睡眠不足………
「寝ましょう、お嬢」
「寝れたら寝てるのよ……」
深夜22時。
ここは、苅琉愛の自室。
「寝れるでしょう、今すぐにでも。眠気でフラフラしてるじゃないですか!」
「こんな重要な書類、なんですぐに出さずに期限ぎりぎりに渡してくるのよ、あの侯爵様は」
そう、今、苅琉愛はものすごい量の書類に埋もれていた。
「なーんでお父様じゃなくって私に回ってくるのぉ……セレスト、代わりにやってぇ……(泣)」
「…………はぁ、苅琉愛、俺がやったら即バレるし、やったらこの国終わるぞ」
「にゅぅ……」
資料の内容は、国の行政やら、地域の活性化やらといったものである。
現役16歳の苅琉愛が、ましてやセレストがやるような内容じゃないはずなのだが……。最近はずっとこんな様子で苅琉愛に仕事が回ってくるのであった。
「……苅琉愛はさ、いやじゃ、ないのか? こういうことするの」
「こういうことって……?」
「政に関係する仕事をこの年齢からやってることだよ」
「…………」
いやじゃないと言えば嘘になる。……でも。
「私が考えたことが、この地で生きてる人の役に立ってるんだよ⁉ それに、今の政治で、みんなが苦しんでる顔を見たくないの」
「……苅琉愛」
「だから、嫌だなんて言ってられな…………」
「苅琉愛!」
セレストが大きな声を上げた。幸い、我が家の壁は厚いから外に声が聞こえることはないだろうけど。
「……お前は昔から優しすぎるんだよ。それで倒れたら元も子もねぇだろ」
「でも……! これは期限が近いから、早めに終わらせておきたいの! それに。今いい案思いついたし、書き留めておかないと、忘れてしまうわ!」
「でも明日まで……いや、今日までじゃないんだろ?」
気が付けば時計が0時を過ぎていた。
「だから今日くらいは、寝ましょう? セレスティアお嬢様?」
「急に、執事にならないでよ。……もう少し、もう少しだけでいいから幼馴染のままでいてほしいの」
「それだったら今日はもう、寝てください、お嬢」
執事モードのセレストは、普段よりも揺るがない。執事としてのプライドというものだろうか。
「…………見なさい? セレスト! 心配しなくっても、お嬢が寝てますわよ⁉ 大の字で」
「……ははっ! それでこそ、自慢の幼馴染だ。 ……で、す、が。大の字はやめてください、お嬢様……」
「わたくしの渾身のふざけが……! そこは気づいてくださらない⁉」
「「…………」」
「……ふふっ」
「……はははっ」
「「流石、私の(俺の)幼馴染ね!(だな!)」」
こういう笑えるやり取りを二人でできる時間が、私は一番好きだ。それはきっとセレストも同じだろう。
「お休みなさいませ、セレスティアお嬢様。……いや、苅琉愛」
「ええ、おやすみ、セレスト!」
言葉を交わし、目をつむる。
明日はもっと、私の意志をお父様に伝えよう。せめて、っもう少し仕事を減らして、今だからできるプライベートの時間を増やしたいと。……セレストと、二人きりでの時間が欲しいと思ったのは、誰にも内緒だけれど。
焚火の音と明かりだけが響く部屋。
今日は、いつもよりも布団が気持ちよく、心地よく眠れそうな。そんな気がした。




