出逢いと別れ
これまで「なろう」にupした短編の幾つかを、長編風短編集に仕立て上げました。既にご覧になったことのある短編は飛ばしても楽しめます。それではよろしくお願いします。
ここは東京の一角、無料動画サイトの動画を鑑賞しながら、若者達がお酒や食事を楽しむバー「ユアテレビジョンバー」だ。俗に言うリア充、非リア充らに関わらず若者達が、出逢いを求めて集まる、東京のちょっとした穴場だ。若者達はカクテルを酌み交わし、自分の好きな動画を鑑賞し、シェアし合っては親睦を深めていく。
そこに少し場違いな雰囲気の男。六十代後半の様子で、物腰が柔らかく、気品があり、紳士然とした男性がいる。彼は軽いアルコール、カシスオレンジを味わっている。
男は武井宗一郎と名乗った。宗一郎は、黒いスーツに、淡いグレーのシャツ等、21世紀日本に似つかわしい身なりをしているが、西暦など最早無くなった遥か未来からやってきたという。
宗一郎は彼のトレードマーク、シルクハットを右手で少し掲げてみせると、「私達」に語り掛ける。
「いつの時代でも若者の出逢い、いや人の出逢いというものは、素晴らしいものですね。そこから生まれる価値は計り知れない。生命、文学、芸術など多岐に渡る」
そう言って宗一郎は左手を軽くあげて話を変える。
「いや、私が今日お話ししたいのはそんな退屈な文明論などではないのです。今日お話したいのは、ズバリ直裁に言って、『愛のお話』です。愛とは、何たるかを皆さんにお伝えしたいのです」
そう言って宗一郎はカシスオレンジをもう一度口に含む。この男はアルコールが苦手のようだ。尚も彼は私達に語り掛ける。
「私はずっと未来から、タイムマシンに乗ってやってきました。おいそれとは信じてもらえないのは分かっています。でもこれからご紹介する素敵な愛の物語を見るにつけ、私の言葉も信じてもらえることでしょう」
そう口にすると宗一郎は立ち上がり、「ユアテレビジョンバー」をあとにする。東京の人々が行きかう雑踏から逃れて、ビルの路地裏へと足を運ぶ。そこには一輪駆動のバイクのようなものが停めてあった。
宗一郎はそのバイクのようなものに跨るとエンジンを入れる。これが宗一郎の言うタイムマシンだろうか。すると彼は、私達へにこやかにほほ笑んでこう告げる。
「まず私がお見せするのは、そうですね。いきなり遠い未来の『愛の話』をされてもあなた方も戸惑うばかりでしょう。まずは極身近で平凡な愛の話をお見せしましょう」
そして宗一郎はシルクハットを左手で抑えるとバイクを走らせようとする。
「とても愛らしい女性と幽霊のお話です。気に入ってもらえればよいのですが。それではまずは2016年の東京へとタイムマシンを走らせましょう。あっという間ですよ」
そう宗一郎が言うと、一瞬激しい光が明滅して、一輪駆動のバイクは2014年、東京の路地裏から消えてしまった。案内人、宗一郎の言葉をこう残して。
「物語は、語り部『オズマ』の口から語られます。物語が語られる間は、あなた方と私はしばしのお別れ。では!」




