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余白税  作者: 未確定ログ
第五章 候補世界
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第43話 干渉不能

関係が消えた世界では、隣にいても触れられない。


 湊はそれを「距離」ではなく「仕様」として理解し始めていた。


 朝の教室。


 湊は机に座る。


 だが机に“座っている”という事実は成立しない。


 接触しているのに、接触していない。


「ねえ湊」


 レイの声。


 すぐ近くにいるはずなのに、どこか遠い。


「今さ……触れそうなのに、触れてない感じする」


 湊は自分の手を見る。


 机に置いているはずの手が、机と関係していない。


「……あるな、それ」


 そのとき九条が入ってくる。


 湊はすぐに聞く。


「なあ九条」


「これ、もう接触してねぇよな?」


 九条は止まる。


「干渉不能状態だ」


 レイが不安そうに言う。


「干渉できないって……触れないってこと?」


 九条は静かに答える。


「影響が成立しない」


 沈黙。


 湊は眉をひそめる。


「影響がない世界って、存在してんのか?」


 九条は少しだけ間を置く。


「存在はしている」


 その瞬間。


 レイが机に手を置く。


 だが机は反応しない。


 押しているのに、押されていない。


「……今の見たか?」


 レイは青ざける。


「触ったのに、触ってない」


 湊は呟く。


「もう物理じゃねぇな」


 九条は静かに言う。


「物理はまだ残っている」


 湊は顔をしかめる。


「じゃあ何が消えてんだよ」


 九条は答える。


「因果の接続だ」


 昼休み。


 廊下。


 湊は歩く。


 壁に触れる。


 しかし手は壁を“通り過ぎる”のではない。


 最初から接触していない。


 レイが隣にいる。


 だが肩はすり抜けるでもなく、干渉していない。


「なあ」


 湊は言う。


「これ、もう同じ空間にいる意味あるか?」


 誰もすぐには答えない。


 九条が静かに言う。


「意味は最初から必要条件ではない」


 レイが小さく言う。


「じゃあ私たちって……ここにいる理由もないの?」


 九条は少しだけ間を置く。


「理由はあった」


 沈黙。


 九条は続ける。


「だが干渉できなくなった時点で消えた」


 その瞬間。


 廊下の奥に“まだ互いに触れ合えていた世界”が一瞬だけ現れる。


 肩を叩く、振り返る、笑う。


 そして消える。


 レイが呟く。


「さっきの、あったはずなのに届かないね」


 湊は静かに言う。


「届かないものは、もう存在じゃねぇ」


 九条は言う。


「それが干渉不能だ」


 世界はまだ続いている。


 だが確実に――


 “存在は同じ空間にありながら、完全に相互作用を失っている”。

読んでいただきありがとうございます。

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