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六十五話 『特訓の見通し 前編』

 影踏み童子さんたちに連れられ、円卓の部屋を出る。

 すぐさまS級直々の特訓に赴くのかと思いきや、少し用があるからと待機を命じられた。


 ……何か出鼻をくじかれた気分だ。



「不満かぁ~?」



 そう、そしてこのめちゃくちゃ怖そうな人と一緒なのがさらに不満なんだ。



「い、いえ」

「仕方ねぇなぁ、童子はよぉ~。あいつがいねぇとこっから出にくいんだぁ~」



 つまり、童子さんの魔法のテレポートがないとこの城から出れらないのか? あの人は他の、シンたちの班を外に出してあげてたってことか。納得だ。


 それにしてもS級の人たちでも出にくいってどういうことだ? 来るときにも目隠しされたし。

 来るのが物理的に難しい、例えば空の上とか、地下深くとか、極地とかか。


 え、でも童子さんがS級になるまではどうやってたんだ? 他にテレポート系の能力を持った人がいたのか?



「あ、そうだぁ~。これしとけぇ~」



 気だるげな怠惰な王さんの声で我に返る。


 手渡されたのはただの布だ。どういうことですか、という目線を送ったら、トントンと指で自分の目のあたりを指した。目隠ししろってことか。



 目隠しをすると辺りが全く見えなくなる。

 魔導具か? いや、まさかね。


 それにしても目が見えないって尋常じゃなく不安だな。いつどこから攻撃されるか分かったもんじゃない。生物的な本能が拒否してる。



 目隠しをしたまましばらく待つ。怠惰な王さんと、二人で。無言で! 気まずすぎた!


 やっと童子さんの声が聞こえたときどんだけ安心したことか。



「あ、戻ったよ。ごめんね!」

「遅せぇぞぉ~」

「これでも頑張ったんだよ!」



 仲がいいのか悪いのか分からない会話を半ば呆れて聞いていると、突然手を握られた。



「じゃ! しゅっぱーつ!」



 その一言で周りの空気が変わったのを実感する。

 なんかこう……上手く言えないが、なんか違うんだ。



 数十秒たち、目隠しを外していい許可が下りる。


 辺りを見回すと、木、木、木だ。つまり森だ! なんてとこ連れてきてんだ!?



「ここは……?」

「安心してね。一応英国内だから」

「童子。こいつが聞きたいのはそこじゃねぇ~」

「マジ? そういうことじゃなかった?」



 呆れたように、いや、呆れかえった様子の怠惰な王さんが簡単に説明してくれる。


 聞くに、ここはギルドが割と自由にできる森で、よく戦闘訓練などに使われているらしい。

 木とかをなぎ倒してもいいんですかと聞いたら、やれるもんならやってみろ、と言われた。意味が分からない、ただの木だろ?



「ここで訓練するんですね。期間とかは決まってるんですか?」

「私たちが太鼓判を押すか、急な任務が入るまでだね。基本それまでずっと続くよ!」

「覚悟しろぉ~」



 一筋の冷汗が落ちる。この怠惰な王さんのことあんま知らないけど、痛めつけられそうな気がする……。



「訓練の内容はどんなですか?」

「アーロン君の課題は……あの決勝戦で見せた覚醒、それを通常に持ってくことだね」



 うん、なんか初めて難しそうな言葉がこの人から飛んできて分かんねぇ。つまり、なんだ?



「要するにだぁ~。あの覚醒状態、あれをいつも出せるようにするぅ。まぐれの覚醒を100%まで引き上げる。これが全容だぁ~」

「なるほど」



 俺のあの時の状態が限界越えた、なら限界をさらに引き延ばす、あそこを限界にしない、みたいなことか。


 ……つまりこの人たちとでも戦うつもりか?



「多分想像通りだなぁ~。この木が鬱蒼と茂った森の中での対人戦闘だぁ~。やるぞぉ~」



 相変わらず気だるげに準備運動を始める。いや、ちょっと待って。まだ心の準備がぁー!


 ……母さんの鬼訓練を思い出すなっ!



 ★ ★ ★



 目隠しして、テレポートで来たのは……なんやここ、闘技場か?



「想像通り、ここは闘技場。もちっと詳しく言うんやったらコロシアム、やな」

「紅桜と来たことがあるんじゃないか」



 いや、突っ込むの忘れてんけどなんで氷炎の魔術師さんもおるん? 師匠だけやなかったんか。


 それにしても、紅桜さんと来た時もやけど、簡単に入れるんやな。S級やと。

 確かに剣の訓練するには最適やな。



「さてと、ラルフは剣を身に着けたいんやったな? あと魔剣もって話やな」

「はい、師匠」

「俺と戦ったときは……普通にA級にしては強かったで? それでも、やな?」



 おもむろに頷く。

 アーロンばっかが覚醒してたまるかい! 俺も進化せんと一瞬で置いてかれるわ!



「その魔剣……インビジブルやんな? 女神が持ってた」

「せや、リザさんの紹介で行った店で貰ってん」



 心底驚いたような声を出す。魔剣なんてそんな簡単に貰えるもんやないやろうしな。

 普通は継承するにもちゃーんとした儀式みたいのがあるらしいで。この魔剣は売るにしてもめちゃめちゃ高価やしな。



「貰ったて凄いな。売ったら金貨100枚だぞ。まあ魔剣の中じゃ一番安いねんけどな」

「え、そうなん?」

「当たり前や。100枚っつっても出されへん金額やないしな。他の魔剣は値段つかへんで」



 ガーン! と大きな衝撃を受ける。めっちゃ貴重な物持ってると思ってたんやけど、そうでもなかったんかいな……!

 まあ、大切なことに変わりはないねんけど……、なんかショックや。



「理由はな、魔剣の能力がそこまで強くないからなあ。その魔剣って見えへん剣を一本出すだけやろ? しかもちょっと戦闘かじった奴なら避けられるしな。あんま需要がないねん」



 あれ? いやちょっと待て? なんか師匠の思ってる剣と違くないか?

 俺のインビジブルそんな弱ないで。世間一般に思われてんのと性能が違うんかな?



「俺のこれは、剣二本出せんで。しかも俺の魔法で光速で動くしな」

「は? マジで言ってんのか?」



 師匠曰く、俺が使う場合剣が数本出て、それらを光速で動かせるとなると価値は跳ね上がるらしい。他の魔剣と同じプライスレスの仲間入りや。


 良かったわ。俺の魔剣は出来ん子やなかったっちゅー訳や。



「いつ剣の二本目が出たん?」

「あの勇者と戦った時やな。限界越えたからかもしれんわ」

「なら! その剣をもっと出すのも課題やな!」



 つまり、この特訓で俺が身に着けることは三つや。

 もっと卓越した剣技を身に着ける。

 魔剣に慣れる、使いこなす。

 で、インビジブルソードの本数を増やす。この三つや。



「剣技は昔みたいに双流剣術を教えるん? まあそれやと魔剣にも慣れられるし一石二鳥――」

「いや、違ゃうで」



「俺の、剣聖の剣技。『自然の型』を教える! あらゆる剣術の中で最強の流派や!」



 剣聖の、剣技か! 


 気分が、全身が、全霊が高揚する。

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