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21/21

第21話 白い雲、流れるように

完結保障、全21話。

毎日投稿予定。

 公務員試験に合格してから5年がたった桜咲く日の休日。稲田は自宅から少し離れた公園へ行き、ベンチに腰を下ろした。遠くのベンチでは若いカップルが仲良く話をしている。あの頃の自分も、傍から見ればあんな風に見えていたのだろうか。


しばらくすると公園の喧騒に混ざって元気な掛け声が聞こえてきた。近くの大学の運動部だろうか? 5~6人ほどの男子学生が一列になってランニングをしていた。先頭を走る先輩らしき人がその後ろから付いてくる後輩たちに激を飛ばしている。その声を聞いていると、なぜか懐かしさがこみ上げてきた。


稲田はふと、自分が大学に入学して早々拉致された日のことを思い出した。


(隊長は今も魚河岸で元気でおられるのだろうか? 富山の木工所の社長やそこで知り合った仲間たちはどうしているのだろう)


休日にいつも来ている近所の公園なのだが、なんだか家からこの公園に来るまでに随分と遠回りをしたような気分だ。稲田の後ろから声がした。


「あなた、やっぱりここに来ていたのね」


振り向くと妻がいた。近くの自販機で買った缶コーヒーを二つテーブルに置く。


「また値上がりしてたわよ、一本130円。資本主義もたいした商売するわね」


「ありがとう」といいながら稲田は缶コーヒーのプルタブを開けて一口飲んだ。


優しく微笑みかける妻の愛くるしい瞳に、きりっとした眉毛。稲田はふと思い出した。


「資本主義という幻想から生まれた飲み物も、木洩れ日の中で飲むと最高だな」


妻は照れくさそうにふふと笑う。二人がふと空を見上げると、白い雲がぽっかりと気ままに流れるように浮いていた。


             終わり

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