。心を閉ざす彼が徳永に施したのは、本当に薬物だったのでしょうか。それとも何かのマジック? 私には分かりません」
宗一郎は軽く首を横に振ってみせる。彼は香川の行為の善悪の基準をつけるつもりなど毛頭ないようだ。
「とにもかくにも香川は、徳永に不作法で、残酷なやり方ではありますが、愛を思い起こさせる機会を与えたといえるでしょう。徳永さんがこれをきっかけに深く、そして本当の愛に目覚めてくれればよいのですが」
宗一郎はそう告げると、またも遊歩道を歩くように、ゲームセンター内を見て回る。派手な音色、華麗な光の明滅が宗一郎を包み込む。宗一郎は手を後ろに組んで、軽くハミングしてみせる。
「『ゲーム』というものに私は大層目がなくてですね。私の住む未来でもそれは盛んなものなんですよ。次にお見せするお話は、そんな遊技機にまつわる愛の物語です。禁断の愛。許されざる愛と申しましょうか。それでも、彼と『彼女』の間には確かに愛があるのです」
そうして宗一郎はゲームセンターを出ると、駐輪場に停めてあるタイムマシンに乗り込む。
「それでは、次はそんな不可思議な魅力に溢れる物語へとあなたをご招待しましょう。あなたも物語のヒロインと恋に落ちること請け合いですよ」
その言葉を最後にタイムマシンは颯爽と2039年、東京から走り去っていった。まるで私達を豊かで蠱惑的なファンタジーに誘うかのように。




