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種009 京の鬼たち

 昼の京は、賑やかである。

 百年もの間、絶えることのない戦乱で荒廃したとはいえ、それでも日の本一の大消費地なのだ。

 大路には、商店が並び、品を求める人で溢れる。


 近くの明や遠くのシャム、天竺、さらには、南蛮の衣装が、流行はやるのも京の町からだ。

 京の町を歩く人は、明のような唐服を着ている者もいれば、最新流行の南蛮の膨らんだズボンと丈の短い上着を着ている者もいる。


 また、化粧や髪型も多様だ。

 紅を差す者、白粉おしろいを塗る者、短い髪の者、長い髪の者。

 そして、髪を結び、髪を巻き上げ、髪にかんざしを挿す。

 女も、また、男も。

 色とりどりの服を身につけ、化粧をし、洒落た格好をした人々が、往来する華やかな町なのだ。

 これも、明の海禁政策の廃止、シャム、天竺、南蛮の国々との活発な交易の結果である。

 色とりどりの肌をした人々が日の本に来て、日の本の人々が海を渡る。


 日の本一輝く人々が住む町、それが、京の都。


 しかし、日が落ちた京の町は静かだ。

 日の落ちた闇の刻限は、昼とは別の人々が生きている。





 京の二条通りにある将軍家の屋敷は静まりかえっていた。

 四郎は、難なく敷地内に入り込み、影に潜んでいる。

 将軍の住む館であるが、織田家の鬼神館とは比べられない警備の薄さである。織田家と将軍家との財力の差が感じられた。


 そんな警備する者もいない館の縁側で、月を肴に酒を飲む影が一つ。

 四郎は、その影が寝所に下るのを待っている。誰もが寝静まった後に物色する事を考えていた。


 この場所に鬼神は、ない。

 この場所にあるのは、鬼神布のみ。


 将軍家が保有する鬼神布は、薩摩の島津家より一鬼の鬼神とともに献上された物だ。

 鬼神布という反物を献上された将軍家は、当時の支援者であった管領を通じて、近江国の国友村で鬼神の製造を始めた。


 国友村は、鍛冶師が集まっていた地。

 高品質な金属製の関節部を造ることを期待され、将軍家の鬼神製造の拠点として選ばれたのだ。

 京の将軍家屋敷で反物を保管し、一鬼を造る度に国友へと反物を運び出して鬼神を製造するという仕組みで造られている。

 そして、造られた鬼神は、下賜されていった。


 幕臣たちは、鬼神への適正が低かったため、鬼神を将軍家の戦力とはせず、各地の国主が上洛など、将軍家への貢献に対しての下賜品となっていた。




 四郎は、闇で待っている時間を利用して鬼神布の隠し場所を推理する。

(さて、布はどこにあるか。葉を隠すなら森の中、逆をついて、もっとも目立つ場所に置いているか)

 などと考えていると、酒を飲む者とは別の影が廊下から現れた。そして、現れた者は、酒を飲む者の前で膝を折り、頭を下げる。


「上様、夜は冷えます。そろそろ寝所でお休みくだされ」

藤英ふじひで、あの月を見よ。まるで、この義輝のようではないか」


 幕臣の三淵藤英みつぶち ふじひでは、主君である将軍の足利義輝に言われるまま、夜の月を見上げた。

 雲の合間から見える三日月が、夜空をほのかに照らしている。


「自分が将軍となって十五年にもなる。しかし、世は乱れたまま」

「…」

「自分は、あの三日月のような物だ。満月には、ほど遠く欠けている。いや、将軍とは名ばかりで、あの三日月のほどの力もなかろう。自分は、世をあれほども照らしていないのだから」


「上様、何を弱気な。三日月は満月の前の月でございます。上様は、国主たちを従え満月のような将軍となるのです。それに長尾、織田、と国を治める者たちが、上様を慕い上洛して来ているではありませんか」


「上洛してくる者たちは、将軍と言う名を利用したいだけであろう。畠山、細川、六角、三好といった畿内の国主たちと同じように、将軍を蔑ろにして自分たちに都合の良い政をしたいだけだ」

「よろしいではありませんか。国主どもは将軍家の権威を認めているのです。認めているから、上様を利用しようと画策する。それこそ好都合。上様、彼らの力を利用なされ、一つ一つ、将軍家が飲み込んでいくのです」


 義輝は、酒をあおろうとして、盃に映る己と目が合う。そして、しばらく己と見つめ合う。と、顔を上げて再び月を見た。

 夜の空、流れる雲、そして、三日月のほのかな明かり。


「藤英、礼を言うぞ。少し弱気になっていた。その方が言う通り、一つ一つ、事を成すしかない」

「礼などと、もったいなき御言葉」

「ならば、今を生き残らねばならぬな」


「今を生き残る?」


「気がつかぬか、藤英。先ほどから虫が鳴いておらぬだろう」

「虫が……上様!」


「良い。騒ぐでない」

「しかし」

 三淵藤英は、手持ちの太刀に手をかけて、不満を漏らす。そして、庭を見るも変わった所はない。

 虫の音がない他は。


 藤英は、いつでも太刀を抜けるよう、大声を出せるように身構える。


「さて、そろそろ出てこぬか。将軍を暗殺しにやって来たのであろう?」

 将軍足利義輝が、闇に問うた。


つづく

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