ショッピング……?
会計を済ませて、服屋を出る。
私も適当なシャツを2着ほど購入した。クロエの趣味で置いてあるものは大抵ゴデゴテな感じなので、今回買ったのは心情的にも物理的にも着やすいやつだ。
紗夜はさっき見た服に加えて、キャップまで被ってカジュアルに寄せていた。
魅力的であることは間違い無く、しかし、その格好は、今まで紗夜が与えていた印象と殆ど逆方向のものだった。
「そういう服が着たかったのか?」
「何でも着たかったの。こんなこと言うのも恥ずかしいんだけど……私は、私服も、お母さんが選んだものしか持ってなかった。だからこれも、こういう服が着たかったっていうより────自分で選びたかった。まあ、好みと言えば好みなんだけど……」
「………………」
やはり以前に想像していた紗夜の家庭状況は大きく間違ったものではないようだった。
紗夜がこちらの顔を覗き込む。
クレースほど、人形のようではないが……その顔は、とても整っていながら、年相応の若干のあどけなさも孕んでいて、ひどく人を惹きつける。
吸い込まれるような大きな瞳が私を見据える。
「ね……買い物、付き合ってくれて、ありがとう。こういうことも……ずっと、やりたかった」
どこか儚さを感じさせる紗夜の笑顔。
ドジで要領が悪くて明るいなんていうコミカルな性格とは裏腹に、紗夜の存在はどこか希薄だった。
硝子細工のように繊細な、触れたら壊れてしまいそうな、ふとした瞬間に消えてしまいそうな雰囲気を孕んでいた。
「────別に……私だって楽しいし……これからも、いくらでも付き合うよ。今日だって、まだ遊ぶだろ?」
「もちろん!」
咲く花のような満面の笑み。
……紗夜には、間違い無く二面性が存在した。
壊れそうな部分が顔を覗かせるたびに、私は…………。
余計な思考を、ブレてしまいそうな自分を振り切る。
メモを開いて、次の行き先を探す事に意識を向ける。
「……ええと、百貨店みたいなところがあるみたいだけど、そこにする?」
「いいわね、行きましょ! アクセサリとかコスメとかがあるのかしら。服は……もう買っちゃったけど、違う感じのが置いてあるならまた買ってもいいわね」
「服……お前……買うのは勝手だが、自分で持てよ」
紗夜は既に、朝着ていた服を仕舞い込んだ袋を抱えている。
これが2倍3倍に増えるとまともに歩いていられないように思う。
「……確かに。……ねえ、また来るから、今日は私の分の荷物も持ってくれない?」
「……まあ、いいよ。っていうか、一回帰るか? 余計に歩く事にはなるけど、そんなに遠くはないし」
「名案!」
一言交わすたび、紗夜は随分と嬉しそうにしていた。
ずっと、こんな時間が続けば良いのにと……そう思わせる笑顔だった。
「時間です」
家に着いた私達にクロエが言い放ったのは、その一言だった。
「……?」
紗夜が不思議そうな顔をしている。
私には……何のことかは、およそ察しがついていた。
私の脳みそは紗夜のと違って揮発性メモリではない。
だが────おかしい。
タイミングが、あまりに不自然だった。
クロエの意図を推測し、口に出す。
「……戦争に、参加するかどうか……」
「ええ。今すぐ決断して、動いていただかなくてはなりません」
紗夜が、そうだった、と言わんばかりの慌てた顔をしている。
そちらにも色々言いたいが、今は無視して、クロエに話しかける。
「おかしい」
「何が、でしょう」
何が、じゃない。道理が通っていない。
お前にはそれがわかっているはずだ。
「準備が要る、だろ。お前達に協力する場合、準備段階から私達が参加する必要があると言っていた。だとするなら、決断の瞬間は唐突に訪れるものじゃない。事前の告知はあって然るべきだ」
「ですが、今、なのです。私達にも事情はあり、今すぐに決断し、動いていただく必要がございます」
何故だ。何故、今日……いや────今、なんだ。
半日。せめてあと半日、遅らせてほしかった。
まだ…………紗夜と、十分に遊べていない。
紗夜にとってもきっと、よくない。
まだ、足りていない。
「……ケレスに報告させてもらう」
「意味……無いですよ。裁量は私にありますし……緊急事態です」
裁量。ああ、そうだった。前もこいつはそんなことを言っていたはずだ。
こいつの地位は、やはり……私が想像していたよりも、きっと高い。
ダメ元で試してみたっていいが、経路も時間も、どうやら、無い。
そして、緊急事態、という言葉。
その全容はわからなかったが、とにかくクロエの発言を突く。
「緊急事態に決断だけしたって意味無いだろ。契約したら急に強くもならないし、第一、私達が断ったらどうするつもりだ?」
「契約に意味はあります。あらゆる意味がありますし、あなた方に力を与えることができます。今、あなた方の力が必要です。あなた方が断っても……事前に伝えた通り、危害を加えるようなことはしませんが……そうなれば、この事態を生き延びることは難しいでしょう」
「……緊急事態って、なんだ? 今、何が起きている?」
契約如何にかかわらず絶対に確認が必要な内容だと判断し、現状に触れる。
「────ゼノサイト、です。原因は特定できていませんが、ヒトのゼノサイトが大量に発生しています。今、あなた方の契約が必要です。あなた方は、契約無しでは、きっと……逃げることもできない」
クロエは顔色を変えずにそう言った。
状況を把握し、私の中を一瞬で色々な感情が通りすぎた。
驚き、嘲り、怒り、呆れ。
…………こ、こいつら…………戦争がどうとか言う前に────自分達のことすら一切コントロールできてないじゃないかっ!! おい、こら!!




