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根暗アサシンは追放されたい ~放してくれない勇者兄妹~  作者: 秀文
第五章(裏) 苦労人聖女と勇者の母
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三兄妹

 私達は白神教の総本山たる大聖堂へとやって来た。先頭を堂々たる態度でマリーさんが歩き、私とお父様がその後に続く。


 ちなみに、マリーさんは服を着替えている。大司教アークビショップの白い法衣を纏い、大聖堂の中を歩いていた。


 大司教アークビショップとは特別な意味を持つ栄誉称号。教皇の下には複数の司教が存在するが、その司教よりも上の階位となる。


 ぶっちゃければ、教皇を除くと最上位の階位である。そんな超偉い神官が、しれっと大聖堂の中を歩いている訳だ。


 その姿を見た神官達は、ギョッと目を見開いている。顔見知りである多くの同僚達は、私達の姿を二度見していた。


 そんな訳のわからない状況の中で、私はこちらに駆け寄る気配に気が付いた。


「ローラ様っ! こちらにいらっしゃいましたか!」


「お探ししておりました! 再会できて良かった!」


 聞き覚えのある声に振り替える。すると、そこには見知った二人の兄妹が。


「ライトにレフィーナ! 二人も戻っていましたか!」


 金属鎧を身に纏った二人は、肩で息をしながらやって来た。そして、私の元に辿り着くと、キラキラした目で私を見つめる。


 ツヴァイタウンで別れる事になったが、二人は私の護衛騎士である。特別な理由でもなければ、常に傍にいる存在なのである。


 そう、ドラゴンの背に乗るに際し、定員オーバーという特別な理由でも無ければ……。


「それで……。これは、一体どういう……?」


「何やら、ただ事では無さそうですが……」


 護衛騎士の二人は、戸惑った様子で私に問い掛ける。チラチラと私の背後に二人を見ながらね。


 私は二人を手招きする。そして、二人が顔を寄せて来た所に、こっそりと耳打ちを行った。


「良い? 驚かないで聞いてね……。こちらの女性は『勇者』様のお母様。そして――お爺様の娘にして、『天啓オラクル』保持者なの……」


「――なっ……?! 『勇者』様のお母様が、教皇様の娘ですって……!」


「その上で、『天啓オラクル』の保持者……! それでは、次期教皇は……!」


 二人の叫びに周囲がざわつく。そして、周囲の全ての視線が、マリー様に集まってしまう。


 まだ騒ぎを大きくしたくなかったので、二人にこっそり伝えたんだけど……。


「……驚かないでって、言ったよね?」


 私がニコリと微笑むと、二人は顔を真っ青にする。そして、その場で二人揃って土下座してしまった。


 私は頭を抱え、チラリとマリー様の様子を伺う。しかし、マリー様は楽しそうに笑うだけで、周りの騒ぎも気にしていないらしかった。


「良いって、良いって! どうせすぐに知られちゃうんだしさ!」


「……とはいえ、一応口留めしておくか。後々に響きかねんしな」


 お父様は周囲に指示を出し始める。『ここで聞いた事は他言無用。破った者は神の意に背いたとみなす』と伝えて回っている。


 お父様も教皇の息子で、自らの教区を持つ高僧である。流石に大聖堂で務める者で、その言葉を無視する者はいないだろう。



 ――等と思っていましたが、何ともタイミングが悪かった……。



「これは何の騒ぎだ! トーラス、ローラ!」


 奥から現れたのは小太りの中年男性。服装はお父様と同じ司教の法衣。


 ただし、常に冷静なお父様と違い、その男性は不快さを隠さず怒鳴り散らしている。


「……プルート伯父様」


 出来るならば会いたくなかった人物。彼は白神教内でも、腐敗の代名詞と言うべき人物だからです。


 お爺様の一番目の子にして、次期教皇と目される存在。だからこそ、欲に塗れた者達が周囲に取り巻き、彼は自らの自尊心を増長させ続ける結果となった。


 私は子供の時から何度も怒鳴られた。大人になってからは、何度も尻拭いをさせられて来た。


 私の立場上、口には出せませんでしたが、何度心の中で殺したいと思った事か……。


 さて、どうしたものかと私が唸っていると、すっとマリー様が前に出た。


「へぇ、これがプルート兄さんなの? 随分とブクブク太ったもんね~!」


「何だこの失礼な女は! それに、その法衣もだ! ふざけているのか!」


 プルート伯父様は、大司教アークビショップの法衣を見て眉を吊り上げる。そして、無理矢理に脱がす気だったのか、その法衣に向かって手を伸ばした。


「――ぐぎゃっ! な、何をする!」


「何をって、腕を捻ったんだけど?」


 流石と言えば良いのでしょうか。マリーさんは流れる動きで腕を取り、プルート伯父様の腕を捻る。


 そして、その勢いでプルート伯父様を床に叩き付ける。ぱっと見だと、憲兵に取り押さえられた犯罪者の構図だった。


「ええい、何と無礼な! 私を誰だと思っている! おい、誰か私を助けろ!」


 プルート伯父様が喚き散らす。それを見た周囲は、どうするべきか判断に悩んでいた。


 すると、お父様が手を掲げて周囲を落ち着かせる。そして、プルート伯父様へと声を掛けた。


「兄さん、彼女はマリアベル。俺達二人の妹だ」


「は? マリアベル? それは死んだだろうが……」


 そう呟くが、プルート伯父様は自信無さげであった。そして、マリーさんの法衣を見た後に、まさかという表情を浮かべていた。


 そんなプルート伯父様を見て、お父様は溜息をつく。憐れむ視線で見下しながら、冷たい口調で淡々と告げた。


「その法衣は教皇の許可無く作る事は出来ない。そして、父さんから指示を受け、私が用意した物だ。そう言えば、少しは状況がわかるんじゃないかな?」


「そんな、馬鹿な……。そんな事は、有り得ない……」


 プルート伯父様の顔が真っ青になって行く。口では否定しながらも、脳内では最悪の未来が見えてしまったのだろう。


 教皇の血を引く三兄妹。その中で自分より高い位が与えられた妹。それが今になって現れた意味。


 神官としての実績も経験も関係無く、無条件で教皇の地位を与えられる存在。『天啓オラクル』の加護ギフトに思い至ったのだ。


 そして、それは自らの地位が失われた事を意味する。時期教皇の地位を失ってしまえば、プルート伯父様の周りに人など残らないだろうから……。


「まあまあ、一先ず親父殿の所に行きましょ? プルート兄さんも一緒に来るでしょ?」


「……わかった。私も同行しよう」


 全てが真実か知る為には、お爺様に聞くしかない。そう考えたのか、プルート伯父様が大人しく従う。


 すると、マリーさんは腕を解き、逆に引いて立ち上がらせた。そして、ニッと笑みを浮かべると、周囲に対して宣言する。


「親父殿は礼拝堂だね! それじゃあ皆で行ってみましょ~!」


「えっ? そうなのですか?」


 どうしてお爺様の居場所がわかるのだろうか? それも『天啓オラクル』の効果でしょうか?


 ただ、不思議に思う私を無視して、マリーさんはドンドン進む。自信満々な足取りで、廊下をサクサクと進んで行く。


 色々と不思議な人である。けれど、仕方が無いという諦めと、何となく信じてしまう信頼感が同居してしまう。


 そんな複雑な心境を抱きながらも、私達はマリーさんの後を追い掛けながら付き従うのであった。

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