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七十一話 『平穏の崩れる音』

 特訓が終わってからは、各自で城の部屋に戻るように言われた。全員が戻ってきてから閉会するらしい。


 というわけで他の二人よりも早く特訓が終わった俺はシンの部屋に遊びに行ってる。



「あの二人はいつ帰ってくるんだろうね」

「多分そろそろだと思う。目安を二週間ぐらいにしてるんじゃないかな」

「と噂してる間に帰ってきてたり――」



 部屋の扉がド派手に開かれる。驚いて後ろを見ると、案の定ラルフだ。見た感じちょっと筋肉とかついたかな。



「よう、久し振り、ラルフ」

「シンとアーロンも元気そうでよかったわ! アリスはまだ来てないん?」

「ああ、まだだな」

「いや、もう来るよ」



 不意打ちのように扉の奥から声がかかる。声の主は……。



「リザさんじゃないですか」

「やあ、久し振りアーロン君」

「もう来るってどういうことですか?」



 リザさん曰く、アリスの管轄の魔の支配者さんから、もうすぐ帰還するから影踏み童子をよこしてくれ、って連絡が入ったらしい。

 そしてギルド長が、今夜閉会式を行うって言ったから丁度その連絡に来たというわけだ。



「連絡ってどう繋がっでるんですか?」

「魔導具なんですかね?」

「いやーそんな便利な魔導具はそうそうないかな。普通に手紙を持たせた魔獣を飛ばしてるんだよ



 なるほど、魔の支配者さん独自の連絡方法だな。



「まあそれより! 今夜閉会式……まあつまりパーティーがあるんだよ! やることは一つ!」

「「「あ……」」」

「格好良くしないとね!」



 ★ ★ ★



「なんでこんなことになってんねん……」

「パーティーの一時間前からこんなことすんのかよ」

「……仕方ない、さっさと選んじゃおう」



 リザさんからは、この衣装室にある全ての服から自由に選んでね! って言われたけど何選んでいいか分からん。


 いや、嘘だ。元貴族の俺なら分かる。だが今の俺はしがない冒険者。そんなセンスバッチリの服を選んでは怪しまれる。



 嘘です。本当はただ動きやすくて派手じゃない服を着たいだけです。多分シンとラルフもそんなものじゃないか?


 男三人、大量の服の前でじっと悩んでいると、後方のドアが開かれた。



「なんだお前らぁ~、まだ服選んでねぇのかぁ~?」

「別にどれでも変わらんだろう。適当な服を選んどけ」

「分かってへんな~魔術師さん。この三人はそーんな軽い理由で選んだらあかんねん」



 怠惰な王さん、氷炎の魔術師さん、笑う剣聖さんだ。今ギルドにいる男全員が集まった形だ。

 というかこの人たちもここで服選ぶのか?



「俺らは自分専用の服があるから着替えるだけやで。早よせんと始まんで。アリスちゃんも来てるしなぁ」

「あ、はい」



 そう言って別室に向かおうとする。



「アリスちゃんに気に入られるような服選び、頑張りや!」

「うっせぇわ師匠!」



 この人は……!



 ★ ★ ★



 結局俺が選んだのは紺のタキシード。ラルフが白でシンが黒だ。もっと凝った衣装もあったんだけど無難なこれらになった。


 やっと部屋から出ると、丁度隣の部屋から出てきたリザさんと鉢合わせた。隣は女性用らしい。

 リザさんもパーティーモードだった。



「お、似合ってんじゃん」

「リザさんこそお似合いです」

「ありがとうシン君」



 なんと歯の浮くセリフ。流石シン……?



「じゃ、お次はこの方に言ってあげてください。ジャジャーン」

「やっぱりこの衣装派手過ぎませんカ!?」



 予想通りというか出てきたのはアリスだった。もちろんただのアリスじゃない。貴族とかがパーティーに出るときのような、ヒラヒラのドレスだ。



「あ……似合ってるね、アリス」

「それはどうモ……ありがとうございまス。シン君こそかっこいいですネ」



 うん、砂糖吐き出したくなった。もう雰囲気が本当の婚約者なんだよ。隣のラルフも笑いをこらえるような、多分俺と同じ表情をしている。



「アーロン君とラルフも似合ってますネ!」

「そりゃどうも。アリスも貴族令嬢みたいだな」

「これでも現役お嬢様やからな」

「これでもとハ!?」



 画して、パーティーは始まった。





 俺たちが来た時の部屋の扉が開かれる。だが、つい数週間前とは全然違う。

 息を忘れる程綺麗なセンスで飾り付けられた大広間は王家などが主催するそれを越えてるんじゃないだろうか。


 誰が飾り付けたのか、ギルド長だろうなあ。



 加えてテーブルの上にこれでもかというほど並べられる料理の数々。立食パーティーのようだがずっと腰を据えて食べたいな。


 それこそ一般市民では絶対に出会うことのないだろう高級品が惜しげもなく使われている。料理人もいないだろうからギルド長が一人で作ったのか?



 まとめよう、ギルド長すげー! 見た目小さいのに!



「やあやあ皆の衆。集まったかの?」



 大広間の、ステージの壇上からギルド長が声を上げる。いや、全員じゃない。母さんは来てないのか。



「まずはA級のラルフ、シン、アリス、アーロン。それぞれS級と特訓することで、己の新たな武器を見つけ出し、磨き、一段と強くなったことじゃろう。これからもギルドを、世界をよろしく頼む」



 その言葉にすっと身が引き締まる。

 そうだ、多少のずれこそあれ、俺たちはA級最強ということになる。そしてここにいる人たちはS級。全冒険者最強だ。文字通りギルドの全戦力がここに集まってる。そう思うと感慨深いな。



「そしてS級諸君。若き才能の成長を手助けしてもらい感謝する。これからもギルドのため、もちろん全力を尽くし、また後進の育成にも力を注いでくれると嬉しい」



 周りを見るとS級の人たち全員が頭を垂れている。



「堅苦しい話はここで終わりじゃ! 今夜は、今夜だけは思い切り楽しんでくれ!」



 それがパーティーの始まりとなった。



「っしゃー! アーロン! 食うで!」

「だな!」



 今回は流石に酒はないが、様々な食材がそろってる。俺たちだけ……と思ったらそうでもない。皆話は二の次に、まずは食べている。この雰囲気いいな。



「おうラルフ、アーロン君! 知ってるか、この肉上手いねんで! ギルド貯蔵のドラゴン肉やな!」

「そんな貴重な肉出してるのか?」

ロキ(氷炎の魔術師)、この肉のキラキラを見いや! 間違いないで!」

「ホンマや! 超美味しい!」



 俺もその言葉で食べてみる。



 舌に激震が走った。

 ここまで美味しい肉があるのか! 世界が変わった!



「うま! めちゃうま!」

「やな! おーい、シンとアリスも――」





 その瞬間、大広間に警報が鳴り響いた。思い思いに食事を楽しんでいた全員の手が止まる。一瞬で緊迫した雰囲気になった。続けてメッセージが流れてくる。



『こちら英国本部! つい先ほど英都に魔獣の大群が押し寄せてきました! 現戦力と冒険者で足止め中ですが戦局は壊滅的です! 大至急S級冒険者の派遣をお願いします!』

「状況を詳しく説明しろ! 魔の支配者! 魔獣を使って街の様子を伝えろ!」

「御意」



 突然の状況に呆気にとられていると、怠惰な王さんが肩に手を置いて話しかけてくる。



「おい、準備しろぉ~。ここに警報が鳴るってのは尋常じゃねぇ~。すぐに戦闘の準備をしろぉ~」





「戦争が始まるぞ」

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