その後
あっという間に事件から三か月後。
私はやっとシオン君が購入してくれた新居での新しい生活に慣れ始めていた。
建物があまりにも大きいため、よく使う部屋以外はどんな部屋があるのか、未だにわかっていない。
私はアカデミーに通う資格を失ったので、来年アカデミーを受験するべく日々受験勉強に励んでいる。
両親へはシオン君が挨拶をする時にアカデミーの件を話してくれ、両親はミーアがしたいように……と受け入れてくれた。
来月祖父母に顔を見せに一度戻るので、今から楽しみで仕方がない。
アカデミーには通えなくなったけど、アカデミーで出会った友人達とは今でも時々交流はある。
特に仲が良かったカルドとヴィヴィとは、勉強会をしたり気分転換に遊んだりしていた。
今日もカルド達がお休みのためうちに遊びに来てくれるんだけど、なんと今回はイザベラさんも参加!
イザベラさんは私の護衛期間が終了した後、退魔士の仕事のためにムーランアグアへと戻ってしまった。
退魔士の仕事は世界中を飛び回ることも多く、なかなか彼女と会うことが出来ない。
でも、今日は久しぶりにイザベラさんが来てくれることに。
――何かお手伝いすることはあるかな?
私は目の前に立っている水色の扉をノックして、取っ手へと手を伸ばして引けば室内の風景が広がった。
入ってすぐに銀色のキッチン台があり、アゲナさんが立っている。
台の上には小麦粉やココアパウダーなどが置いてあり、彼は泡だて器とボウルを手にしていた。
室内は甘い香りに包まれ、ほっと心が落ち着いていく。
「アゲナさん。掃除が終わったので、こちらをお手伝いしましょうか?」
アゲナさんは訪問してくれるカルド達のために、お茶のお供にクッキーなどのお菓子を作ってくれるそうだ。
魔族ってこんなにも家事が万能なんだなぁと感心するくらいに、彼は掃除も料理も完ぺきにこなしてくれている。
最近は主婦仲間が出来たようでお茶会などにも積極的に参加し、教えて貰った新しい料理をお披露目してくれていた。
勿論、私もお手伝いをしているけど、うちの家事はほとんど彼がしてくれている。
「手伝いはいいから、ミーアは部屋で勉強していろ。お前の傍にいるやつの圧力が怖いし」
「すみません……アレス君、威嚇しちゃだめだってば」
私は後ろから抱きしめているシオン君……ではなく、アレス君へと声を掛ければ、「威嚇なんてしてないよ」という返事が。
アレス君はシオンという偽名から本名に戻った。それと同時に髪色などの容姿も本来の彼に戻ったため、私が見慣れていたシオン君の時とは全く違う。
最初はなかなか慣れなかったけど、今ではアレス君という本名での呼び方も馴染んでいた。
「今日はイザベラさんも来てくれるんだよね? いっぱい話したいことがあるの」
「来る。早く出世するって意気込んで仕事をいっぱい入れていたけど、長期休みを取ったからゆっくり出来ると思う」
「久しぶりに会うからすごく楽しみ。うちに泊ってくれるの?」
「泊る予定だ。カルド達にも外泊許可貰うように言っておけばよかったな」
「ちょっと待て! あの大食い女が泊っていくのか!? 俺一人では料理が間に合わないぞ」
アゲナさんは手を止めると、叫ぶように告げた。
「私も手伝いますよ。料理が好きなので」
「いいよ。お前、久しぶりにあの退魔士と会うんだろ?」
「一人では大変なので、お手伝いします」
「でもなぁ……」
「大丈夫ですよ」
「別に全部作らなくても、買ってくれば良いんじゃないか?」
アレス君の言葉に、アゲナさんが頷く。
「だよな。じゃあ、問題解決だ。客が来たら教えるから、それまで勉強の続きしてこいよ。後でお茶持って行くから」
「ありがとうございます、アゲナさん。お言葉に甘えて勉強してきますね。アレス君、勉強見てくれる?」
「勿論」
「おい。ミーアの勉強の邪魔をするなよ? お前、すぐいちゃつこうとするから」
「……」
「無言はやめろ。いいか、ミーアは受験生なんだからな」
「言われずとも勉強中は自重している」
確かに勉強中はそっとしてくれるし、わからないところなどはわかりやすく教えてくれる。
アゲナさんもお茶や夜食の差し入れなどをして応援してくれている上に、家事なども全てやってくれていた。
二人に支えられながら、私は来年の入学を目指して勉強している。
予知夢の通りに死亡フラグは全て回収しちゃったけど、私は色々な人に助けて貰って無事生きている。
まだ心の中にもやもやとした思いはあり、それはなかなか晴れないけど、アレス君達に出会ったのはあの件があったからというのははっきりしていた。
結ばれた縁を大切にし、これからは平穏な生活を送りながら、大好きな人達と過ごして行きたいと思った。




