エピローグ: 顛末
「また……こんな感じになるのね…………」
「仕方ない。クロエのところの国は、再興も絶望的な感じだし……他の国も、どこにあるのか知らない」
気絶して、謎の濁流に押し流されたその後。
私達は────砂漠で、途方に暮れていた。
ケレスの国……あのコロニーはもう、復興の余地が無さそうだった。
こっちに来ていたゼノサイトはクロエが言っていた数よりも少なく、どうやら他の地域で破壊の限りを尽くしたようだった。
その影響で、コロニーに張り巡らされた特殊な水道管が破裂し、あの津波のような現象が起きた……らしい。
らしい、というのも、これらは又聞きの情報なのだ。
気絶して流された後、紗夜はクレースと会っていた。
二人の間に面識はなかったが、気絶している私を見て状況を説明してくれたとのことだった。
私も話をしたかったが、クレースはすぐに立ち去ってしまったようだ。
彼女はとても可愛らしかったが、それ以前に……私に覚醒するだけの基盤を与えてくれて、そして『先生』を殺した私が精神的に崩れるのを防いでくれた恩人だった。
生きていたなら、また美味しいものでも食べさせてやりたいが……会う機会はあるのだろうか。
クレースの話によれば、コロニーにヒトのゼノサイトに対抗する戦力は残っていなかったようだ。
まあそれもそのはずで、元々、あそこの最高戦力はクロエだった。そいつ自身が国を裏切ったのだから、抵抗する余地などあるはずもない。
クレース本人も逃げるので精一杯だったとか。
そういえば、ケレスとかいう男、顔合わせ以降結局最後まで会わなかったな。
まあ、私としてはその方が良い。紗夜がきゃーきゃー言っていたからな……。なんならサムライ野郎のほうが馴染みも好感もある。
ケレスは……自分の国が滅んだのはまあ可哀想ではあるが、クロエを飼っている方が悪いところがある。自業自得と言えよう。
そして、そんなどうでもいい男のことを考えている場合ではない。
────今は……私達の食糧確保が死活問題だった。
「環境的には、最初の熱帯のほうがマシ、か? ここには、変な虫や病原菌は存在しなそうだが……植物も、何もない」
手記も見てみたが……ページが増える様子はなく、食糧の手掛かりなどは記されていなかった。
そして、ついでに……恒温石が、割れていた。その破片は、最早熱を持ってはいない。
割れるような衝撃を受けた記憶は無い。
完全な推測にはなるが──きっと、どこかで『代償』になった。私の能力の代償だとすると、内臓をめちゃくちゃに破壊された上にアーティファクトまで持って行かれているということになる。
私だけコストが重すぎるだろ! こら!
と、すると……手記の方も、表面上の破損こそ無いが、機能停止している可能性がある。実質的に命を救われたこともある重要な道具だっただけに、かなり……惜しい。
「水は魔法で出せるから、しばらくは大丈夫だと思うけど……いつまで持つかは……わからないわね」
「…………紗夜…………成長した?」
「え、なんで?」
こいつ、最初は水にも食料にもまるで関心がなかった気がするが……様々な経験を通して考えも変わったのだろうか。
まあ、自分の渇きにも気付かないよりは余程いいんだが。
「紗夜のレベル2……他に能力は無いのか? 空を飛ぶとか」
「無いでしょ……確かめたじゃない。代償? が、無いのは良かったけど」
結局、紗夜にあれ以降明らかになった能力は無く、現状できるのは変身することと、その後ビームを撃つことだけだった。
私をあれだけ苦しめた代償が判らなかったのは不思議だが……クロエも苦しんでいる様子が無かったし、やはり私の代償だけが異常だ。何かしら、コストを軽減する方法を探す必要がある。
……どうせしばらくは使えないが。
クロエに施された封印は未だに解ける気配がない。
紗夜の能力。せめて空でも飛べたら、絶対に、人の住む街を見つけるのに役に立つのに。
……せめて、と言うのはおかしいか。ゼノサイトを破壊するビームを撃てるだけ、信じられないくらい強力ではある。今は役に立たないけど。
「────ねえ、芽愛、あれっ! 街じゃない!?」
「……え? …………壁?」
紗夜の指差した先、そこにあったのは、どう見ても────壁だった。
砂漠で見通しがよくてギリギリ見えているくらいなので、距離的には恐らく相当先にあるが……まあ、あの中に街がある可能性はあるだろう。
「仮に、街だとして……そうだな、旅人を装って入ってみるか。文化がわからないから、それがどう映るのか知らないが。……まあ、いきなりクロエみたいなのに遭遇する確率は減るだろ」
「旅人! いいわね、素敵じゃない! ね、早く行きましょ。お腹空きすぎておかしくなりそうだったの!」
そう言って、紗夜は────私の手を引いて、走り出した。
「…………転ぶなよ………」
紗夜の手の熱を感じる。
この世界に、二人きりで来て……ここで得た掛け替えの無いものに思いを馳せながら、私は紗夜の後ろについて走った。




