第36話 理由先行世界
理由が先に存在する世界では、「納得」が先に発生する。
湊はもう、何かを見る前に“それが正しい理由”を受け取ってしまうようになっていた。
だが、その理由が本当に正しいかどうかは、誰にも確かめられない。
朝の教室。
湊は机に座る。
座った瞬間、「ここに座るべき理由」が頭に流れ込む。
しかし、その理由が何由来なのかは分からない。
「ねえ湊」
レイの声。
だがその声は、すでに“聞くべき理由”と一緒に届く。
「今さ……ここにいるの、正しい気がする」
湊は眉をひそめる。
「正しいって何だよ」
レイは少し間を置く。
「分からないけど、理由がそう言ってる」
そのとき九条が入ってくる。
湊はすぐに聞く。
「なあ九条」
「理由ってさ、誰が決めてんだ?」
九条は止まる。
「理由は生成されている」
レイが不安そうに言う。
「生成って……どこで?」
九条は静かに答える。
「現象の前方で」
沈黙。
湊は顔をしかめる。
「もう意味分かんねぇな」
九条は否定しない。
その瞬間。
黒板に“授業内容の理由だけ”が一瞬だけ表示される。
内容はない。理由だけある。
そして消える。
「……今の何だ」
レイは青ざめる。
「説明だけあった」
湊は呟く。
「中身より先に説明来るの、終わってるだろ」
九条は静かに言う。
「理由先行世界だ」
昼休み。
廊下。
湊は歩く。
だが歩くたびに「なぜ歩くか」が先に成立する。
その理由に引っ張られるように体が動く。
レイが隣にいる。
だが「一緒にいる理由」が先に存在している。
「なあ」
湊は言う。
「これ、俺らが動いてるんじゃなくねぇか?」
誰もすぐには答えない。
九条が静かに言う。
「行動は理由の結果ではない」
レイが小さく言う。
「じゃあ何なの?」
九条は少しだけ間を置く。
「理由の実行だ」
沈黙。
その瞬間。
廊下の奥に、“まだ起きていない出来事の正当化”だけが一瞬見える。
すべてが完璧に説明されている世界。
そして消える。
レイが呟く。
「理由だけだと、怖いね」
湊は静かに言う。
「中身がなくても成立するってことだからな」
九条は言う。
「世界はすでに説明可能性で動いている」
世界はまだ続いている。
だが確実に――
“現実が理由に従属し始めている”。
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