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真相解明

「やっぱり……」

 想像通り彼だったため、私はつい呟いてしまう。

 青年は白いワイシャツに黒のズボンを着用していて、エプロンを付けていた。

 髪は一つに纏め、手にモップを持っている。

 夢と同じように彼はこの家で使用人をやってくれているようだ。


「雑用係だ。俺は優しいから罪を償うチャンスを与えてやっている。大丈夫だよ、ミーア。こいつは俺とミーアには絶対服従だから」

「シ、シオン君。雇用条件ちゃんとしてあげてね」

「雇用契約書も結んでいるよ」

「何が雇用契約書だよ。奴隷契約書じゃねーか! 年間休日数が0で残業代0、給与0、勤務時間永遠ってふざけすぎだろ」

「……だよね」

 彼の雇用条件は夢と同じままだった。


「私もお手伝いします。実家で掃除も料理もやっていましたから」

 私が申し出れば、青年が困惑した表情をする。


「いや……その……悪かった」

 青年は瞳を揺らしつつぽつりと口にしたため、私は目を大きく見開いてしまう。


「呼び出されて生贄に差し出されたお前の魂が旨そうだったから、つい憑いてしまったんだ」

「悪かったの一言で許されると思っているのか。素晴らしく頭が悪いな」

「お前、俺にも優しさ分けろよ」

 シオン君は青年の声を無視すると、私の頭を撫でた。


「シオン君も来年一緒にアカデミーに通えるの?」

「ごめん、ミーア。仕事辞めてミーアとアカデミー生活を送りたかったんだけど、師匠とゴルジュ公爵から止められたんだ。居住はここで構わないから、仕事だけは辞められると困るって」

「そりゃあ、そうだろ。お前、白銀の退魔士だぞ。魔族の中でも噂は広まっているし、次期総帥じゃん。魔族に悩まされている連中からは、直接指名入るだろうし」

「誰のせいで忙しいと思っているんだよ。そもそも魂なんて喰わなくても生きていけるだろうが」

「俺達だって美味しいおやつがあれば食欲わくって。巫女の魂は特に上物扱いだ」

「ミーアを食べる権利があるのは俺だけだ」

「シオン君も魔族なの?」

「違うよ、ミーア。食べるっていうのはそっちの食べるじゃなくてこっち」

 シオン君は私の頬やこめかみに口づけを落とすと、最後に唇を塞いだため、やっと意味がわかった。

 彼が離れると私は両手で顔を覆ってしまう。


「おい、俺もいるんだけどっ!?」

「だったらなんだ。俺とミーアは恋人同士でここは俺達の家だ。いちゃついて文句言われる筋合いはない。そのために買ったんだ。寮だといちゃつけない」

「え。もしかして、いちゃついているを見せられるのも俺に課せられた罰なのか?」

「ミーア。何か食べたいものある? 作るよ」

「俺がだろ」

 青年が深く嘆息を吐き出せば、「ジリリリッ」と壁に設置されているベルの音が部屋に響き渡る。

 来客かな? と首を傾げていると、青年が扉の方へと向かって行った。

 どうやら応対をしてくれるらしい。


「シオン君。休みなしとかは厳しいって思うの」

「せっかく二人きりになったのに、あいつの話?」

 むすっとわかりやすく顔に出したシオン君に対して、私は笑いが込み上げてきた。まるで子供の様に拗ねていたから。

 私は真っ直ぐ彼の瞳を見ると、唇を開く。


「シオン君。キスしてもいい?」

「ミーア!?」

 裏返った声が届き、私はシオン君も慌てるんだなと思った。

 またいつあんな事が起こるかわからないから、毎日後悔せずに充実するように過ごしたい。

 だから、ちゃんとシオン君のことが大好きだよと彼に伝えたいのだ。


「目閉じて」

 私の言葉にシオン君が素直に長い睫毛を伏せさせたので、手を伸ばして彼の頬に触れる。

 私が少し腰を浮かせれば、スプリングの軋む音が耳に届く。

 ゆっくりと彼の端正な顔に自分の顔をゆっくりと近づけていき、もう少しで唇同士が触れあうという瞬間、バンッと乱暴に部屋の扉が開く音が響き渡り、私は彼から身を離してしまう。


「おい、大変なんだよ」

 慌てて入って来たのは、魔族の青年だった。


「――お前、ふざけているのか?」

 シオン君が振り返って唸る様に口にすれば、青年は「それどころじゃないって!」と叫ぶ。

 だが、シオン君は「それどころ?」と目を細めると、立ち上がって青年の元へと向かう。

 そして腕を伸ばして襟元を掴むと唇を開く。


「ミーアからキスしてくれるのがそれどころ扱いか」

「いや、俺はそういう事を言いたかったわけじゃなくて……」

 機嫌の悪いシオン君の様子に対して、青年は視線を彷徨わせている。


 とめなきゃ! と思った私は咄嗟に尋ねた。


「あの……どうかしたんですか……?」

「来客が来たんだが、お前の事を毒殺しようとした犯人なんだよ。あとテシス王子、ミーアの両親もいる。一応、玄関で待っていて貰っているけど、どうする?」

「ミーアの両親は応接の間に案内しろ。他は別に放置しておけ。今更、どの面を下げてきたんだ。王妃に反対されて逆恨みでミーアを殺そうとしたなんて」

 シオン君が吐き捨てるように言ったので、なんとなく犯人を察してしまった。


「私を殺そうとしたのは、バイオレット様なんですね?」

「追い返すから心配いらないよ」

「会ってお話を伺いたいです。えっと……お名前は……?」

 私が魔族の青年へ声を掛ければ、「アゲナ」だと教えてくれた。


「アゲナさん、私を案内して貰っても良いですか?」

「構わないけど良いのかよ。俺が言える立場じゃないけど、あいつはお前のことを殺そうとしたんだぞ? また何かあったら……」

「大丈夫です。シオン君が一緒に居てくれますから。ねっ?」

 シオン君は一瞬きょとんとしたけど、顔をくしゃくしゃにして笑うと「いいよ」と了承してくれた。

 一人では怖いけど、シオン君が一緒にいてくれたら心強い。


「ありがとう」

「ミーアに頼られて嬉しいよ。じゃあ、ミーアの両親を応接の間に。テシス王子達は別室へと連れていってくれ」

「まぁ、お前らがいいならいいけどさ」

 アゲナさんは頷くと、扉の奥へと消えて行った。





 +

 +

 +




 私とシオン君は寝室があった二階から一階にやって来ていた。

 学校の廊下かな? というくらいに長い廊下には、毛足の長い絨毯が敷かれ、足元がふかふかする。

 窓から窺えるのは、手入れが整った庭と家庭菜園が出来そうな畑だ。


「ついたよ。ここが応接室」

 シオン君に連れて来て貰ったのは、二枚扉の部屋だった。

 彼がノックをして扉を開けてくれたので、部屋と廊下を隔てるものがなくなったので視界が開ける。


 室内には窓から差し込めている光が差し込んできて、温かく部屋を包み込んでくれていた。

 部屋の中央には半円を描くようにソファ、それからテーブルがあり、壁側には暖炉や飾り棚などの家具類も設置されている。


「テシス様、バイオレット様」

 ソファには彼らが座っていた。

 テシス様は顔色の悪いバイオレット様の肩に手を添え、彼女を見詰めながら気遣っている。

 二人は私達の姿を捉えると、立ち上がり深々と一礼をした。


 私達の前にあるテーブルの上には、アゲナさんがケーキや入れたての紅茶を並べてくれている。

 来客をもてなす準備が出来ているところをみると、どうやらこの屋敷はもう生活できる環境が揃っているようだ。


「ミーア様、申し訳ありません。償いきれないことをしてしまいました」

「すまない。全部俺が不甲斐ないのが原因なんだ。母上のことを止められなかったから……」

 テシス様とバイオレット様が深々と頭を下げた。


「テシス様は悪くありません。罪を背負うのは私です」

「いや、俺もだよ。バイオレットの様子がおかしいことに気づいていたけど、あんなに追い詰めていたなんて気づかなかったんだ。母上が俺とミーアを結婚させるために、バイオレットの屋敷に毎日通って俺と別れさせようと意地の悪い台詞を……彼女を追いつめてしまったんだ」

「随分浅はかだよな。ミーアさえ消えてしまえば解決すると思うなんて」

 シオン君のばっさりとした一撃を受け、バイオレット様が両手で顔を覆って泣き出してしまう。

 毎日王妃様が家に突撃訪問してグチグチと文句を言われたら、ノイローゼに近くなってしまうのも理解出来る。


「本当に申し訳ない。全部俺のせいなんだ。ミーアに魔族が憑りついたのも全部」

「テシス様が?」

「あぁ、俺のせいだ。俺が子供の頃に体が弱かったのを知っているだろ? 母上にとって俺はあの頃のままなんだ。守らなきゃいけない小さな俺なんだよ。だから、俺を守るためにミーアに魔族を憑けたんだ」

「どういうことですか?」

 首を傾げていると、傍で控えていたアゲナさんが説明してくれた。


「魔族は自分で獲物を選んで憑く場合と、召喚されて相手に憑く場合があるんだ。召喚する場合は魔族が持つ強い魔力を目当てにしている。自分の体に寄生させ巨大な魔力を手に入れるってやつだな。そいつの母親は俺を召喚して、ミーアに憑りつくように命じたんだよ。普通の人間ならば殺していたが、魂がこれまた上質だったからさ」

「母上は俺を守るために予知夢が視られるミーアに魔法が使えるように魔族を憑けたんだ。予知夢と魔力で二重に俺を守れるように」

 テシス様とアゲナさんの説明でぼんやりとだけれども、事情を把握することが出来た。

 王妃様は王妃様の思いがあったのかもしれないけど、周りを振り回し過ぎているから迷惑極まりない。

 ただ、心情を察することは出来るけれども……


「父上と母上は兄上によって追放され、兄上が国王に即位することになった。父上達は一生幽閉される。兄上が近々ミーアの元へ謝罪に訪れるそうだ」

「幽閉ですか……?」

「あぁ、色々議論されて決定された。バイオレットの件に関しては議論中だ。今は逃亡の意志がないと判断され、見張り付きである程度は自由にさせて貰っている。俺もバイオレットと共に罪を償うつもりだ。王位継承権は放棄し、バイオレットと共に罪を償うつもりだと兄上には伝えてある。本当にこの度は申し訳ないことをした」

「生温いな」

 腕を組んでソファに凭れ掛かっているシオン君は、テシス様達を見ながら吐き捨てるように告げた。


「あの場に俺達が居なかったらミーアは死んでいたんだぞ? ミーアが予知夢を視ることができたから事前にこちらで計画を立て死を回避でしたんだ。俺からミーアを奪っていたら、国ごと滅ぼして俺もミーアの後を追っていた」

「お前なら出来るから怖ぇよ。最強の退魔士は俺以外にも魔族を使役しているから、国なんて簡単に消せるし」

「本当に申し訳ない」

「許すとは気軽に言えませんが、事情は理解出来ました」

 この事件がなければ、シオン君やイザベラさん達に出会えなかったから、悪い事ばかりではなかった。

 死ななかったからそういうことが思えるんだろうけど。


 私は隣にいるシオン君へと腕を伸ばす。

 彼が膝の上に添えている手に触れ、握りしめてくれた。


「きちんと反省して二度と同じ過ちを繰り返さないで下さい。約束して頂けるのでしたら、私に対しての謝罪はもう不要です」

「ありがとうございます、ミーア様」

 バイオレット様が頭を下げれば、テシス様も深々と頭を下げる。

 二人がこれからどんな道を歩くのかはわからないけど、新しい国王様達が諸般の事情を鑑みて下さることを切に願った。






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