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師匠

(シオン視点)


 ミーアに憑いている魔族によって貴族の館を支配していた魔族は全て捕食されてしまった。

 きっと全てアカデミーの狙い通りだったのだろう。

 ミッションと言っているけど、実際の正式なミッションは次に指令が下されるはずだ。

 中級魔族を討伐するなんてアカデミーの一年生にやらせる課題ではない。


 ミッションが終わった後、俺達は王都へと戻った。

 ミーア達は少し王都でお茶をして帰ろうと言っていたが、俺は断るとアカデミーへと真っ直ぐ向かう。


 すっかりと体に馴染んだアカデミーの廊下を駆けて、理事長室へと向かって行く。

 勿論、今日のミッションについて抗議をするためだ。

 まさか上級までいるなんて事前に聞いていなかった。


 理事長や学園と繋がっている協会に対する苛立ちが抑えきれず唇を噛みしめる。

 こんなに感情が波打つなんて初めての事だし、自分らしくないと自覚しているけど、ミーアのことに関すると俺は正常ではいられなくなるのだ。


 ミーアに宿る魔族に捕食させ、貴族邸に巣食う魔族を消滅させる。

 確かに合理的だし、一番手っ取り早くけが人も出ない。

 俺もミーアが対象者でなければ納得していた。


「おー、シオンじゃないか。早かったな」

 もうすぐ理事長室だという時に後方から呑気な担任の声が届いてので、俺は振り返り彼を瞳に捉えると腕を伸ばして胸ぐらを掴む。


「お前も知っていたんだろ?」

「やっぱり怒っちゃうよねー。俺も一応担任として意見を出させて貰ったんだよ。でもさ、今回の対処方法が一番怪我人を出さずに済むから最善だって言われて……」

 眉を下げたまま申し訳なさそうにしている担任を見て、俺は舌打ちをして手を離す。


「ミーアに憑いている魔族は、寄生型パラサイトでも力が上の方だ。憑いている年数も長く、前例がないから対処の方法もわからない。何が起こるかわからないんだぞ」

「俺も理事長もちゃんと先輩から聞いているよ」

「……やっぱり協会が絡んでいるのか」

「それは聞いてみたらいいんじゃないかな」

 担任が左手に広がる中庭へと顔を向ければ、噴水の縁に座りながら片手を上げている男の姿が窺える。

 俺の退魔士の師匠であると同時に、拾ってくれた恩人。

 いつもは協会にいるのに、どうしてアカデミーにいるのだろうか。


「おー、アレス。久しぶり! 元気していたか? 今回の件は悪かった。お前がアカデミーに入学して仕事が山積みになって困っていたんだよ。だから、アカデミーの初試験で引き受けて貰った」

「どういうつもりですか? ミーアの事を知っているでしょう」

「これが最善だって、お前もわかっているだろ? お前だって俺と同じ立場ならそうした」

「それは……」

 師匠の言葉に対して、俺は俯く。


 わかっている。だが、俺はミーアを危険なめに合わせたくはなかった。

 ぐっと掌を握れば、彼女の姿が頭に浮かぶ。


「悪かったな」

 黒い感情に塗りつぶされかけていると、ポンと頭上に大きな手が触れ、霧が晴れていくかのようにすっと黒い感情が消えていく。

 七歳の頃にスラム街から師匠に救いだして貰い、独り立ちして退魔士にもなれたから感謝している。

 親なんて知らないけど、俺にとっての親は師匠だ。


「一応レファと一緒に色々案を出したけどさ。やっぱりそれ以上最善な話が思いつかなかったんだ」

「ゴルジュ公爵ともですか……? 珍しいですね」

「あぁ、そうなんだ。対象者がアレスの好きな子だからさ」

「ちょっと待って、先輩っ! それうちのクラスの子達も黙って見守っている事なんですけどっ!? こういうのは自分で気づかないと駄目でしょう!」

「は?」

 師匠がきょとんとして俺を見ている。

 だが、俺も師匠と同じ表情をしているだろう。


「好きな子……?」

 俺の呟きに、師匠が「おい、まさか自覚なかったのか!」と叫んだ。


「彼女の笑顔をずっと見ていたいと思う事や、抱きしめたいと思うのは好きだからですか?」

「おい、デルフィーノ。一体、授業で何を教えているんだ?」

「魔術課なので魔術ですって」

「そうだよなぁ」

「そうですって」

 師匠と担任は顔を見合せながら頷き合っている。


 好きという感情はこういうものなのだろうか。

 わからない。

 師匠に拾われる前に愛情というものを教えて貰えなかったから、どういうものが愛情と呼べるものなのだろうか。


「師匠の話を聞くと、俺はミーアの事が好きなんですね。彼女が居なくなるのが耐えられなくて苦しいのも愛情なんですか? ミーアが居なくなってしまうと考えると胸が痛くなって耐えられなくなるのも。痛みには強いはずなんですが……」

「そりゃあ、そうだろ。好きなんだから」

「そうですか。もし、彼女が居なくなったらこの世界を滅ぼしてやると思っているのも好きだからなんですね」

「ちょっと待って! 今、物騒なことが聞こえたんだけどっ!? 俺の生徒の恋愛観に歪みが。どう指導したら良いの?」

 俺の両肩に担任が手を掛けると前後に揺さぶったため、視界が定まらなかったけど、師匠が苦笑いを浮かべて担任を俺から離してくれた。


「……まぁ、アレスなら可能だろうな。『星の名を持つ寄生型パラサイト魔族』を二体持っているから」

「星の名を持つ寄生型ってなんですか、先輩」

「魔族の位階。上位の者は星の名前を持っている。ミーアに憑いている者も星の名を持っているはずだ」

「もしかして、シオンも魔族憑きなのか?」

 担任の言葉に、俺は首を左右に振る。


「俺は魔族を使い魔にしているだけです」

「魔族って使い魔に出来るの!?」

「アレスが最強の退魔士と呼ばれている由来だ。上位の寄生型の魔族を服従させ契約させるなんて普通の退魔士では出来ない。俺でも一体だけ。なんせ、契約中は自分の魔力を鎖として相手を縛ることになっているから」

「先輩、ちょっと意味がわからない。どういう意味?」

「魔力で出来た鎖で相手を縛っているということだな。毎日ずっとマグカップをぎゅっと握っている状態。常に力を込めているというか……ずっと魔力を流しっぱなしにしているってことだな」

「あー、魔力流しっぱなしは辛いわ。例えるならば、寝ずにずっとしゃべりっぱなしってことだよね」

「そういうことだ」

「アレスの魔力が底なしだから出来るんだよ。生まれ持った退魔士の素質があるんだ。ゆくゆくは俺の後を継いで全ての退魔士の頂点に立つだろう」

 時々、ゴルジュ公爵や周りからも言われるが、俺には全く興味がない。

 俺はこれしか生きるすべが無かったから退魔士をやっていただけであって、イザベラのように退魔士に憧れて職に就きましたというわけではないのだ。


「寄生型魔族を使い魔に出来るって流石は最強の白銀の退魔士! じゃあ、ミーアに憑いているのも簡単に祓えるね」

「それがそうとも限らないんだよ。シオンが魔族を使い魔にしたのは、人に寄生していない時。または、宿主から離れた時だ」

「離れた時って……もしかして、宿主が死んだ時……?」

「そうですが、仮死状態の時も該当します。退魔士は、宿主を特別な薬を使用して仮死状態にして祓うんですよ」

「あぁ、聞いたことがある。少数民族が儀式で仮死状態にする薬を使用しているって。それと同じかい?」

「調合は違うと思いますけど」

「へー」

「宿主が死んだ状態にしないと宿主の魂から寄生型魔族は離れないんです。ただ、いくら仮死状態にしても、長時間は絶対に無理ですね。短時間で魔族を祓わなければなりません」

 そのため、退魔士は一人では行動せず、必ず複数で行動を共にする。

 一人が宿主の保護、もう一人が祓う者に分かれるためだ。


 今回、もしミーアを祓うことになったら俺はイザベラと祓う予定になっている。

 イザベラは俺の直接の部下であり、何度も一緒に仕事をしているので信頼している。


「祓うのに失敗した場合と、寄生に気づかなかった場合は命を落とす。ミーアの場合は寄生時間が長すぎる。ミーアの魂が魔族の支配を完全に拒絶しているから時間がかかっているんだろうな。大抵の魔族ならば諦めて次の獲物を探すんだが、ミーアに憑いているのはしつこい」

「そりゃあ、魔族にとって魂というのはご飯だからじゃないの?」

「ご飯っていうよりはデザートだな。寄生型は魔力を補えればよいだけだから、魂を喰わなければならないという特別な理由はない。ただ、美味しいデザートがそこにあるからってだけ」

「なら、早くミーアを祓ってあげてよ。先輩」

「ミーア嬢の件は、簡単なものじゃないんだ。彼女は身近な誰かに魔族を強制的に憑かされたんだよ。しかも、本人の気づかぬうちにな。今回祓ってもまた憑かれたら同じことの繰り返しだ。だから、誰がなんの目的で彼女へ魔族を憑けたのか調査することにしたんだ」

「え、何それ。人間が一番怖かったパターンじゃん。誰だよ、一体」

 担任が眉を吊り上げながら、厳しい口調で告げる。


「わからん。だが、ミーアは城で倒れてから魔力が開花したらしいので城の人間だろうな。テシス王子との結婚話もきな臭い。彼女には捜査のために、アカデミーに入学して貰ったんだよ。寄生時間が長いから、どうなるかわからないから最後の思いでも兼ねて」

「ミーアは絶対に俺が死なせない」

「そうだな」

 師匠は俺の肩を叩いた。


 ――ミーアに憑いている魔族は俺が必ず祓う。そして、彼女に憑いた事を必ず後悔させてやる。


 いつの間にか掌をきつく握りしめていたせいか、掌に爪が食い込む感触がしたため右手へと視線を向ける。

 すると、やはり強く握りしめていたため、手の色が少し変わってしまっていた。


 ミーアに魔族を憑かせた相手は、彼女を殺そうとしているのか、それとも利用しようとしているのか。

 魔族を他人に強制的に憑かせるなんて今まで聞いたことがない。

 ほとんどは、魔族に魂という対価を支払い、己の体に寄生させ巨大な魔力を手に入れようとする場合が多いからだ。


「まぁ、アレス。しばらくは、ミーア嬢と共に学園生活楽しめ。ずっと働きっぱなしだったし休め」

「先輩の言う通りだよ。ミーアのことが好きだって気づいたんだし、どうせなら学園ラブ楽しみなって。あっ、そうだ。穴場教えてあげようか? 旧魔術図書館」

「旧魔術図書館って黒煉瓦造りの建物ですか?」

「そうそこ。人があまり来ないから恋人同士の逢引場所になっているんだ。時々、先生と風紀委員が風紀を乱す者がいないか確かめに行くから、節度を持ったいちゃいちゃ生活をしろなー。風紀を乱すと退学になっちゃうからさ」

「お前。親代わりの俺がいる前で、何をアドバイスしているんだ……」

 師匠の呆れかえった声が広がった。







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