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六十七話 『始まった特訓 前編』

 そうして、地獄のトレーニングが始まった。




 木々が擦れる音がする。


 俺はひたすら、この森の中での戦闘訓練に明け暮れていた。事実、朝から晩まで!



「『止まれ』」

「チッ!」



 後ろの方から聞こえた声により、動きが止まってしまう。

 やばい、と思った瞬間――



「『吹き飛べ』」

「ぼえっ!」



 急激に体に負荷がかかる。凄まじい勢いで横に飛ばされる。

 吹っ飛ばされ、木の幹に突き当たることで何とか止まるが……やばい、痛すぎる!


 扱いは重力と似た感じだから、もっと速く反応すれば吹き飛ぶのを抑えられるんだが……まだ練習が必要だ。



「ほら、さっさとレジストしやがれぇ~」

「くそったれ……」



 痛む体を無理に動かしながらさっき聞こえた後方に向かう。

 流石に手加減してるのか言霊の嵐にはならない。俺が反撃する時間を残してくれている。


 高速で走りながら気配を感知する。

 森の中は視界も狭いし、邪魔な音も多い、気配の練習にはもってこいの空間だ。



 そこだ!



 俺から左斜め四十五度、前三十メートル……!

 集中――あのときの感覚を思い出す。白い空間、いや、怠惰な王さんが言うには超集中空間。


 その瞬間、その技だけに全神経を集中させることで起こる。周囲の状況を全て削ぎ落した空間。あの空間を再現できれば、かなりの戦力増強になるそうだ。


 まあいい、優先順位的にはまずはグラビオルだ。



 意識を集中させる――



「来い、『グラビオル』ッ!」



 狙った場所――から数メートルずれたところで土煙――すら上がらない。何故かこの森では何の自然現象も起こらない。


 というか木が倒されたりしないし、土すら掘れない。



 だが、重力の威力はそこを穿った。やったか?



「残念だなぁ~。ハズレだぁ~。『吹き飛べ』」

「うげっ!」



 まあ、怠惰の王さんとの戦いはこんな感じだ。



 影踏み童子さんとは、もっとひどい。思い出したくないぐらい。


 攻撃しようとすると一瞬で後ろに回り込まれる。

 目の前にいるのに一切攻撃が当たらない。それでちょこまか攻撃される。


 地獄、この上ない!



 ★ ★ ★



 闘技場で師匠との特訓が開始した。



「『自然の型』言うんはな、剣聖だけに伝えられる最強の剣技やねん」

「ほう」

「自然現象をモチーフにした剣技でな? 例えば『疾風』とかな。一本でも二本でも、剣以外にも応用できる剣技やねん」

「なるほど」

「まあそんな堅苦しいことは置いといて! やんで!」

「はい!」



 曰く、自然の型には十個の型があるらしい。


 まあそのうちの三つは剣聖の最終奥義やから教えられへんらしいけど。俺が習得すんのは七つや。



 疾風、噴火、吹雪、雪崩、雷、竜巻、凪。



 やけど、この七つを習得するだけでも最強に近い技らしい。



「まずは『疾風』や。俺がラルフに出してたやつやな」

「どんな技なん?」

「剣を速く、薄く振るうことで真空波を発生させる技や。汎用性高いし便利な技やで」



「次に『噴火』。これは単純や。力の限り地面に剣を叩きつけんねん」

「意味不明やな」

「やけどな、地面に剣を叩きつけることによって、離れた場所から衝撃を与える。これが噴火や」



 そんなん出来るん? 絶対無理やと思うねんけど。



「『吹雪』は突きの技やな。一方向からまさに吹雪のように大量の突きを繰り出す。この技は、威力を殺して速さに全振りすんねん。それがコツや」



 威力を殺して速さに振る……? なるほど、それならまだできそうや。



「『雪崩』は噴火と違って相手に剣を叩きつける。雪崩の如く大きく、力強くや。こっちは逆に速さを殺して威力に全振りすんねん」



 吹雪の逆やな。納得や。 

 


「『雷』は上空に剣を投げて、それにジャンプで追いついて真上から叩きつける技……なんやけどこれは剣聖の『草薙』がないと無理やな」



そらそうや。普通の人間にそんな芸当できてたまるかい。

てか叩きつける系の技多ない?



「『竜巻』はこれも汎用性高いで。自分で剣を回して竜巻、やないけど旋風を作り出す。上向きにやれば竜巻、横に振り回せば横の竜巻が出来んねん。範囲攻撃やな」



 なるほど、絶対ムズイわ。



「最後に『凪』! これが一番単純で一番難い! 簡単! 相手の攻撃全てを切る! 神速で剣を動かして攻撃を全て切る! 威力なんかいらん、速さに振れ! やけど半端じゃない速さが必要やけど」



 絶対無理やん!





「ほなやってみよか。一回俺がお手本見せんで」





 剣聖の剣技はまさに流麗。目を奪い去っていくほど、美しい。



「ほな、まずは疾風からや」



 俺も、そんな存在に、なんで! 

 剣を持て! 練習してあの剣技を身に着ける!



「了解や!」



 俺の心に、もう『無理』なんて言葉はなかった。

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